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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
誘惑の洞窟温泉
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第117話 最終兵器光臨

 雪菜が玄関の屋根の上に立ち、辺りを見回す。

「ねぇ、お兄ちゃん。二階と三階、ずいぶんと奥にない?」

「なに?」

 確かに二階より上が前より遠くなった気がする。巨大化ばかりに気を取られて気付かなかったが、二階・三階は、一階ほど大きくなってはいないらしい。

 デイジィも雪菜の隣に飛んでいって、上から建物の全体像を確認。

「なんだこりゃ? おい、なんかデコボコしてるぞ」

 二人によると温泉宿に成長した建物は、中央に三階建て、その周りをいくつもの平屋に囲まれているそうだ。それぞれを渡り廊下でつないで一つの建物になっているらしい。

 平屋の建物は、それぞれ大きさも高さも違うとの事。デイジィがデコボコと言っていたのはその事だろう。 中央の三階建てが今までの建物のようだ。

 よし、ここは手分けをして調べるとしよう。

「ルリトラ、プラエちゃん達と一緒に外回りを頼む」

 身体の大きい面々に外側を調べてもらう。建物と同じくかなり大きく、広くなっている事がここからでも分かる。

 空を飛べる雪菜とデイジィも、ここに加わってもらおう。

「平屋の建物は、ロニ達に任せる」

 ロニとリウムちゃん、セーラさんとサンドラ、リン、ルミスに周囲の建物を頼む。

「ルリトラ、右回りで調べてくれ」

「何かありましたか?」

「むしろ無かった場所だ。他の所みたいに大地の祭壇ができているはずだ」

 右手を見ると、建物の向こう側に釣り堀が見える。左にも風車が立っている。これまでのパターンを考えるに右側奥に新しい祭壇ができているはずだ。

「それらしいものがあったら、まず神殿長さん達をそこに案内してやってくれ」

「なるほど、分かりました」

 神殿長達は、入り口の所で興味津々みたいだからな。


 さて、俺達は中央の建物を調べよう。大地のギフトはおそらくそこにある。ラクティ、クレナ、春乃さん、そして流石に放置はできない『魔犬』を連れて中に入る。

 まず正面玄関を潜ると、大きく立派になった板の間の玄関が出迎えてくれた。

 左右に木製の大きな下駄箱とすのこ。ここまでくると「玄関ロビー」だな。流石に旅館のような受付カウンターは無いが。

 天井は高く、キュクロプスでも問題無く入れそうな建物だ。

 玄関に置いていた荷物がここにあった。ここは以前の玄関が成長したもののようだ。

 ケレスで大地の女神の祝福を授かった時は、浴槽が檜風呂になった。今回木製の物が増えたのも、おそらく大地の女神の影響だろう。

「あの、トウヤさま。これは何でしょう?」

 ロニに言われて見てみると、下駄箱にはスリッパがズラッと並んでいた。こういうところも旅館みたいだ。

「サンダル……にしては、脱げやすそうねぇ」

 スリッパを手に首を傾げるクレナ。となりで『魔犬』も同じように首を傾げている。

 そういえばこの世界の室内履きは紐で固定するサンダルが多かったな。『無限バスルーム』内は裸足でも問題無いので忘れていた。

「同じ室内履きだ。畳の部屋以外ではこれを使ってくれ」

「走りにくそうねぇ……」

 ぼやくクレナ。屋内は走り回るものではありません。

 スリッパのサイズはプラエちゃんからデイジィのサイズまで大小揃っている。下駄もあるようだ。これは庭に出る時に使えるだろう。

 なんというか、凄いな『無限バスルーム』。自分のギフトだけど。

 それはともかく、皆でスリッパに履き替え、ここでロニ達と分かれる。彼女達はルリトラ達に合わせて、右回りで調べていくそうだ。

 俺達はそのまま奥へと進み、渡り廊下を通って中央の建物へと向かう。

 中央と周囲の建物の間には中庭があるが、やはり植物が無い。枯山水の庭だ。『無限バスルーム』内では植物が育たないので、こればかりは仕方がない。

「お城みたいですねぇ」

「えっ?」

 呆気にとられたような顔になるクレナ。

 中央の建物を見上げる春乃さんが言っているのは、日本の城の事だ。彼女以外で理解できるのは俺と雪菜と『魔犬』ぐらい、こちらの世界の人達には分からないだろう。

「冬夜君も思いませんか? ほら、上の方とか天守閣みたいで」

「確かに……」

 白塗りの壁に階層ごとの瓦屋根。そしててっぺんにシャチホコめいた何か、というデザインは城に見えなくもない。……シャチホコ?

