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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
激動の海底温泉
120/206

第111話 トウヤえもん 春乃と海底鬼武○城

 水の都、本殿の広間。ルリトラは『暗黒の巨人』と、春乃さんと雪菜、クレナとロニがそれぞれお供の魔族と戦っている。戦況は一進一退という所だ。

 この状況で戦いの流れを変え、勝利を掴む方法は――ある。ひとつだけある。

 それは……魔砲だ。戦場に魔砲を撃ち込む。これしか無い。

 これは下手をすると被害を増やし、敗北しかねない爆弾でもある。

 だが、やるしかない。いつ『魔犬』が駆けつけるか分からないのだ。

 俺は魔水晶を掴む自分の手が、じわっと汗ばんでいるのを感じていた。

 しかし、このまま撃つのはまずい。倒れているギルマン達を巻き込んでしまう。

 怪我人の救助に当っているセーラさん達に、射線上の皆を退避させてほしいと、風の精霊を使って声を届ける。

 彼女達はすぐに動き出してくれたが、この動きもいずれ勘付かれるな。

 水の神官が伝えてくれたのか、ギルマンの戦士達が遠巻きに包囲しつつその動きを隠してくれているが相手が相手だ。過信はしない方がいいだろう。

 タイミングを見計らって春乃さん達とクレナ達にも状況を伝える。

 すると彼女達は二人の魔族を引き離す形で戦場を移動させ、射線を開いてくれた。

 よし、雪菜もちゃんと戦えているな。春乃さんが前に出てくれているおかげだが、上手く後ろからサポートできている。

 というか、春乃さんが凄い。魔族が魔法を放っているが、全て彼女の前で弾かれ消えている。あれは『無限リフレクション』か。実戦では恐ろしく効果的だな。

 魔族は剣も魔法も使う魔法剣士タイプ。剣の腕もそれなりのようだが、純粋な剣の勝負ならやや春乃さんに分があるようだ。

 一方クレナとロニの方は、正反対の展開をしていた。

 こちらも魔法剣士タイプのようだが、早々にクレナが相手の剣を叩き折ってしまったようだ。ロニも上手く側面に回り込んで攻めかかっているが、こちらは魔法を無効化する事はできずに決定打を与えられていない。

 そしてルリトラも徐々に押されてきている。これは声を届けるのも無理だろう。耳を傾ける余裕が無さそうだ。

 どうやら二人の魔族、同じ魔法剣士でも春乃さん達の相手は剣が、クレナ達の相手は魔法が得意なようだ。

 逆だったらもっと早くに終わっていたかも知れないが、ままならないものだ。

 二組を入れ替わらせるのも無理だろう。二人に連携させないためか、互いに距離を開けてしまっている。

 だが……こちらからは介入できるな。

 いくら強い、速いといっても『暗黒の巨人』ほどではない。

「『精霊召喚』……!」

 突き出した両掌に生まれる光球。ここは光の精霊だ。見える範囲なら自在に操れる。

 二つの光球をそれぞれ魔族達に気付かれないよう近付けていく。戦闘中という事もあって、上を通すと意外と気付かれない。

「今だッ!」

 魔族の頭上を越えたところで急降下させる。光球は弧を描いて二人の後頭部に命中。流石に視界の外からの攻撃には対応できなかったようだ。

 もっとも、その一撃の与えるダメージは大したものではない。

「その隙はッ!」

「逃さないッ!」

 だが、彼女達の攻撃のチャンスを作るには十分だ。

 魔族の動きが一瞬止まった隙を突き、四人が一気に距離を詰める。

 クレナはすれ違いざまに脇腹を薙ぎ、相手がバランスを崩したところを逃さずロニがトドメを刺した。

 春乃さんが魔族の剣を弾き飛ばし、雪菜が至近距離で放った闇の精霊が相手の顔に炸裂した。闇の精霊は意識を朦朧とさせる。あの距離で喰らえばひとたまりもないだろう。

 よし、これで四人がフリーになった。

 残りは『暗黒の巨人』だけなのだが、これが難しい。

 ルリトラも押し返そうとしているのだが、押し切れない。

 辺りに響く音が二人の戦いから発せられる激しい剣戟の音だけとなり、ざわめきも聞こえなくなっていた。

 誰も二人の戦いに割って入る事ができないのだ。下手に割り込もうとすると均衡が崩れてしまいそうで。

 その結果ルリトラが勝てるならばいいが、二人の戦いを見ているとそうなる姿が全くイメージできない。それぐらいに実力が違う。ルリトラはよく持ちこたえているものだ。

 セーラさん達のおかげで怪我人の退避は終わっている。射線は開いている。いつでも撃てる。だが、どうする事もできない。

 せめて二人の距離が離れてくれれば……!

