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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
誘惑の洞窟温泉
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第139話 シックスゴッデス

 PCが壊れました。

 皆さん、バックアップはこまめにしておきましょう。

 この頃のセーラさんは、別邸の一室で聖典に目を通す時間が増えていた。

 そのため最近の彼女は、もっぱら留守番役になっていた。俺達は出掛ける事が増えたので、彼女とサンドラ達が中心となって別邸を守ってくれるのはありがたい話だ。

「セーラさん、ちょっといいかな?」

 二階の部屋の扉は襖なので、ノックではなく中に声を掛ける。すると間もなく襖が開きセーラさんが顔を覗かせた。

「……何か御用ですか?」

 上目遣いで尋ねてくる彼女の表情には疲れが見てとれる。

 この話が少しでも彼女の気持ちを楽にしてくれればいいのだが。そんな事を考えながら相談したい事があると話すと、彼女はどうぞと部屋に招き入れてくれた。

 別邸のそれぞれの部屋には机、椅子、ベッド、小さな棚、衣装箱と最低限の家具が備え付けられている。セーラさんはそこに自分の衣装箱と手持ちの本を持ち込んでいた。

 シンプルなのは俺の部屋も変わらないはずなのに、どこか空気が違うように感じられるのはセーラさんの部屋だからだろうか。

「それで、相談したい事というのは?」

 勧められた椅子に座ると、彼女はベッドに腰を下ろして向き合った。椅子に残るぬくもりに先程まで彼女がここに座っていたのかと思うとどぎまぎしてしまう。

 しかし、それでほほを緩める訳にはいかない。意識して表情を引き締め、思いついたばかりの六柱の女神の神殿を一箇所に集めるという案について話す。

「……それは、一つの神殿で六柱の女神を祀るという事ですか?」

 一通り話し終えた後、彼女は小さくため息をついてからこんな事を尋ねてきた。

「いや、一箇所に六つの神殿があるというのをイメージしている」

 そう答えると、今度は大きなため息をつかれた。そんなに変な話だろうか、これ。

 こちらの表情に気付いたのか、彼女は慌てて「違うんです」と手を振る。

「その……そのお話には問題点がありまして……」

「問題点? 具体的に教えてくれ。改善する事で解決するなら……」

「そ、それは……」

 前のめりになって聞いてみたが、どうにも歯切れが悪い。

 それ以上言葉では追及せず、ただただ真っ直ぐに見つめていると、やがて彼女はもう一度ため息をついて口を開く。

「…………多分、光の神殿『だけ』が問題になるんじゃないかと」

 そう言い終わると、彼女は視線を逸らしてしまった。

 そういう事か。彼女の反応からして、案そのものは決して悪いものではないのだろう。

 しかし、セーラさんにしてみれば、その案が自分の仕える神殿が原因でダメになってしまうのだ。ため息をついてしまうのも仕方がない。

「……理由を聞いても?」

「光の女神は、女神姉妹の長姉です。それ故、他の五柱の女神より上の立場であるという考えが昔からあるんです」

 それは聞いた事がある。三百年前の亜人排斥に合わせた光の女神信仰の勢力拡大も、その影響は無視できないのではないだろうか。

「だから、周りに他の女神神殿があれば……」

「……『並び立つ』という風にはならないでしょうね」

 自分達がトップだと主張し、他の神殿を下に見るという事か。

 下手をすれば、他の神殿が撤退するという事も考えられるな。しかも、それまでに各神殿間に不仲の種を蒔き散らす事になりそうだ。

 それはダメだ。後の争いにつながりそうなものをやる訳にはいかない。

「光の神殿以外の五つだけで……いや、これはダメだな」

「……その場合、オリュンポス連合を二分する争いに発展するかと」

 光の女神信仰対他の五柱の女神信仰か。海中を抜きにすれば一対五でも光の神殿の勢力の方が強い気がする。魔王軍が参戦すると分からなくなるけど。

「女神姉妹って、本当に仲が良いんだけど……」

「それは信じています。だからこそ、私も悩んでいる訳で……」

 今まで信じてきた教えと、実際の女神との齟齬。それが彼女を悩ませているのだろう。

 教えを知らない俺は安易に考えていたが、これは要するに「我々は女神姉妹のトップである光の女神の信徒、エリートなのだ」と考えている者達がいるという事だ。

