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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
誘惑の洞窟温泉
152/206

第143話 湯煙探偵倶楽部 消えた勇者

 先に雪菜とデイジィを連れて屋内露天風呂に移動して待っていると、ロニではなくリウムちゃんが地図を持ってやってきた。ロニは、王女達を出迎える準備をしているそうだ。

 もちろん入浴が目的ではないので、服を着たままである。

 それはともかく雪菜達によると、王女達のところに脅迫状の類は届いておらず、またコスモスが行きそうなところに心当たりは無いとの事。

「朝までは王女達と一緒にいたんだよな?」

「一緒の宿に泊まってるから、それは間違いないって」

「今日は用事があって、王女さまは先に宿を出たって言ってたよ」

 ならば王女が持つ情報を待ちたいところだが、その前にこちらでも捜しておこう。

 この町は地上に出たり、エリア間を移動する手段が限られている。闘技場がある中央エリアの場合、他のエリアにつながる道が三つ、地上につながる道が二つだ。

 まずは地上につながる二つの内、闘技場に近い方の風景を映し出す。すると町を行き交う人々の姿が壁全体に映し出された。まるでテレビの中継映像を見ているかのようだ。

「皆も探してみてくれ」

「あいよー」

「……分かった」

 別に複数の場所を同時に映し出せる訳ではないが、素早く確実に探すために皆で見る。

「あ、バルサミナはコスモスと一緒かも」

「そうなのか?」

「あんまり王女様達と仲良くないみたい」

 彼女はコスモスが強引に説得して引き込んだためか、まだパーティに馴染んでいないらしい。比較的マシな相手という事で、コスモスと一緒にいる事が多いそうだ。

「今朝最後まで宿に残っていたのがコスモスとバルサミナで、そのまま二人とも姿を消したかもしれないって事か」

 これはバルサミナが何かお願いして、コスモスがそちらを優先した可能性もあるな。

 それならそれでいい。後でコスモスが怒られれば済むので、その可能性については考えないでおく。やはり今は誘拐された前提で探すとしよう。

 そのまま映像を地上の方へと移すと、アレスの人達の憩いの場となっている大きな公園があり、王女の親衛隊らしき少女達が、おっかなびっくりな様子で闇エルフから話を聞いている姿が見えた。その他の各ルートにも既に親衛隊が送り込まれているようだ。

 そういう事ならば、俺は他の場所を探そう。

 更に高所からの映像に切り替えて遠くを見渡してみる。アレスの地上は緑が少なく、荒野が広がっている。人里は少し離れたところにあるメラク族の集落ぐらいだ。

 近くに隠れられそうな場所は無く、周囲にそれらしい人影は見つからなかった。

「よし、次に行くぞ。」

 次に映す場所は港。アレスのもうひとつの出入り口だ。

 こちらは以前見た時と同じように多くの人が行きかっており、声は聞こえないが賑やかそうな様子が伝わってくる。

 この辺りだと、人間の商人の姿がちらほら見える。マーシュ・リザードマンなど、中央エリアでは見かけない亜人も多い。

 逆にサンド・リザードマンのメラク族の姿は、まったく見当たらなかった。おそらくルリトラと同じように湿気や潮風が苦手なのだろう。

 人が多くて大変だが、ここでも手分けしてくまなく捜していく。

 何度か見る場所を変えながら捜し続けていると、不意にリウムちゃんが声を上げた。

「見つけた……バルサミナ」

「どこだ!?」

 彼女が指さす先を見てみると、並んだタルの陰でこそこそしている赤い髪をした魔族の少女の姿があった。雪菜もそれがバルサミナである事を確認する。

「コスモスは……一緒じゃなさそうだな」

 見たところ一人のようだ。周りにコスモスの姿は無い。

「なに見てんだ? あれ」

「なんかキョロキョロしてるね」

 それだけでなく、何やらうろうろしている。

 これはもしかして、コスモスを探しているのか?


