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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
神泉七女神の湯
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第161話 スニークマンショー

「注目を集める私は、落ち着いた姿を見せておきます。その間に……任せましたよ?」

 王女はにっこり微笑んでそう言った。実に良い笑顔だった。

 要するに王女が囮になっている間に、城に潜入してきてほしいという事か。

 親衛隊の少女達がテキパキとテントを張り始める。手慣れた様子だ。

 なるほど、人目の有るところでは話せないという事か。周りを見てみると、町の人達が何事かとこちらを見ている。俺達が城に入らないので不思議に思っているのだろう。

 王女に伴われてテントに入った。ここなら大きな声でも出さない限り大丈夫なはずだ。

 時間は掛けない方が良いだろう。早速一番大事な事を尋ねる。

「それで、城内の聖王様と接触してこいという事だと思いますけど、城に入るルートはあるんですか?」

「教えます。他言しないでくださいね? 後で使えないようにしておきますけど」

 どういうルートを教えてくれるのだろうか。いや、それよりも、どうして王女がそんなものを知っているのだろうか。

「もしかして、王族用の秘密の抜け道ですか?」

「流石にそんなものは教えられませんよ……私専用の抜け道です」

 王女専用ってなんだ。もしやこの王女、密かに城を抜け出していた事があるのか。

 ふとリコットの方を見てみると、彼女は虚ろな表情で遠い目をしていた。彼女の過去に一体何があったのやら。いや、想像つくけど。

「ハハハ、フランチェリスはお転婆だなぁ」

 そうなんだけど、そういう問題じゃないぞ、コスモス。

 それはともかく、王女はさらさらっと何かを書き、大きなハンコを押して渡してきた。どうやら城に入って王と接触せよという命令書のようだ。

「それがあれば抜け道に入る事ができますし、城に潜入しても咎められません……が、どこまで通じるかも分かりませんので、過信はしないでください」

「王子の影響力次第という事ですね」

 王女はコクリと頷いた。これはあくまで保険、基本的には見つからないようにしながら進んだ方が良さそうだな。

 まぁ、これがあれば俺達は「王女の密使」であって「城に忍び込んだ盗賊」ではなくなる。それだけでもありがたい話だった。

 同時に穏便に事を進めてほしいという事でもあるのだろう。こちらとしても過激な事をしたい訳ではないので安心してほしい。


 さて、こうなると誰を連れて行くかだ。

 テントを出た俺達は、集まって潜入メンバーを考える。

「ここは自分が!」

「いや、ルリトラは流石に目立ち過ぎる」

 真っ先に護衛として付いて行くと言ってきたルリトラだったが、残念ながらルリトラは大き過ぎる。彼を連れての潜入はかえって危険になってしまうだろう。

「逆にルリトラは、こっちで目立っててくれ。俺がいないとバレないように」

「そういう事ならば……」

 俺はルリトラと二人で聖王都から旅立った。神殿にいた頃から目立っていたし、ユピテルではそれなりに知られているはずだ。

「私は……行った方が良さそうですね」

「お願い。春乃さんの力が必要になるだろうから」

 逆に城内でこそ必要となるのは春乃さん。彼女は嘘を見抜くのが上手い。

「私も行くわ。場合によっては魔王の事を説明する必要があるかもしれないし」

 クレナも来るという事で、ロニ、ブラムス、メムも来る事になる。ブラムスとメムは特に潜入に長けているのでありがたい。

「デイジィも来てくれ」

「あいよー」

 このメンバーに、小さな身体で空も飛べるデイジィも加えた。

 他の面々は、潜入に向いていないため残ってもらおう。雪菜が自分も空を飛べると食い下がってきたが、雪菜は大きくて目立ってしまうためアウトである。


 という訳で、メンバーが決まったところで秘密のルートへ。

 王女が教えてくれたのは、城内へ水を引くための水路だった。メンテナンスのためか両脇に人が歩ける通路がある。

 物陰になっていてかなり分かりにくい場所になっている。リコットの案内が無ければ見つからずに迷っていたかもしれない。

 流石に番兵がいたが、そこはリコットが少し話をすると、すぐに通してくれた。なんというか、どちらも手慣れている気がする。

 おそらく王女が、このルートを度々利用していたのだろう。しかし、リコットも番兵も疲れた顔をしていたので、それについては深く聞かない方が良さそうだ。

「王女殿下の要請なので通しますが……」

 番兵の方も、気が進まない様子だ。王女の密使とはいえ、ここで通してしまえば自分の責任になりかねないからだろう。

「それなら、ここで殴り倒された事にして眠ったフリでもしときます?」

「……いえ、その間に他の者が潜入しようとしてきても困りますので」

 こちらが強引に潜入した事にしようかと提案したが、どうやら番兵としての使命感の方が勝ったようだ。

「あの、せっかくだから聞いておきたいんですけど……今、お城の中ってどうなってるんですか? 王女様も入るのを止められたんですけど」

