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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
神泉七女神の湯
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第157話 はじめて(じゃないけど)のチュウ

 ヘパイストス・ポリスにシャコバとマークを送っていく件について長老に話してみたところ、三人の戦士を派遣してくれる事になった。

 他国に行くという事でベテランが一人。残り二人の若い戦士の内、一人はシャコバ達をまとめて背中に乗せられそうな大柄な戦士だった。

 大柄な戦士がシャコバ達を乗せ、残りの二人が周囲を守りながらヘパイストスまで駆け抜けるらしい。

「――という訳で、五人分の保存食を準備してほしい」

「分かりました。ケトルト二人に、サンド・リザードマン三人ですね」

 ロニに頼み、その日の内に準備を済ませて、今夜は広場に面した建物で休む。MPを回復させないといけないので就寝時間は早めだ。

 ここにはまだスケルトンなどがいるのだろうが、そこはトラノオ族を信用しよう。

「心安らかに休まないといけませんよ~」

 ラクティにそう言われた結果、「ならば誰と一緒に寝るのが心安らぐか?」で真剣な話し合いになったのはご愛敬である。

 今夜はいつもの天守閣のベッドのように皆一緒という訳にはいかないのだから、仕方がない……のだろうか?

「ここは私とロニが両隣りに……!」

「いえいえ、ここは私とセーラさん……は恥ずかしそうだから、リウムちゃんとで!」

 積極的なのは春乃さんとクレナ。ロニとリウムも乗り気のようだ。セーラさんは、流石に真横で引っ付いて寝るのは恥ずかしいらしい。

「お兄ちゃん、昔みたいに一緒に寝よっ♪」

 更に雪菜が立候補してきて、プラエちゃんも入浴時のように自分の上にと誘ってくる。そしてリンもノリノリでルミスとサンドラを巻き込もうとし始めた。

「どうすんだよ、これ」

 その騒ぎを見て、頭の上から呆れた声を投げかけてきたのはデイジィ。確かにこのままでは収まりそうにないな。ここは他ならぬ俺が決断を下さなくてはならないだろう。

「私でいいんですか?」

 という訳で、今夜はラクティと一緒に寝る事になった。一番安らぎそうだからだ。

 クレナ達はがっかりした様子だったが、騒ぎ過ぎていた事も自覚しているようだ。

 皆の気持ちもうれしいし、一緒に寝られなくて惜しいと感じているのは確かだが……。

「お兄ちゃん、せめておやすみのちゅぅ~」

「そんな声、出さなくてもいいから」

 いつもは頬にキスをするだけだが、今日は皆への感謝の気持ちも込めてハグも追加だ。

 これは生前の雪菜としていた挨拶だったのだが、雪菜と再会してこちらでもするようになったところ、クレナ、春乃さん、リウムちゃんも乗ってきたのだ。

 そこにプラエちゃんが加わり、面白がってデイジィとリンが加わり、皆がやるならばとロニとルミスが加わり、最後にセーラさん、サンドラが恥ずかしがりつつ加わった。

 今では俺が皆の頬にキスをし、キスをされるのが毎晩のおやすみの挨拶になっている。

 当然ハグも皆にするのだが、今夜はクレナと春乃さんがいつもより積極的だった。


 そしてラクティを抱っこして寝ようとしたのだが……何故か俺は、逆にラクティに抱っこされる形になって横たわっていた。

「……ラクティ?」

「はい、目をつむって~、ゆ~っくり休んでくださいね~」

 その慎ましやかな胸に抱きしめられ、頭を撫でられている。その細い腕が痛くならないよう、上側になる片腕だけで抱き寄せる形だ。

 以前からお姉さん振るようになっていると思っていたが、まさかこう来るとは。

 視線を周りに向けてみると、皆微笑ましそうにこちらを見ていて気恥ずかしい。

 とはいえ、ラクティも嬉しそうなので止めるのは憚られた。

 こうなったら開き直って受け容れよう。その方が心安らかになれるはずだ。そのまま目を閉じ、頭を撫でられながら眠りについた。

 なお、夢の中では母と五柱の姉達も布団を敷いて待ち構えていたのは言うまでもない。

 そしてクレナ達の間で、一緒に寝る時は俺を甘えさせる事が流行り、特にセーラさんがハマる事になるのは、もう少し先の話である。



 そして翌朝、朝食を終えると早々にシャコバとマークが三人の戦士を連れて出発。俺達はユピテルに向かう準備を始める。

 トラノオ族の戦士の内、半分以上の十五人が一緒にユピテルに向かう事になっている。

 ドクトラを含めてベテラン戦士は三人。これにルリトラを合わせると四人チームが四つできる事になる。

 という訳で、彼等の分の食料を『無限バスルーム』に運び込まなければならない。

