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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
誘惑の洞窟温泉
154/206

第145話 とひ゛らをけりあけ おと゛りこんた゛!

「いた……!」

 扉側のソファに腰かけているのは銀髪の男性。兜を外しているようだが鎧で分かる。間違いない、『闇の王子』その人だ。

 そして奥側には、不機嫌な顔でソファに身を沈めるクレナの姿があった。

 映像のみのため何を話しているかは分からないが、『闇の王子』が何やら訴えかけ、クレナの方は無言を貫いているようだ。

 今回の件は『暗黒の巨人』の独断だったという話なので、自分は命令していないと言い訳しているのかもしれない。

 クレナの方は……本気で怒っている訳ではないが、彼の言い分を素直に聞き入れる気にもなれないといったところか。

 今は安全そうだが、『闇の王子』が開き直ってクレナをどこかに連れ去ってもまずい。ここは一刻も早く助けに行こう。

 商会の店員に魔王への連絡を頼むと、彼は露骨に嫌そうな顔をした。

 そんな顔をされても、俺達はこのままクレナの救出に向かうため、嫌でも行ってもらわねばならない。なので『白面鬼』に伝えてくれればいいと行ってもらう。

 俺達五人は件の家へと向かう。リウムちゃんはルリトラの背中の上だ。

 人通りはあるが、ロニとデイジィはそれを苦にする事なく縫うようにすいすいと進んでいく。大きな鎧を装備した俺達はそうはいかないが、逆に町の人達の方が避けてくれた。

 鎧の重さと体力の関係で、いつしか先頭を行くロニとデイジィ、少し離れてルリトラとリウムちゃん、更に離れて最後尾に俺と春乃さんという順番になる。

 隣の春乃さんはまだ余裕がありそうだが、鎧の重さの差のためだと思いたい。

 走りながら大地の『精霊召喚』を使おうかと思ったが、あれは足元の地面を動かすものなので町中では使えない。

 意地でも休まず走り続け、そのまま『闇の王子』の拠点近くまでたどり着いた。

 呼吸を整えたいところだが、地下都市では洞窟の壁に扉や窓が並んでいるため、建物の陰に身を隠すという事ができない。

「冬夜君、あそこにお店が」

「中に入れそうだな。一旦あそこに入るぞ」

 幸い少し離れたところに商店があったので、そこに入って拠点の様子を窺う事にする。

 俺が呼吸を整えている間に、ロニが拠点の住人について店主に尋ねる。店を使わせてもらうので店主に迷惑料と情報料を渡すと、にこにこ顔になって飲み物まで出してくれた。

 店主によると、件の拠点は十年ほど前から闇エルフの夫婦が住んでいるらしいが、ご近所付き合いが悪いため、詳しい事は分からないそうだ。

「あんたらは、あの家に何の用なんだい?」

「さらわれた仲間を助けに来たんだよ」

「えっ? ひょっとして……」

「見たんですか!?」

 ロニが詰め寄ると、店主はコクコクとうなずいた。

 その必死な様子に店主もこちらの話を信じてくれたらしく、俺と同じ黒いフルプレートアーマーを装備した男性が、銀色の髪をした少女を連れて来た事を教えてくれた。

 黒いフルプレートアーマー、おそらく『闇の王子』だ。

「その男性はよく来るんですか?」

「時々だね。あの家を訪ねてくる、ほぼ唯一の人だよ。普段は鎧は着てないけど。ああ、女の子は初めて見る顔だったなぁ」

 おそらくクレナだろう。『闇の王子』が連れて来たという事は、どこか別の場所で誘拐した部下から受け取り、ここに連れて来たという事か。

 よし、呼吸も整った。情報収集はこれぐらいにして行ってみよう。


 アレスの家は変わり映えがないように見えるが、扉や窓に特徴がある。

 というのも、アレスでは木製の物は高級品なため薄い金属製の扉が多いのだ。分厚いと重くて不便だからだろう。暖簾だけ掛けている家もある。先程の店もそうだった。

 そしてこの家の扉は木製の高級品、裕福な家である事が見てとれる。

 扉の右側に窓があったが、カーテンで中は見えないようになっている。隙間から見られる可能性もあるので窓の前には立たないようにする。

 まずロニがノックする……が、出てこない。もしかしたら暗号みたいなものがあるのだろうか。だとすれば、流石にそれは分からないぞ。

「ちょっと確認してくる」

 扉の隣で『無限バスルーム』の扉を開き、屋内露天風呂でクレナと『闇の王子』、それに闇エルフ二人もいる事を確認。

 ならば遠慮する必要は無い。再び走って戻り、ルリトラに「壊してしまえ」と命じる。

「フンッ!」

 ルリトラは大きく振りかぶって拳を叩きつけ、分厚い木の扉を粉々に粉砕する。

 すぐさま踏み込むと、中にいた闇エルフの男性が素早く立ち上がり、腰からナイフを抜く。が、俺とルリトラの二人がかりにあっさりと押さえ込まれ、縛り上げられた。

「……これと、これと、これ」

 そこにリウムちゃんが来て、刃部分に模様が描かれたナイフだけでなく、腰に下げていた短い杖、小さな宝石の付いた指輪を取り上げる。

「それは?」

「これを取り上げておけば魔法は使えない」

 クレナの剣と同じ魔法の発動体か。この男、服装はちょっと身なりの良い町人風だが、ただの一般人という訳ではなさそうだ。

「何者っ!?」

