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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
神泉七女神の湯
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第150話 勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求むる

 さて、クレナと春乃さんも一緒に話を聞いてみたところ、やはりユピテル軍の兵士はピリピリしているという話ばかり聞かされる事になった。

 緊張感が態度に表れているようで、町の人達からの評判はあまりよろしくないらしい。「ありゃ、どこかに攻め込むつもりじゃないか?」

 漁師のおじさんが言う。酒場の件で特にユピテル軍を嫌っている人の言葉だが、確かにそれならば兵士の様子も納得できるというものだ。

「でも、攻めるって……ネプトゥヌスじゃないならどこだろう?」

「ヴェスタの方から来たって話だから、それ以外じゃないか?」

「ヴェスタって大陸東方の国でしたよね?」

「ヴェスタから来たなら西方は無いな。それなら半島の外側を回った方がいい」

「ギルマンの島も無いだろ。あんだけの兵士、全員上陸できねえよ」

 漁師達の話から、ユピテル軍の目標が絞り込まれていく。

 そもそも大陸西方に行くつもりならば、ユピテルから陸路で行けばいいのだ。

 水の礼拝所があるギルマンの島を攻めるには、軍の規模が大き過ぎるし、水の都にはそもそも行く事ができない。

「となると……アレスですか」

「おそらくそこだろうな」

 魔王復活の件を知ってから動いたにしては早過ぎるので直接関係は無いだろうが、それを抜きにしてもあの国は光の神殿が無いのだ。攻撃目標になる事は考えられる。

 まずいな。この件については、一度フランチェリス王女と話し合う必要があるだろう。

 これは彼女達が戻ってこない事にはどうしようもない。今は皆から話を聞きつつ、ユピテルの兵士達が近付いてこないか気を付けておくとしよう。



 その後王女パーティは日暮れ前に、少し遅れて神南さんパーティも戻ってきた。

 漁師達も帰っていったので、『無限バスルーム』の中で話を聞く事にする。

 ちなみにロンダランのチェックはまだ終わらないようなので、今日はこのまま夕食に招待する事にしよう。場合によっては泊まっていってもらう。

 そして調査の結果だが、王女達はコスモスが『潮騒の乙女』亭に連れて行かれた事を突き止めてきたが、兵が多くて救出する事はできなかったらしい。

 更に『潮騒の乙女』亭には、中花さんも滞在しているそうだ。コスモス誘拐の黒幕は、彼女でほぼ間違いないとの事。

「どうしてそんな事をしたんでしょう?」

「流石にそこまでは……兄と協力しているとすれば、コスモス様を戦力にするためではないかと予想はできますが」

 中花さんがいるのにと思ったが、どうせならば勇者が二人、三人いる方が戦力的にも良いか。現にこちらにも勇者が三人いる。

 一方神南さん達の方は、元将軍であるアキレスの立場を利用して兵士達から聞き込みをしてきたそうだ。

 どうやら俺達と行動を共にしている事は知られていないようで、何の問題も無く兵士達から話を聞く事ができたらしい。

「そういえば『百獣将軍』が一緒で、大丈夫だったんですか?」

「そこは問題無い。俺が仲間にした事は知られているからな」

「私も、王女の立場が使えれば……!」

 うらやましそうな王女。彼女達は変装もして、身を隠しながら調査したそうだ。

 こればかりは仕方がない。コスモスを誘拐した側からしてみれば、王女が来たら取り返しにきた事が丸わかりなのだから。

 それはともかく、兵士達から直接話を聞いたおかげで、彼等の目的が分かったそうだ。

「あれはアレスに攻め込む遠征軍だそうだ」

「ああ、やっぱり。漁師達も、兵士達がピリピリしていたから、どこかに攻め込むんじゃないかと言っていました」

「……それは本当ですか?」

 これに如実に反応したのは王女。彼女はぶつぶつとつぶやきながら考え込み始める。

「……港の軍船を全て沈めてしまいましょう」

 そして物騒な事を言い出した。

「ユピテルの、聖王家の王女がそれでいいんですか?」

「聖王家としてはいささか問題があるかもしれませんが、ユピテルの王女としては正しい事を言っているつもりです」

「ほほう、王女殿下は遠征軍がアレスに負けるとおっしゃるか?」

「ええ、見る目があるでしょう? アキレス」

 アキレスの言葉を、王女はさらりとかわした。アキレスは面白くなさそうだが、それ以上は追及しないあたり間違ってはいないと思っているようだ。

「五百年前の再現になりかねませんし」

「ええ……お爺様、黙ってないでしょうね」

 そう言って顔を見合わせる春乃さんとクレナ。確かに彼女達の言う通りだ。

 五百年前の初代聖王対魔王の戦いは、ユピテル側から攻め込んで始まったというが、その再現になりかねない。何故なら今のアレスには復活した魔王がいるのだから。