 その時、不意に風の精霊が声を届けてきた。

「……ッ!?」

 驚愕の内容、だが迷っている暇は無い。

 魔砲の照準を合わせる。目標は『暗黒の巨人』、間近には斬り結ぶルリトラ。撃てば確実に巻き込む位置だ。

「……信じるぞ! 『火焔舞踏』ッ!!」

 それでも俺は撃った。魔砲を通して撃ったそれは熱線となって二人に襲い掛かる。俺の出せる最高火力だ。

 灼熱の光が二人を飲み込もうとする。しかしその瞬間、突如として人影が現れてルリトラの盾となった。

 春乃さんだ。風の速さでルリトラを庇う位置に移動していた。

「『無限リフレクション』ッ!!」

 そして熱線の一部を弾き飛ばす。そう、自分とルリトラに当たる分だけだ。

 流石の『五大魔将』も鍔迫り合いの最中への不意打ちは避けられなかったようで、声を上げる間もなく光に飲み込まれた。

 後に残るのは青黒を通り越して名前通りになった『暗黒の巨人』。

 まぁ、ほぼ光のスピードだからな。あれを避けられたら俺達にはどうしようもない。むしろ春乃さんはよく間に合ったものだ。あれが風の女神の力か。

 そう、先程声を届けてきたのは春乃さんだ。自分がなんとかするからルリトラごと撃てと伝えてきた。正直怖かったが、上手くいって良かった。

 おっと、最後まで油断してはいけない。風の精霊を使って皆にそう伝える。

 ピクリとも動かないが、『不死鳥』ならあの状態からでも復活しそうだ。あれが特別なのかも知れないが――と思った矢先だった。

「ガアァァァッ!!」

 やはりそんなに甘くはないか。

 『暗黒の巨人』は雄叫びをあげて『人間無骨』とかいう物騒な名前の十文字槍を振り回すが、周りにルリトラ達は既にいない。皆距離を取っている。

 予想通りの展開だ。これなら遠慮なく撃ち込める。

「という訳で、もう一発!」

 流石にダメージが大きかったのだろう。『暗黒の巨人』は為す術も無く熱線に飲み込まれた。奥の壁もまとめて撃ち抜いてしまったが、後で直すので勘弁して欲しい。

「流石に仕留めたか……?」

 二発も『火焔舞踏』を撃ったせいか、周りの温度が上がった気がする。

 しかし『暗黒の巨人』から目を離す事ができず、汗を拭う余裕も無い。

 皆が無言で凝視している。船体に当たる波の音がやけに大きく聞こえる。

 魔水晶が冷たい。これは汗ばんだ手のせいか。

 永遠にも感じられるような沈黙を破ったのは『暗黒の巨人』だった。真っ黒になった体が力なく崩れ落ち――ない! 槍を杖のようにして踏ん張った!

 反射的に身構えるルリトラ達。俺も三発目を撃ち込もうとするが、そこで止まった。

 『暗黒の巨人』はその姿勢のままピクリとも動かない。

 これは……立ち往生というヤツだろうか? 異世界に来てお目にかかれるとは思ってもみなかった。

 リウムちゃんがいつの間にか俺の横に来て、オペラグラスのようなものでしげしげと観察していたが、やはりピクリとも動かない。ラクティもそれを借りて覗き込んでいる。

 これならもう大丈夫。そう皆に伝えようとした瞬間、ラクティが飛びついてきた。

「ゆ、指が動いてますっ!」

「まだ生きているのか!?」

 思わず大声が出てしまった。どれだけタフなんだ。

 風の精霊を通さなくても皆に聞こえたのだろう。ざわめきと共に皆が身構えた。

 死んだふりをしていたのか、意識を失っていたのかは分からないが、『暗黒の巨人』も咆哮をあげて槍を構える。

 満身創痍だ。肩で息をしている。だが、その目は力を失っていない。倒れる姿がまったくイメージできない。

 根比べだ。『火焔舞踏』は消耗も激しいが、倒れるまで何発でも撃ち込んでやる。

『止めなさい、弟よ』

 しかし魔水晶に力を込めようとした瞬間、聞き覚えのある声が頭に響いた。

 声の主が誰かと考えるより先に壁に開けた穴から水が溢れ出す。

「なっ……!?」

 大量の水は意志があるかのような動きで『暗黒の巨人』、そして倒れた魔族達に襲い掛かり、飲み込み、そしてこちらに向かってくる。

「まずっ……!」

 グラン・ノーチラス号を動かすのは間に合わない。咄嗟にラクティとリウムちゃん、それにデイジィを抱き寄せて身体を伏せる。

 次の瞬間、激流が船体を襲った。全身に力を込めて激しい揺れから三人を守る。

 やがて揺れが収まると、『暗黒の巨人』の姿は戦場から消え失せていた。

 確認してみたところギルマンの方は分からないが、こちらの一行に被害は無いようだ。

『安心しなさい。あの者達は海上まで押し流しました』

 再び頭に声が響く。

 戦場の奥の方を見てみると、大きな水球が通路から現れた。

「やっぱり……」

「お姉さま……!」

 そう、水球の中央に浮かんでいるのは夢で見たままの水の女神の姿。先程の激流も彼女の力だろう。

 よく見ると水球から何かが飛び出ている。いや、水球自体が変形して紐のように伸びているのか。

 その先にあるものを確認した時、俺は思わず「シュールだ……」と呟いてしまった。

 皆も何と言えばいいか分からずに戸惑い、顔を見合わせている。

「クゥ~ン……」

 そう、水の女神は大きな犬を連れていた。水の紐でぐるぐる巻きにされた大型犬を。

 もしかしてあれ、『魔犬』なのだろうか……。

今回のタイトルの元ネタは『ドラえもん』です。

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