 屋根の上の両端に何かがある。日本の城でいうところのシャチホコがある位置だ。左右で大きさが異なり、左の方が大きいようだ。

「屋根の上の、あれなんだ?」

「女性……の像ですな」

 目のいい『魔犬』によると、それらはシャチホコではなく女神像のようだ。

 船首像の中にはそういうタイプもあったはずだが、シャチホコの代わりに女神像とは。どうなっているんだ、ここは。いや、俺のギフトなんだけど。

「もしかして……光の女神と闇の女神じゃないか?」

「あ、確かに。大きい方はお姉様の像かも……」

 やっぱりか。そういえば炎、水、風は祝福を授かると同時にギフトとは別に祭壇のようなものが生まれた。プラエちゃん達は、毎日あの風車の前でお祈りをしている。

 もしかしてあの三階部分が祭壇だったりするのだろうか? 女神姉妹全員の祝福が揃った事で生まれたとか? そういう可能性も考えられる。

 あちらはギフトの後で確認するとしよう、そう考えながら中央の建物に入る。

「構造は以前の建物と変わってないみたいですね」

「見た目は大きく変わってるし、広くなってるみたいだけどね」

 クレナの言う通り床が板張りになり、道場のような見た目に変わっている。

 広さの違いが分かるのは、本棚と壁の間に大きな隙間ができているからだ。この隙間分だけ部屋が大きくなったと分かる。

 一通り確認を終えたら、また片付けなければならない。まぁ、普段から散らかしていないので、整理もすぐに済むだろう。

 とにもかくにも、まずはギフトだ。

 右奥に扉が一つ増えて六つになっているが、ざっと見回してみるとひとつひとつ違う。

 正面の光の大浴場に繋がる扉は「ゆ」と書かれた暖簾が掛けられた引き戸。闇の和室につながる扉は見事な絵が描かれている襖。

 左側の炎のキッチンは扉が無く、暖簾を潜るだけで素通りできるようになっている。風の冷蔵庫は対照的に分厚い扉だ。冷気を漏らさないためだろう。

 そして右側の水の蛇口がある水場へは、木製の格子戸が。新たに誕生した大地のギフトへの扉は、同じ木製でも金属で補強された頑丈そうな扉だった。

「随分と厳重じゃない?」

「蔵の扉って感じですねぇ」

「ああ、確かに」

 テレビでしか見た事ないけど、春乃さんのイメージはなんとなく伝わる。

 蔵のようといっても頑丈そうな錠前は付いていないので、扉を開けて中に入った。明かりを点けると、空っぽの棚だけが並んだ棚が見える。

「何もありませんね~」

「倉庫、か?」

 扉と合っているし、こういう場所があると便利だが、これがギフトというのだろうか。

 いや、出汁とオレンジジュースが出る蛇口みたいにこの中に何かあるのかも知れない。そう考えて調べてみたところ、部屋の奥にあるものが置かれているのを発見した。

 底が深い石皿の上にバームクーヘンのような分厚い円盤形の石を置いている。ただし中央に穴は空いていない。穴無しバームクーヘン部分は二つの石を重ねており、取っ手の付いた上側を回す事ができる。上の円盤には一箇所穴が開いていた。