 魔王は再び戦乱を起こす気は無いと言っていたが、攻められれば当然反撃してくるだろう。王女も、魔王の存在を計算に入れてユピテルは勝てないと判断したと思われる。

「軍船が無ければ遠征軍はここから先に進む事はできないのです。そして軍船だけ沈めるならば兵の被害は最小限に抑えられる。現状できる手では、これが最善でしょう」

「一応聞いておきますが、王女の命令で遠征を止められないんですか?」

「あちらは兄の命令で動いているようですし、そもそも私には、私の親衛隊以外に命令する権限がありません」

 だから軍船を沈める、か。強引ではあるが、遠征軍を止めるならばそれぐらいはしなければならないというのは理解できる。

 魔王との戦いが再び起きる事が阻止できると考えれば、どれだけの被害を防ぐ事になるのか想像もつかない。

 なるほど、聖王家の王女としては魔王を避けるのは問題だが、ユピテルの王女としては兵士、すなわちユピテルの民の被害が出ないようにするのは正しいという事か。

「そういう事なら協力しましょうか」

 ユピテルに逆らう事になるが、放っておくとユピテルとアレスの戦争が起きてしまう。

 そうなれば魔王も黙っていないに違いない。それを止めるためにも、なんとしてもここで遠征軍を止めなければならないのだ。

 それでも俺達だけならば躊躇したかもしれないが、こちらにはフランチェリス王女がいる。彼女がいればこちらが一方的に悪者になる事はあるまい。

 そして、一番被害者を出さずに軍船を沈められるのは俺だろう。

 つまりは、やるしかないという事だ。

「船に兵がいなくなる時間ってあります?」

「一番少なくなるのは夕方だな。見張り以外はいなくなるだろう。夜に少し戻ってくるだろうが、それでも大半は陸で休んでおるはずだ」

 春乃さんの問いには、アキレスが答えた。それで船を降りた兵士達は酒場に行って漁師達と遭遇していたのか。

 となると、今日はもう兵士達が船を降りている頃か。準備が整い次第やってしまいたいが、今から準備をしてとなるとどうだろう?

「今から準備して行って……間に合いますかね?」

「止めておけ、止めておけ。こういう事は、余裕を持って当たるべきだ。心配せんでも、今日明日軍船が動く事はない。それなら昼の内にもう少し動きがあるわい」

「となると、明日の昼の内に準備を済ませて……ですね」

「私達も少し買い足したいものがありますので、それでいきましょう」

「そうだ、軍船を沈めれば彼等は混乱するでしょうし、その隙に乗じてコスモスを救出する事はできませんか?」

「救出までは上手くいきそうですが、脱出まではどうでしょう?」

「それなら……」

 ここで俺が考えていた軍船の破壊方法を説明する。この方法ならば軍船を沈めた後王女達を迎えに行って、そのまま脱出する事ができるだろう。

 問題は脱出後どこに行くかだが、食料の補給は終わっている。ギルマンの島に花ドラゴンの島、一度アレスに戻るという手もある。

 とにかく、ロンダランのチェックが終わらない事には始まらない。

「後は船底のチェックをせねばならんが、今こいつをドックに移動させると目立つ。そこで町の外にある隠し実験場に行ってほしいんじゃが」

「その話詳しく」

 なのでいつ頃終わるのかと聞きに行ったところ、面白い情報を得る事ができた。

 町を出て少し西に行ったところに、ロンダランが実験に使っている入江の洞窟があるらしい。そこにはドックの設備も整っているそうだ。というかロンダランが整えたそうだ。

「デカい音が鳴る実験は、町の連中がうるさいからのぅ」

「ああ、それで町の外に……そこ広いんですか?」

「ウム、広いぞ」

 それは脱出後一息つくのに丁度良いのではないだろうか。

 ユピテルの軍船を沈め、その隙にコスモスを救出して脱出する件を説明すると、彼は自分もついて行き、船底のチェックはそちらですると言ってくれた。

「危険ですよ?」

「おぬしらがそんな騒ぎを起こした後、この町に残っておるのも危険ではないか?」

 それは、確かに……。ただの知り合いである漁師達はともかく、グラン・ノーチラス号の製作者である彼は、俺達の協力者と見なされてしまうだろう。

「あそこはほとぼりが冷めるまで身を隠すのにも丁度良くてのぅ」

「……慣れてますね」

「まあな! わっはっはっ!」

 ドックなどの設備が整えられている本当の理由が見えた気がした。この様子だと住む家ぐらいは用意していそうだ。流石にこちらの人数は入りきらないだろうが。

 という訳で、ロンダランの隠し実験場の事を伝えると、王女達も脱出後は一旦そこに身を潜める事を承諾してくれた。

 明日はそれに合わせて準備をする事になるだろう。

 それが終わるとグラン・ノーチラス号を出港させ、海中に潜って軍船が停泊している港に移動。様子を窺いながら待つ。

 夕食時に見張り以外の兵士達が船を降りる時、それが俺達の行動開始の合図である。

今回のタイトルは、孫子の兵法の一節です。

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