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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
誘惑の洞窟温泉
130/206

第121話 秘密の湯殿

『異世界混浴物語5 激動の海底温泉』

本日発売です!

「……よし、コスモスは放っておこう」


 コスモスが無事に救出されるのを見届けた俺は、彼等はとりあえず放置しておこうと判断して映像を切った。

 彼は悪いヤツではないのだが、なんというか疲れる。会うのは別に構わないが、自分から会いに行くのは二の足を踏む。そんな微妙なポジションにいるのが自称・勇者コスモスこと西沢秋桜という男だった。

「あの、今の西沢君……ですよね? 確か」

 おずおずと尋ねてくる春乃さん。どうやらうろ覚えのようだ。そういえば、彼女がコスモスを見るのはユピテル以来か。

 というか、自分が彼の事を素直に「コスモス」と呼んでしまっている事に気付いた。いや、別にいいんだけど。

「わざわざ戻らなくても王都で会うだろうし、戻ると時間が掛かるからなぁ」

「ああ、風の神殿の人達の事を考えると、早い方がいいですよね」

 なんだかんだで彼等は、ずっと逃避行を続けている訳だからな、早くゆっくりと腰を落ち着けて休ませてあげたい。

 休むだけならば、『無限バスルーム』を併用すればこの神殿だけでもいいのだが、それだと俺が動けなくなってしまう。

 そして『無限バスルーム』抜きで考えると場所の確保が必要になる。大きなキュクロプス達も腰を落ち着けられるだけの場所が。

 実際に探すのはクレナ達や春乃さん達に任せて、俺は『無限バスルーム』で待つ必要があるかもしれないが、それでもできるだけ離れない方がいい。

 そんな場所を探すとすれば、やはり王宮がある中央のエリアだろう。

 やはり一日も早く中央のエリアに行かないといけないな。港に戻る時間が惜しい。だから、明日は予定通り中央に行こう。

「まぁ、こちらは予定通りという事で」

「そうね、明日の朝、王都に向かいましょ」

 という訳で、改めて地上の景色を映し出し、俺達は覆いかぶさってくるような星空を眺めながら入浴を楽しむ。

「きれいだね~」

「そうだな~」

「良い夜空ですね~」

 プラエちゃんに抱きかかえられる形で彼女にもたれかかり、ラクティを抱きかかえるという、二人に前後を挟まれた体勢になっているが、これは狭いのだから仕方がない。

 星空を見上げると頭を押し付ける形になってしまうが、これも仕方がない。多分。

 ちなみにデイジィは今、ラクティの手の上に座っているので四段重ね状態である。

 というか、プラエちゃんは本当に大きいな。色々な意味で。傍目には俺が子供のように見えるんじゃないだろうか。

 なお、ラクティのポジションは雪菜、リウムちゃんを加えた三人による話し合いの結果交代制という事になった。

「リウム達も終わったら……ルミス行ってみる?」

「行きませんよ!? 恥ずかしいじゃないですかっ!!」

 その後ルミスとリンの、片方は極めて真剣なじゃれ合いが発生し、その隙に春乃さんがそのポジションに座ろうとしてクレナにツっこみを受けたのはここだけの話である。

「よ、よろしくお願いします……」

 なお、どういう経緯かは謎だが、ロニが四人目として座った事をここに記しておく。

 なんというか、うん、湯浴み着の裾から伸びるしっぽが凄くくすぐったかった。



 その後、お風呂から上がり、日課の古文書解読も終える。

 そして今日から新たにプラエちゃんも加えて天守閣のベッドで就寝する訳なのだが……何故か俺は夢の中でもお風呂に入っていた。

 目の前にはにこにこ顔の大地の女神。湯浴み着は一応着ているが、大き過ぎるせいか北半球がむき出しの状態だ。小麦色の大きな双子島が目の前に浮かんでいる。

「……すいません、どうなってるんですか?」

「あなたが成長したからですよ」

 意味が分かりません。成長のご褒美?