 いや、持ってみた感じ石じゃないな、この皿は。意外と軽い材質でできている。こちらは予備が数枚あるようだ。

「なにこれ?」

「石臼ってヤツだと思う、多分」

 こちらもテレビで見た事があった。確か手打ちそばの店を取材する番組だった。

 上からそばだけでなく米や豆などを入れて挽く事で粉にする道具である。

 これがギフトだとすれば、『大地の石臼』といったところか。

 ギフトで生まれた石臼が、ただの石臼である訳がないと思うが。

「あの、冬夜君。そこ、ボタンが付いてますよ?」

「えっ?」

 よく見ると、上側の縁に六つのボタンが付いている。

 それを見た瞬間、頭の中に石臼の使い方が浮かび上がってきた。

 おもむろに一番左のボタンを押して石臼を回してみる。すると二つの石の間から白い粉が溢れできた。

「これ、石鹸とかみたいにあなたのMPで生み出してるの?」

「ああ、舐めてみれば何か分かるぞ」

 そう言うとクレナは、おそるおそる手を伸ばし、指先に付いた粉をぺろりと舐めた。

「甘っ! えっ、もしかして砂糖なの?」

 その甘さに驚いているところを悪いが、それはまだ序の口なんだ。

 隣のボタンを押して回すと、また真っ白な粉が出てくる。これは塩だ。

 更に隣のボタンを押して回すと、今度は薄い琥珀色の液体、酢が出てくる。

「あっ、お料理のさしすせそ……」

 流石春乃さん、正解だ。四つ目のボタンで黒い液体、醤油が出てきて、五つ目のボタンでは味噌が出てくる。石と石の隙間からもりもりっと出てくる姿はシュールだ。

 これはあれだ。昔話にもある、回すと尽きることなく塩などが出てくる石臼だ。MPがある限り無限に調味料を生み出す事ができるのだ。

「こ、これだけあれば色んな料理が……!」

「み、味噌……五百年ぶりの……!」

 次々に出てくる調味料に春乃さんと『魔犬』が目の色を変えた。特に味噌は醤油に対する魚醤のような代替品も無く、この世界では手に入らないからな。

 きっと雪菜も喜んでくれるだろう。後で教えてやらなくては。

 一方クレナは、この世界ではなかなか見られない真っ白な砂糖に驚いている。もっとも酢と醤油と味噌まみれになってしまったのでこれは洗いながさないといけないけど。

 そしてただ一人、置いてけぼりでキョロキョロしていたラクティが、ある事に気付いて指摘してくる。

「でも、ボタンはもういっこありますよね?」

 よくぞ気付いてくれた。その通り、六つ目のボタンがまだ残っている。

 何を隠そう、このギフトの真骨頂はここからなのだ。

 皿を取り替え、最後のボタンを押して石臼を回すと、隙間から白い粒が溢れ出す。

「と、冬夜君! これってまさか!?」

 そのまさかだ。

「まさか……米!?」

 そう米である。白米である。炊いたら銀シャリである。

 そのまま勢い良く回し続け、皿いっぱいになるまで米を出し続けた。

 うむ、達成感。今日はこの米を炊いてもらおう。流石に電気炊飯器は無いが。

「飯盒炊爨と同じみたいな感じでいけるかな?」

「鍋でも、できなくはないですよ?」

「……できるの?」

「多分」

 すごいな、春乃さん。ここは遠慮無く任せてしまうとしよう。

「お味噌汁も用意しますね。おかずも、これだけ調味料があれば色々と作れますから」

「遠慮無く使ってくれ、MPが尽きる直前まで!」

 全て注ぎ込む覚悟でいこう。実際にやると動けなくなるけど、整理は後回しでもいい。

 とにかく、おにぎりが食べたい。海苔は無いので塩おにぎりを。いや、何か具を用意するという手もあるな。

 舞い上がってしまっているのが自分でも分かる。あまり意識していなかったが、思っていた以上に和食に飢えていたんだな、俺。

 どうやら『魔犬』も同じようで、あちらも嬉しそうにしっぽを振っている。

「いやぁ、楽しみですな~」

「……えっ?」

 だが、待ってほしい。

「えっ?ってなんですか、えっ?って。まさか捕虜には食べさせられないとでも!?」

「いや、この国でお前を捕虜として扱ったら、こっちが悪者だろ」

「まぁ、それは……」

「だから、神殿のVIPルームに泊めてもらえるように手配したんだが……」

「…………」

「魔将を泊めるとなると、多分もう歓迎の準備してる……よな?」

 そう、魔将が慕われるこの国で、『魔犬』を捕虜扱いする事はできない。だからここまでも拘束する事なくここまで来た。

 本人も忘れている節があるが、俺達は彼を和室に軟禁していたのだ。

 だからこそ、今日はちゃんとした場所で歓待してもらえるようにとVIPルームを借りる手続きをしたのだが……。

「後生でござる~! ここまで来て白米が食べられないとか、そんな殺生な~~~!!」

 恥も外聞もかなぐり捨て、『魔犬』が凄まじい勢いで腰にしがみついてきた。

「うわっ、抱きつくな! ていうか口調変わってるぞ!?」

「こっちが素でござるよ!」

 なんと、今までの態度や口調は「使者としての作法」だったらしい。

「後生でござる! 拙者にも白米を~~~っ!!」

「分かった、分かったから! 神殿長には事情を話すから!!」

 結局根負けして、今日も『魔犬』をこちらに泊める事になった。

 まぁ、新しいギフトが魔将達に有効だったと分かっただけでも良しとしよう。

 新しいギフト『大地の石臼』は、『昔話の型』における「魔法の臼」タイプを元にしています。

 日本だけでなく、海外にもある昔話ですね。


 当初は出るのは米だけ、米と塩だけというのも考えていましたが、最後のギフトという事でドドーンと大盤振る舞いして『料理のさしすせそ』も出るようにしました。

 元の昔話では米や塩だけでなく、金が出たり、肉が出たり、酒が出たり、鮭が出たり、テーブルクロスが出たりしていますのでアリかなと考えました。


 というかどうやって石臼から出てくるんでしょうね、テーブルクロスって。

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