 それが終わればこちらも出発できるのだが、その前にやっておく事がひとつあった。

 俺は、ラクティ、クレナ、春乃さん、そしてセーラさんを連れて、長老に会いに行く。

「長老、これを見てもらえませんか?」

「……申し訳ありません。私には読めぬ字です」

「……スマン、光の女神の祝福を忘れていた」

 そうだった。俺は祝福のおかげで、この世界の文字ならば大抵理解できるんだった。

 俺が見せたのは、魔王からもらった『ハデス一国譲り状』。ハデス、つまりこの『空白地帯』一帯を俺に譲るという書状だ。

 長老に見せたのは『ハデス一国譲り状』。俺が読めているという事はこの世界の文字だと思うが、ハデスの文字なのだろうか。

「それは、魔王からもらった『ハデス一国譲り状』。ハデス、つまりこの『空白地帯』一帯を俺に譲るという書状だ」

「なんと!? 何故、魔王が!?」

 長老が目を見開き、身を乗り出してきた。確かに、そこは疑問に思うよな。

「色々とあったんだけど、私が魔王の孫だったというのも大きな理由の一つでしょうね」

「クレナ殿が……」

 その疑問に答えたのはクレナ。この件は俺が魔王の封印を解いた礼でもあるが、クレナがいなければここまでのものにはならなかっただろう。

 生前の魔王の後継者が授かった刀と同じ銘を持つ『星切』までもらってしまったし。

「実は今、六柱の女神の神殿を一箇所に集めるというのを考えていてな……できれば、協力してもらえたらうれしい」

「トラノオ族の恩人であるトウヤ殿が、この地の長になるというのであれば、我々としても歓迎しますが……この地は人間には厳しいですぞ?」

「その、元々ここは、私が封印されたからこうなったんです」

 ラクティが申し訳なさそうに答えた。それだけでは分からないだろうから、闇の神殿を再興すれば環境も少しずつ戻せるかもしれないとフォローしておく。

「ふむ……それでルリトラが戻ってくるならば、再び戦士長になってもらうのも良いかもしれませんな」

「……ドクトラも上手くやってそうですけど?」

「あやつは前に出て戦いたがりますからな。戦士長は、時には後ろでどっしりと構えている事も大事なのです」

 要するに、ドクトラもう少し落ち着けという事だろうか。確かに、そういう事ならばルリトラの方が向いていそうではあるが。

 とにかく、彼等にとっては他人事ではないため出発前に話をしてみたが、長老もこの地に女神の神殿を集める事について反対はしないようだ。

 とはいえ全ては中花さんの件を解決してからなので、ひとまずここまでにしておこう。


 そして準備を終えて、いざユピテルへ。

「北側の通路の位置なら大体分かる。こっちだ」

 埋まっている地下道の位置だが、こちらは『百獣将軍』が案内してくれた。『不死鳥』とは担当が違うのか、こちらは『百獣将軍』の方が詳しいようだ。

 『百獣将軍』は、度々振り返って魔王城の位置を確認しながら進んでいく。

 そのまま進む事しばし。この辺りだと指し示された辺りを探してみると、一時間ほどもしない内に埋まっていた通路を発見する事ができた。

「さて、この通路は無事かな……」

 中を覗き込みながら『百獣将軍』がつぶやく。彼によると、この地下通路はユピテルと『空白地帯』の間にある山につながっているらしい。

 俺が旅立った直後に通った山か。あの時はルリトラの曳く人力車に乗っていたな。

 その呟きを聞いてフランチェリス王女がピクリと反応した。

「あの山……昔からユピテル領なんですけど……」

 王女によると、五百年前の戦いでは、ハデスに攻め込んだユピテル軍の後方を、神出鬼没のハデス軍が荒らしまわったという記録が残っているらしい。

「ああ、あったなぁ。そんな事も」

 北側の通路に詳しいってそういう事か、『百獣将軍』。

 気になるが、今それを追求しても仕方が無い。ここは流して出発しよう。

「では、我々が先行しましょう」

「頼む」

「『百獣将軍』、お前も行ってこい」

「おう!」

 ルリトラとドクトラが率いる二つのチームと『百獣将軍』を先行させ、その後に続く。

 この地下通路を抜ければ、いよいよユピテルである。

今回のタイトルの元ネタは、『キテレツ大百科』の主題歌「はじめてのチュウ」です。


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― 新着の感想 ―
[一言] この自然にハーレムになっていく流れは、ミトさんが書いてられた、黒い手の横島みたいですね。 取り立てて告白とか無いのに、日々の積み重ねで信頼されて、兄枠から恋愛対象にと自然に移行した流れですね…
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