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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
誘惑の洞窟温泉
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第133話 女神様がみてる

「甘党だったという説もありますし、お菓子とかいいかもしれません」

「……どうして知っているんですか?」

「私達の世界では『歴史上の偉人』なので」

「えっ? それだけで五百年前の人の味の好みが伝わってるんですか? もしかして、そちらの人間って長命種?」

 長寿国といわれていたけど、エルフには負けると思うぞ。フォーリィは釈然としない様子であったが、それは置いておこう。

 大地の石臼から砂糖も出せる。せっかくなので春乃さんの案に従い、お菓子で機嫌を良くしたところで話をしてもらうとしよう。

 キッチンに向かうのは春乃さんとフォーリィ、それにクレナとロニだ。

 俺はぐったりしたセーラさんを三階のベッドルームに連れて行こうとするが、その前に春乃さんにどういうものを作るのかと尋ねる。

「そうですね、洋菓子とか珍しがってくれるでしょうか?」

「いや、この世界にあるものだと難しいかもしれないぞ」

 この世界にだってケーキとかはあるからな。スポンジケーキに生クリーム、それにイチゴのいわゆるショートケーキは流石に見た事が無いが。

「ハデスで手に入れた本には魔王は味噌を再現しようとしていたと書いてあったから、昨日は味噌中心でおもてなししたんだが、お菓子じゃなぁ」

「結構ありますよ? 味噌スイーツ」

「マジで?」

「おだんごにおまんじゅう、クッキーにケーキとか」

 洋菓子もあるのか、味噌。どんな味なんだろう。甘じょっぱいのか?

「アレスで手に入る材料で作れそうなのは、味噌だんごと味噌クッキーですね」

 流石春乃さん、昨日買い物に行っている間にその辺りも調べていたようだ。そういう事ならば、そちらは任せても良さそうだな。

 そこで一旦春乃さん達とは分かれて三階に上がり、セーラさんを寝かせる。

「それじゃ、セーラさんもゆっくり休んで……」

「……その前に、ひとつお聞きしてもいいですか?」

 身体を横たえながらも、真剣な目でこちらを見上げてくる。俺も背筋を伸ばし、しっかりと聞く態勢に入った。

「私が、光の神官になったのは……間違いだったのでしょうか?」

 また難しい事を聞いてきたな。女神姉妹の祝福を揃えたとはいえ、俺は本職神官ではないし、人に説教できるような立場ではないのだが。

 しかし、問われたからには真剣に答えねばならない。彼女の真剣な目を真っ直ぐに見つめ返しながら、俺は言葉を選びつつ答える。

「五百年前と、三百年前に、光の神殿が間違ったのは否定できないと思う」

「ハデスを攻めた事と、亜人を排斥しようとした事ですか?」

「前者はどっちかというと、ハデスを攻め滅ぼした後に隠蔽しようとした事かな」

 ハデスを攻めた事については、当時他に手段があったのかと問われると、俺も思いつかない。しかしその後の対応、特にラクティの件については擁護不可能である。

「でも、光の女神信仰が間違ってるって事は無いと思うぞ」

「でも、間違った判断を下したのは光の信徒で……」

「女神じゃなくて信徒ね、当時の」

 俺自身、元々「光の女神信徒」という括りでは見ていないというのもあるのだろう。

 過去でやらかした人達には問題があったと思うが、それで光の女神や今の光の女神信徒がどうこうとは思わないというのが正直なところだ。

 風の神殿の件については、どこまで関わってるか分からないから判断は保留するが。


 しかし、セーラさんが何を気にしているかが分かってきたな。

 過去の問題が発覚した事により、光の女神信仰が間違っていたのではないかと思ってしまった事。そしてかつて亜人がそうされたように、今度は光の女神信徒が排斥される側に回るのではないか危惧しているのだろう。