 そのままだと視線が双子島に吸い寄せられそうなので、キョロキョロと辺りを見回す。

 湯気によって視界が遮られ、少し先までしか見えない。『無限バスルーム』ならば、もう少し換気が効いているはずだ。

 つかっているお湯も乳白色に濁っており、これも『無限バスルーム』のものではない。

 だが、この景色……どこかで見覚えがあった。双子島も含めて。

 どこだ、どこで見た。確かに双子島は夢を見るたびに見ていたけど。

 ……そうだ! あれだ!

「思い出したか?」

「うぉぅ!?」

 不意を声を掛けられ振り向くと、そこには湯浴み着姿となった光の女神が立っていた。

 湯をかき分け近付いてきた光の女神は、目の前に立ち手を伸ばして俺の身体に触れる。

 その瞬間、湯気が晴れるかのようにハッキリと思い出した。

「そうだ……俺、ラクティに会う前、この世界に来てすぐに皆と会ってる……!」

 この世界に召喚されて一週間ぐらいだっただろうか、女性達に囲まれる夢を見た。

「よし、思い出したか! 偉いぞっ!」

 左から炎の女神が現れ、力いっぱい頭を撫でてきた。

「ねぇ、私達がどうして姉妹かって考えた事ある?」

 その隣から風の女神がふわりと飛んで現れ、腕を巻きつけるように抱きついてくる。

 言われてみれば風の女神が言う通りだ。ここで俺は根本的な部分に疑問を抱いた。

 どうしてこの六柱の女神は姉妹なのか。誰かが姉妹と決めたから姉妹なのか。だとすればそれは一体誰が決めたのか。

「あなたとユキナと大して違いはないわ……」

 答えを出せずにいると、背後から水の女神が現れて助け舟を出してくれた。

 俺と雪菜と同じ……なるほど、そういう事か。水の女神のおかげで、俺はもうひとつの根本的な部分に思い至る事ができた。

「皆には共通の親がいる……?」

 同じ親から兄弟姉妹が生まれる。基本である。

 だが確かに、今まで考えた事が無かったな。この世界の自然を司る女神姉妹に人間と同じように親がいるなんて。だとすれば、その親は何を司っているというのか。

 ……ん? 世界の自然を司る女神姉妹の親……?

「もしかして……」

「ハイ、正解」

 満面の笑みを浮かべた大地の女神が立ち上がり、風の女神の隣に立つ。

「そうです、トウヤさん。私達のお母さんは……この世界を創った女神、世界そのものを司る女神なんです」

 最後に光の女神の背に隠れていたラクティ、闇の女神が顔を出して、そう説明してくれた。そのまま光の女神の右隣に立ち、俺は六柱の女神姉妹に囲まれる形になる。

「よく分かったね~。いい子、いい子♪」

 風の女神がこんなに気さくな態度でなければ圧迫感を感じていたかもしれない。

「ところで弟、ここがいつもの場所じゃないって気付いた?」

「……えっ?」

 いつもの場所というのは、毎晩夢に見ているラクティの神域の事か。

 神域とは女神の力だ。風の女神も自らの神域を使い、春乃さん達を無事に水の神殿に送り届けてくれた。

 このお風呂は、闇の女神の神域ではない。では一体どこだというのか。

「……ちょっと待て。この流れ、もしかして」

「せいか~い♪ ここはママの神域、そのほんの一部だよ」

 なるほど、俺が召喚されてすぐの頃に見た夢もここだったのか。

 どうしてだ? どうして俺は、ここに来る事ができた?