 騒ぎに気付いたのか奥から杖を構えた女性が出てきて炎の矢を放つが、春乃さんが前に出ると彼女に触れる前に矢がかき消える。彼女のギフト『無限リフレクション』だ。

 女性は魔法が消された事に驚き、動きを止める。その隙にロニが近付き手刀で杖を叩き落し、ルリトラが回り込んで羽交い絞めにする。

「こっちも指輪。それと……」

「ちょっ!?」

 こちらもリウムちゃんが近付いてきて指輪を取り上げるのだが、次の瞬間女性の長いスカートの中に頭を突っ込んだ。

「はい、これも……」

 中でゴソゴソして顔を出した彼女の手には、もう一本の杖が握られていた。どうやらスカートの中に予備の杖を隠していたらしい。

「この手の道具は専門……」

 エヘンと胸を張るリウムちゃん。水晶術師だから分かるのだろう。

 こちらと目を合わせようともせず、一言も口をきかない二人。邪魔をされても困るので縛って動けなくする。

 それなりに音も立てていると思うが、『闇の王子』が出てくる様子は無い。

「もしかして、隠し部屋がバレてないと思ってるんじゃね?」

「……ああ、だから出てこないのか」

 デイジィの言葉で、その可能性に気付いた。二人も驚きの表情でこちらを見ている。なるほど、黙っていれば『闇の王子』がここにいることは分からないと考えていたのか。

 うん、魔法が効かない春乃さんもすごいけど、俺のギフトも大概だよな。

「二人は、私達で見張っていますので」

「分かった、頼む」

 春乃さんとリウムちゃんを見張りに残して奥へと進む。二人ならば大丈夫だろう。特に春乃さんは近所の人が様子を窺いに来ても上手く対応してくれるはずだ。

 ルリトラ、ロニ、デイジィを連れて、隠し扉がある廊下の突き当りまで進む。

 近付いて調べてみると、すぐに隠し扉が見つかった。鍵が掛かっていたが大したものではなく、ルリトラがグレイブで突き壊す。

「よし、俺が先頭で入るぞ」

 不意打ちされた時の事を考えて『魔力喰い』で攻撃を防げる俺を先頭に、ロニ、ルリトラの順で中に入る。デイジィはロニと一緒にいてもらおう。

 隠し扉の中は、階段になっていた。少し下りると左に曲がっており、大きく弧を描くように階段が続いている。どうやら隠し部屋の周囲に巻き付く形で階段があるようだ。

 隠し部屋の前までたどり着き、ドアの前に立たないようにしてドアノブに手を掛ける。

 鍵は……掛かっていないな。ロニとルリトラを交代させ、ルリトラに少し扉を開けてもらったところで俺が踏み込んだ。

 中は先程映像で見た通りの部屋だ。派手さは無いが落ち着いた雰囲気の内装。魔王は派手好きなイメージがあるが、こちらはそうでもないのかもしれない。

 部屋の中央にテーブル、手前と奥に長いソファがあり、映像で見た時と変わらず奥のソファにクレナが座っている。

 しかし『闇の王子』は立ち上がってクレナの横でこちらを見ていた。鎧は装備したままで、兜を被っている。鍵を確認した時に、こちらの侵入に気付いたのだろう。

 クレナは俺達を見て安堵の表情を浮かべており、その顔から恐怖の類は窺えない。『闇の王子』の兜は顔が見えるタイプだが、無表情で何を考えているか分からない。

 そして武器も持っていなかった。これではクレナを人質にしようとしているかどうかは判断しにくいな。

 ルリトラとロニも部屋に入ってきたが、これでは迂闊に動く事はできない。ロニが今にも飛び掛かりそうだが、肩の上のデイジィが必死に宥めている。

 それにしても、こうしてじっくり見るのは初めてなのだが、『闇の王子』の鎧は『魔力喰い』とよく似ている。おそらくあれも魔法の鎧なのだろう。

「……随分と乱暴な訪問だな」

「クレナを誘拐するのと、どっちが乱暴なんだろうな?」

 彼は無表情のまま部屋に踏み込んだ事を咎めてきたが、俺はすかさず言い返した。

 今回の件は『暗黒の巨人』の暴走であり『闇の王子』が命じた訳でない事は分かっているが、その後クレナを解放していないのは彼である。

 それ以上言い返さず口ごもっているあたり、彼の方にも自覚はあるのだろう。

 さて、ここからどうしたものか。

 こちらとしてはクレナを救出できればいいのだが、『闇の王子』も簡単には解放してくれないだろう。そうでなければクレナはとっくに解放されているはずだ。

 よし、ならばここは……。

 思い切って一歩踏み出すと、『闇の王子』がこちらに手を向けて来た。掌には『魔力喰い』にもある魔法の発動体。やはり同じタイプの魔法の鎧だ。

 その動きを気にせずテーブルに近付いた俺は、そのままクレナの向かいにあるソファに腰を下ろした。

「……どういうつもりだ?」

 初めて表情を変えた『闇の王子』は、怪訝そうな顔で問い掛けてきた。

 対する俺は堂々と胸を張って答える。

「このままにらみ合っていても埒が明かない。ここは交渉といこうじゃないか」

「……交渉、だと?」

「今回の件は、『暗黒の巨人』の暴走が発端になった事は分かっている。ならばあなたとは交渉する余地があると思うんだが……どうだ?」

「…………いいだろう」

 しばしの間を置き、小さくため息をついた『闇の王子』。クレナの隣に腰を下ろして、こちらに鋭い視線を向けて来た。

 今回のタイトルの元ネタは『勇士の紋章 ディープダンジョンII』で使われていたメッセージです。

 元ネタに合わせて「゛」を一文字扱いにしています。

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