「トウヤさ~ん、クレナさんがお戻りになりました! 王女様ご一行と、『白面鬼』さんも一緒ですよ」

 その時、クリッサが駆け込んできた。

「すぐにお通ししてくれ。コスモスの手がかりが見つかったかもしれない」

「えっ? あ、はい! 分かりました!」

 するとクリッサは慌てて戻っていった。

 そのまましばらく待っていると、クレナと『白面鬼』、そしてフランチェリス王女、リコット、フォーリィの五人がロニに案内されてくる。もちろん服は着たままで。

 他の親衛隊の面々は、クリッサ達で応対しているそうだ。

「こ、これは一体……」

 やはり王女は、初めて見る屋内露天風呂の機能に驚きを隠せない様子だ。

 クレナはそれを横目でちらりと見て微笑む。

「こっちも色々やってたみたいね」

「ああ、ここを使えば探せそうだったからな」

「それじゃ王女様達は任せるわ。私は彼女と商会の方に行ってくるから」

「分かった。気を付けてな」

 クレナは手を振りつつ、出ていった。『白面鬼』もこちらに一礼した後その後に続く。

 では、こちらはこちらで話をしておこう。簡単にここの機能を説明し、バルサミナが見つかった事を伝える。

「……悪用するような人のところに、女神はこのようなギフトを授けないでしょうね」

 説明を聞き終えた王女は、扇で口元を隠しながらそう言った。

 自分を納得させるような響きがあったのは、気のせいではないだろう。俺が覗きに使わないかと考えたのではないだろうか。

 気持ちは分からなくもないが、とりあえず納得してくれているようなので何も言わずに放っておく。実際のところ、一人で入浴するのも稀なので覗きなどできる訳がない。

「確かにバルサミナさんです」

「どうしてあんな所に……逃げ出そうとしているのか?」

 フォーリィとリコットを見ると、雪菜に教えられてバルサミナの姿を確認していた。

 それにしても、逃げると思われるぐらい馴染んでいないのか。

「魔族だから嫌っているという訳ではないのですが、そもそも仲間にした経緯がかなり強引だったもので……」

 二人の方を見ていると、王女がフォローを入れてきた。

「そんなに強引だったのですか?」

「いくら断られてもコスモス様は諦めず、最後はバルサミナが根負けする形で……」

「そのため彼女が内心では、現状をどこまで受け容れているのかが分からないのです」

「もしかしたら逃がしてあげた方が彼女にとっても良いのかも……?」

 言葉を濁す三人。確かにそれは王女達も扱い辛かっただろうな。

 こちらの『魔犬』のように、食べ物に釣られてでも自分から近付いてきてくれれば問題無かっただろうに。

「もしや、逃げるために乗り込めそうな船を探しているのか?」

「それよりも、コスモスの後を追っているとは考えられませんか?」

「それは……どうでしょう?」

 顔を見合わせる王女とリコット。半信半疑といったところか。

 実は恥ずかしがっているだけなんですと言えればフォローにもなるだろうが、本当に嫌がっている可能性もあるのでなんとも言えない。

「そちらに新しい情報は?」

「まず対戦相手の方を調べさせましたが、彼の家では無さそうですね……」

 それで犯人の候補からは外れたが、余計に分からなくなったと王女は言う。

 確かにそうなると、コスモスを誘拐する動機が分からなくなってくるな。武闘会とは関係無いのだろうか?

「お兄ちゃん、動いたよ!」

 そうこうしている内に、またバルサミナが動いた。船に近付き、空を飛んで一隻一隻見て回っている。

 これは本当に乗り込む船を探しているのだろうか。

「……これは、彼女と合流した方が良さそうですね」

「確かに、このまま船に乗り込んじゃうと、そこにコスモスがいたとしても追いつけなくなるかもしれません」

「申し訳ありませんが、私達はこれで失礼させていただきます」

 王女に対して礼を失する訳にはいかないので、そのまま俺達も一緒に屋内露天風呂を出て親衛隊が一緒にいるところまで戻る。

 リコットがテキパキと指示を飛ばし、フォーリィが親衛隊を二人連れて先行。王女はリコットと残りの親衛隊と共に後を追うという事になった。

「すいません。あまりお役に立てなくて」

「いえ、港にバルサミナがいると分かっただけでもありがたいです。それでは」

 リコットがペコリと頭を下げ、王女一行はバルサミナが向かった神殿エリアの方へと早足で去っていく。

 これでバルサミナがコスモスの行方を知っていればいいのだが。俺はそんな事を考えながら一行を見送った。

今回のタイトルの元ネタは、マイニ○テンドーでゴールドポイントを使うのに(SFC版『うしろに立つ少女』を)DL購入するかどうか迷った記念……という訳ではありませんが、『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者』です。

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