 春乃さんが尋ねたが、番兵の男は困ったような顔をする。

「俺も普段から城に入る訳じゃないから詳しくはないんだが……聖王陛下がご病気だって噂は聞いた事がある。だから今は王子が取り仕切っているって」

「噂……神官が呼ばれたとか?」

「司祭が何度か呼ばれてるらしい。俺も城門前で一度見掛けた事がある」

「司祭が?」

 クレナが怪訝そうな顔をした。

「王様が病気なら、それこそ国一番の神官を呼ぶはずよ」

「……そうか、呼ぶなら神殿長か」

 にも拘らず司祭を呼ぶ。そこに何か理由があるはずだ。

「その、あの方は、フランチェリス様と懇意ですので……」

 口を挟んできたのはリコット。そこから導き出されるのは……。

「つまり司祭を呼んだのは聖王陛下ではなく、王子殿下という事ですね」

 ロニがまとめてくれた。その可能性が高いだろうな。こうなってくると、聖王は病気ではなく、幽閉されてるだけの可能性が浮かんでくる。

 司祭を呼んでいるのは、聖王が姿を現さないのは病気だからだと思わせるためか。

 俺達は、番兵にお礼を言って水路に入った。リコットの案内はここまでだ。

 中は足元がじめじめして、空気がひんやりしている。臭いとは感じない。これは水の匂いだろうか。水路の水も透き通っている。

 壁や天井は飾り気が無いが、苔なども無くきれいだ。

 どことなくだが、下の水路を見なければハデスの地下道に似ている気がする。同じ頃に造られたものなのだろうか。

 一歩進んでみると、水音が鳴った。小さいが、水路の中ではよく響く。これは慎重に進んだ方が良さそうだ。

「デイジィ、先行してくれ」

「……見捨てて逃げるなよ?」

「誰が逃げるか。むしろ助けるわ」

 穏便に事を進めるつもりだが、味方を犠牲にしてまでとは考えていないからな。

 するとデイジィはチラチラとこちらを見ながら飛んで行った。あまり離れたくないようで、度々こちらを振り返って距離を確認してくる。

 俺達も離れ過ぎないように歩みを進めていくが、足元に罠が仕掛けられている可能性もあるのでロニ達に確認してもらいながら進んで行かなければならない。

 デイジィだけでなく、こちらも気を付けるしかないだろう。


 そのまま進む事しばし。アイコンタクトで確認し合っているものの会話もほとんど無いため、時折天井から水路に落ちる水滴の音がやけに響く。

 交差点に差し掛かったところで、デイジィが急に方向転換し慌てて戻ってきた。

「来た来た、角の向こうにいる、三人!」

 そして俺の頭に飛びつき、耳元で小さく、しかし鋭い口調で報告してくる。

「よし、隠れるぞ」

 といっても一本道の水路。隠れられそうな場所は水の中しかない。普通ならば。

 しかしここは慌てず騒がず、『無限バスルーム』の扉を開ける。皆も心得たもので何か言う前に中に飛び込んだ。

 角の向こう側から足音だけでなく話し声も聞こえてきた。だが、遅い。最後に俺とデイジィも中に入って扉を閉めた。これで外側の扉は消える。

「これで向こうには分からなくなるはずだ」

「今更だけど、反則だよな~」

 そう言ってデイジィはケラケラと笑った。

 その後、屋内露天風呂で外を確認し、兵達が何事もなく通り過ぎて行った事を確認。

 兵の姿も確認できたが、城に仕えているユピテルの兵のようだ。町の巡回兵よりも立派な装備をしている。

 ついでに水路全体を確認してみたところ、もう一組兵達がいる事が分かった。

 だが、これで大体の場所は分かった。同じようにデイジィに先行してもらい、兵が近付いてくれば『無限バスルーム』でやり過ごす。

 そして水路を突破。城内の庭園に出るようなので、ここでもう一度『無限バスルーム』に入る。今度は屋内露天風呂で城内を調べてみるのだ。

「春乃さん、城の中ってどれぐらい覚えてる?」

「実は、あまり……」

「俺も謁見の間ぐらいしか覚えてないんだよなぁ……」

 俺達は神殿に滞在していたので、こればかりは仕方がない。

 ひとまず謁見の間から見て、そこを起点に探して行く事にする。聖王の部屋があるとすれば、おそらくそこよりも更に奥だ。

 屋内露天風呂の映像を操作し、謁見の間を映す。

 へパイストスのそれに負けていない大きく立派な部屋。玉座の手前の赤絨毯。大きな金糸の刺繍が懐かしい。

 まだ昼間だからか多くの人が謁見の間にいた。王女が城門前にいる事も報告されているのかもしれない。

 玉座には聖王ではなく若い男が座っている。金色の長い髪を中央で分けている。額はやや広めで透き通るような色白の肌をしていた。

 どことなく王女に似た、知性を感じさせる顔立ち。いや、この男の方が目付きが鋭いだろうか。良く言えばクール、悪く言えば冷たさを感じさせる。

 その男はゆったりとした、豪華な白いローブに身を包んでいる。悠然と玉座に座っている。彼の前に十人の男達が跪いていた。

 聖王のような力強さは感じない。しかし、威圧感を感じる。

 初めて見る顔だが、ハッキリと分かった。彼こそがユピテルの王子であると。

 今回のタイトルの元ネタは、コメディ・ユニット「スネークマンショー」です。

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