 そうなったらなったで、セーラさんなら光の信徒に与えられた罰、試練として素直に受け入れそうな気もするが。

 そういう個を見て全体を判断するような考え方はどうかと思うので、ここはきっちりと言っておこう。

「ともかく、一部の信徒が何かしたからって、全ての信徒が悪いって事はないだろう? もちろん、セーラさんも」

 そう言っても顔を伏せたままだ。セーラさんは責任を感じているんだろうな。

 同じ「光の女神信徒」だからって他の信徒の罪の責任を感じる必要なんてあるのかと思わなくもないが、それは俺が信心深くないからそう感じるのかもしれない。

 ……いや、待てよ。この場合は、どうなるんだ? ちょっと聞いてみよう。

「セーラさん。かつて光の神殿が間違った責任が、今の自分にもあるって思ってます?」

「……はい。当然です」

「それはどうして?」

「どうしてって……!」

 セーラさんは、少し声を荒らげて身を起こした。やはり信仰に関する話だからだろう。

 こちらも居住まいを正して向かい合う形になると、なんというか……彼女の方が年上な事もあって、お説教されそうな雰囲気になるな。

 まぁ、こちらも言われっぱなしにはしないが。

「光の神殿は、光の女神様の教えを守ってきたのです。それが間違ったという事は、光の女神様の教えが間違っていたという事……に……!」

 言いながら、どんどん勢いが無くなっていく。

 セーラさんにとってはショックが大きい事なのだろうが、そここそが俺の考えとは違っているところだ。

「『光の神殿は、光の女神様の教えを守ってきた』……本当にそうなのか?」

「えっ? トウヤさん、何を……! いくらトウヤさんでも許しませんよ!?」

 身を乗り出して大きな声で迫ってくるが、全然怖くない。

 それに俺は、夢の中では女神達から弟扱いされているのだ。ここは姉を擁護しよう。

「そもそも光の女神はハデスを攻めろとも、亜人を排斥しろとも言ってないんだろう?」

 ついでにいえば、俺達を召喚しろとも。

「女神がやれと言ってない事をするのも、教えを守る事になるのか?」

「そ、それは……」

 要するにセーラさんは「神殿が間違うはずがない」というのが前提にあるのだろう。

 俺からして見れば、昔の光の神殿の人達は女神の教えを守っていないのだ。きっと女神もそう言うだろう。なんだったら今晩確認してきてもいい。

「それよりもセーラさんは、光の神殿が間違わないって考えるのは止めた方がいい」

「……ッ!?」

 彼女の顔色が変わった。キツい事を言ったが、こればかりはな。神官といっても人間、一部の人間が間違える事はあるはずなのだから。

 それに、そこを認めない事には彼女の言う通り「女神の教えが間違ってた」という事になってしまう。

「俺もそうだけど、春乃さんだって神殿が望むままの勇者って訳じゃなかったんだろう? セーラさんはそれでも春乃さんを信じて来たんじゃないのか?」

「それはそうなのですが……それとこれとは……」

「同じだよ。不正は正す、それが神殿であろうとも。アテナのレイバー市場の件、司祭が関わってたって聞いてるけど、それは女神の教えが間違ってたからじゃないだろ?」

 セーラさんは少し視線を上に向けて考え、そしてハッとなった。

 気付いたのだろう。今回明らかになった過去の問題は、一部の神殿関係者が不正を行った結果、亜人達が被害を被ったという規模こそ違えどアテナの一件に近い事を。

「……そう、ですね。一部の関係者が間違った事は認めます。それを認めないと正す事もできません」

 そう言った彼女は、先程までとは打って変わってスッキリした顔になっていた。目にも力が戻っている。

 しかし、「正す」とは「自分が神殿を正す」という事だろうか。一神官でしかないセーラさんがそこまで責任を感じなくてもいいと思うが、彼女はそうは思わないようだ。

 まぁ、やり方は色々とあるだろう。今回発覚した事を神殿に報告するのもひとつの方法だ。それ以外でも無茶な事でなければ協力するのもやぶさかではない。

 でも、俺自身信仰心があつい訳ではないんだよな。本職神官という訳でもないし。この件に関しては口出しするのははばかられる。

 という訳で、この話は後でサンドラ達に伝えておこう。こういう話は神殿騎士である彼女達の方が適任だろう。

 特にリンはなんだかんだで冷静に物事を見ているタイプなので、彼女がいれば無茶な事をしそうになったら止めるか、こちらに知らせてくれるはずだ。

「あ~、さっきまで立ってもいられなかったんだ。今は休んだ方がいいんじゃないか?」

「えっ? ええ、そうですね。そうさせていただきます」

 頬を赤らめて再び身体を横たえるセーラさん。おそらくどうやってここまで来たのか思い出したのだろう。

 このまま側にいては落ち着かないだろうから、席を外そう。

 ついでにサンドラ達に会いに『無限バスルーム』の門に行くと、案の定真面目なサンドラがルリトラと一緒に門番をしていた。魔王とクレナのつながりがあるとはいえ、ここは魔王軍残党の本拠地。二人の対応も当然といえる。

 彼女達はコスモス達との話の内容を知らないので、詳しくはセーラさんから聞いてほしいと前置きして大まかな内容だけを話す。

 するとサンドラも驚き、ショックを受けた様子だったが、こちらの意図は分かってくれたようで、後でリンとルミスを連れてセーラさんと話してみると言ってくれた。

 いつでも相談に乗ると言ってみたところ、四人での話し合いが済めば報告に伺うと言ってくれたので、この件についてはおとなしく待っておく事にする。

「ところでルリトラ、俺達がコスモスと話している間に何かあったか?」

「コパン……『炎の魔神』の護衛達が訪ねてきた事ぐらいですな」

 今にして思えば護衛は必要無いよな『炎の魔神』。正体を隠すためだったのだろうが。

 それはともかく、魔王とクレナの関係が上手くいくようならば、こちらもパルドー達を呼び寄せる事を考えた方が良さそうだな。

 他に動きは無かったようなので俺は荷物の整理でもと思ったが、ここで先程まで話題に上がっていた『炎の魔神』が近付いてくる。

「今、よろしいですかな?」

「……なんですか?」

 正直胡散臭さはあるし、ヘパイストスの一件もあるのだが、直接何か損害を被った事は無いんだよな。ネプトゥヌスでも仕事はきっちりこなしてくれたし。

 そんなこちらの内心を知ってか知らずか、『炎の魔神』はにこやかな顔で話を続ける。

「いえ、大した用件ではないんですけどね、はい。私は暇なので言伝を頼まれただけで」

「言伝?」

「ええ、ええ、実はお二人を訪ねてこられた方が」

「お二人……って誰の事だ?」

「それはもちろん、あなた様と、コスモス様でございます。『聖王の勇者』が一人ナツキ殿が、お二人を訪ねてこられました」

「……はい?」

 一緒に召喚された五人の内の一人、『聖王の勇者』神南夏輝。

 ハデス十六魔将の生き残り『百獣将軍』を倒して以降噂も聞かなかった武闘派勇者が、ここにきて姿を現した。

今回のタイトルの元ネタは『マリア様がみてる』です。

盛大に間違ったまま突き進む信者を見ている秩序と浄化を司る女神って怖いかもw

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