 目の前にはこの件について真剣な顔で考えてくれているセーラさんがいるのだから、光の女神の信徒全員を同一視するつもりはない。

 しかし、所属している人が多い分、そういう意識を持った人がおのずと多くなるのは否定できない事実であろう。

「この問題をどうにかして解決しないと話は進められない、か……」

「私が調べたところ、聖典の中に長姉を上とすると明文化されたものはありませんでしたが、現実にそういう風潮は、今も残っていると思います」

 最近聖典を読んでいたのは、それを調べるためだったのか。

「……セーラさんは?」

「ラクティさんを見て、守ってあげねばと思う姉心は心底理解できます」

「それは俺もだ」

 だって庇護欲をくすぐるのだから仕方がない。雪菜とはまた別タイプの妹だ。

 こちらは兄心だけど、ラクティ的には俺の方が弟なんだよな。

「話を戻しますが、正直論拠が乏しい考えなんですよ。光の女神が長姉であるという事くらいしか」

「姉だからといって光の女神は自分の方が偉いとは思ってないんじゃないかなぁ……確かに叱る時は怖いけど」

「し、叱るのも愛情という事で」

「それは分かりますけどね」

 こんな心優しい人ばかりなら、なんの問題も無かっただろうな。

「あ、一緒に建てる光の神殿、セーラさんに神殿長を任せるというのは?」

「その時はできるだけの事をさせていただきますが、他の光の神殿が動いた時、それを抑えきれるかは……」

「何か口出ししてくるって事?」

「はい。オリュンポス連合では、光の神殿の勢力が一番大きいのです。神殿を一箇所に集めるとしても、その力関係を無視する事は難しいでしょう」

 抑える事ができたらできたで、今度は手を出してきそうだな。裏から密かに。

 いっそ神殿を再興するのは、物理的に近付けないような僻地にするべきか?

 いや、このまま考えを進めていくと「水の都でやれ」という結論になりかねない。止めておいた方が良さそうだ。


 それはともかく、やはり問題となってくるのは、そんな論拠だけで光の女神が他の女神姉妹より上だと考える一部のエリート層か。

 こうなってくると光の女神に「姉妹に上下関係は無い」と言ってもらうのが一番手っ取り早いのかもしれないが、まともにそれを聞けるのは俺しかいない。

 そして俺が皆に伝えたところで、肝心要のエリート層は信じてくれないだろう。他の人達が信じてくれても、それでは意味が無い。

 ……いや、そうともいえないか。結果として、そういうエリート層を少数派にする事ができるのならば。

 まぁ、これはこれで別の問題に発展しそうだ。少数派になって追い詰められたエリート層がどういう反応をするかとか。

 あくまでこれは最後の手段と考えておいた方が無難だろうな。

「いっそ……」

「いっそ?」

「以前お聞きした混沌の女神の神殿も一緒に作る事ができれば……」

 なるほど、この世界の創世神にして六姉妹の母か。

 光の女神より上の存在を用意する事で、六柱の女神姉妹は対等とする。長姉である事が論拠だとすれば、母である事も論拠として十分なはずだ。

 だが……。

「まったく記録には残っていなくて、俺しかコンタクトを取る事ができない。その俺も声すら覚えていられないのに、その存在を信じてもらえるとは……」

「……ですよね」

 二人揃ってため息をついた。

 やはり肝心要のエリート層に信じてもらえるとは思えなかった。それどころか、それ以外の人達に信じてもらえるかも微妙、いや不可能だろう。

 だが、母・混沌の女神を前面に出す事で女神姉妹を対等とするというのは、方向としては間違っていない気がする。

「セーラさん、この件についてはラクティにも相談してみます」

「確かに、女神の事は女神に聞くのが一番でしょうね。私は引き続き、光の女神信仰の歴史を紐解いてみます」

 なるほど、俺は女神側から、セーラさんは人間側から更に調査を進めていくか。彼女は神官、専門家だ。そちらは任せるとしよう。

 部屋から出る間際に、彼女が声を掛けてくる。

「その、女神姉妹の神殿を一箇所にまとめるというトウヤ様の案は、方針としては間違っていないと思いますよ」

「セーラさんの考えも間違いではないと思います。おかげで助かりました」

 そう返すと、彼女は「お役に立てたなら何よりです」と力なく笑みを浮かべた。

 やはり疲れているな。ラクティのためだけでなく、セーラさんを安心させるためにも、早くこの件の解決策を見つけなければならないだろう。

 今回のタイトルの元ネタは『シックスセンス』です。

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