 ラクティの神域は分かる。ラクティと一緒に旅をしているのだから。

 だが、俺は母女神を知らなかった。祝福も授かっていない。にも拘らず何故。

 その疑問には、光の女神と炎の女神が答えてくれる。

「弟よ、ひとつ勘違いをしているぞ。この世界に生きるもの達は全て母上の名も忘れてしまったが、母上は常にこの世界を見守っておられるのだ」

「この世界に生きるもの達は皆おふくろの祝福を授かってるんだ。お前を含めて誰も気付いちゃいないがな」

「この世界を……って、俺は召喚されたんだが」

「召喚された時に母上の祝福を授かっている。そうでなければ、この世界で生きられん」

 それは光の女神の……と言おうとしたところで気付いた。あれはこの世界の言葉を理解し、話せるようになる効果だ。そうか、それ以外にこの世界で生きられるようにする世界の女神の祝福があったのか。

「誰も知らず、気付かない母様の祝福……それでもあなたはここに来る事ができた。だからあなたは私達の弟なのよ」

 最後に水の女神がそう言ってしめる。

 なるほど、前から女神達が弟、弟と呼んでいたのは、そういう理由があったのか。

 ふと視線をラクティに向けると、彼女も気付き「お姉ちゃんですよ!」とエヘンと胸を張ってみせた。やはりラクティにとっても弟なのか、俺は。

 大地の女神はそんなラクティの頭を撫で、こちらを真っ直ぐに見据えた。俺も視線が下がらぬよう意識して彼女を見つめ返す。

「あなたも覚えておいてちょうだい。お母様は……『混沌の女神』、この世界を生み出した女神よ」

「混沌の……女神……」

 六柱の女神姉妹の母、か。混沌という名前だが、創造神でもあるようだ。

「もしかして、このお風呂のどこかに……?」

 その言葉を口にすると、ずっと抱きついていた風の女神が不意に手を放して離れた。

 そして俺を囲んでいた女神達が三人ずつ左右に分かれ、俺の前に道が開ける。皆どこか緊張した面持ちだ。

 その向こう、湯煙の向こう側からはちゃぷ……ちゃぷ……と小さな水音が。

 音の主はゆっくりと、まっすぐに俺の方に近付いてきた。手の届く距離までくると、彼女はその手をゆっくりと伸ばし……そこで俺の意識はぷつりと途絶えた。


 ガバッと飛び起きると、そこは三階天守閣の巨大ベッドの中央だった。

 周りの皆はまだ寝ている。柱にある時計を確認してみると、まだ明け方のようだ。

「トウヤさん……」

 ラクティがむくりと身を起こした。

 俺は彼女を連れ、皆を起こさないように気を付けて部屋を出る。

 頭がぼうっとする。眠気覚ましにひとっ風呂浴びよう。混沌の女神について皆に説明しなければいけないのだろうが、その前にこのもやがかかった頭をシャッキリさせたい。

 ラクティを小脇に抱えたまま一階に下り、二の丸浴場に向かう。

 しんと静かな渡り廊下。その十字路に差し掛かったところでふと足を止めた。

「なぁ、ラクティ。俺……ちゃんと会ったんだよな?」

「……はい、ちゃんと覚えてないかもしれませんけど、トウヤさんは会いました。私達のお母さん、混沌の女神に」

「そうか……そうだよな」

 疑っていた訳ではない。ただ、なんとも不思議な感覚なのだ。

 顔は覚えていないが、これぞ慈愛の笑みという表情を浮かべていたのを覚えている。

 何を話したかは覚えていないが、話された内容は頭の中に叩き込まれている。

 正直会った実感が湧かないが、ならば頭の中に叩き込まれたこの記憶は何なのか。

 渡り廊下から庭を見る。建物も広くなったが、庭も広くなった。全て合わせれば、それこそ城ぐらいのサイズになっただろうか。

 正直、疑問に思った事はあった。俺のギフト、もう風呂と関係無いよなって。

 でも、炎の女神のギフトでキッチンができた時、そういうものなのだと思うようになった。それ以降は疑問に思う事もなくなっていた。

 だが、しかし、俺は知ってしまった。混沌の女神に教えられた。

「まさか……この空間そのものが……!」

 『無限バスルーム』は、あくまで風呂のみ。ここは混沌の女神のギフトであり、それを含む全ての女神のギフトをまとめて、全てを内包する母なる空間。いうなれば、もう一つの世界なのだと。

活動報告の方でキャラクターデザインラフを公開しました。

5巻発売日の今日は、ヒロイン達の別衣装デザインをどどーんとまとめて公開しております。

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