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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
激動の海底温泉
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第104話 新たなる煩悩

「その、約束しましたよね。再会した時は……皆で、お風呂に入ろうって」

 遠慮がちにそう言う春乃さんは、はにかんだ笑みを浮かべていた。

 勇気を出してくれた春乃さんに応えるべく、俺はしっかりと頷く。

「お兄ちゃん、顔真っ赤だよ」

 しかし、雪菜に指摘されて慌てふためく事になってしまった。

 落ち着け、落ち着け。いつものお風呂に春乃さん達が加わるだけじゃないか。いや、それが大事なんだけど。

 それに比べて彼女は、目をキラキラさせて、どこか自信に満ちた顔をしていた。

 その堂々とした態度に、見ているこちらの方が恥ずかしくなってくる。ダメだ、顔だけでなく耳まで真っ赤になってしまいそうだ。頭か耳から湯気が噴き出すかも知れない。

「か、歓迎するわ、ハルノ!」

 しかし、クレナの方は圧倒されるばかりではなかったらしい。春乃さんに負けじと声を張り上げる。

「ありがとう、クレナ。今日からは私も入らせてもらいますね」

 それを優雅に微笑んで受け止める春乃さん。なんだろう、二人の間から圧力のようなものを感じるぞ。


 結局夕食と、その後片付けも終わると、早速皆でお風呂に入る事になった。

 皆で脱衣場に移動したのだが、なんというか……。

 雪菜、クレナ、ロニ、リウムちゃん、ラクティの元々一緒に入っていた五人に、今日から春乃さん、セーラさん、サンドラ、リン、ルミス、デイジィ、プラエちゃんが加わる。

 成長した浴室の扉は、プラエちゃんでも屈めば入れるぐらいに大きくなっていた。

 中は元々広く、奥側が深くなっているので問題無いだろう。

 それはともかく合計十二人、美女・美少女ばかり十二人である。無論男は俺一人。

 改めて考えなくても凄い状況だ。嬉しい、確かに嬉しいのだが、ここまでくると嬉しいを通り越して流石に怯む。

 俺は普段からジロジロ見ないように気を付けて、脱衣かごも端を定位置にしていた。

 しかし、最近の彼女達は違う。意外と遠慮をしない。慣れなのか、数の優位のせいなのか、こちらがそれで良いのかと思ってしまうぐらいに堂々としているのだ。

 おかげで湯浴み着に着替えるまで、皆と話しにくいんだよな。どうしても視線が下に向いてしまうから。特にクレナ。

 一人壁の方を向いて脱いでいると、背後からは弾んだ声が聞こえてくる。春乃さんもそうだが、セーラさん達も混浴を嫌がっている様子は無く、ひとまずは一安心だ。やはり数の優位があるから気が楽なのだろうか。

 しかし、今日はやけに視線が突き刺さるな。おそらく初めての春乃さん達だろう。

「……ハルノ、あんまりジロジロ見ちゃダメよ?」

「ハルノ、大胆だね~。私達も遠慮してるのに」

「す、すいません、つい……」

 訂正、どうやら春乃さん一人だったらしい。見かねたのかクレナが注意してくれた。

「見ていいのは、見られる覚悟のある者だけだから」

「そうなんですかっ!?」

 初耳だよ。

「ちょっと待て、クレナ。いつからそうなった?」

「私なりのアドバイスってヤツよ」

 振り返らず、背を向けたままそう問い掛けると、彼女はさも当然のように答えた。

「私も見てると思ったら、見られても気にならなくなったし。ロニもそうだし?」

「クレナさまっ!?」

 恥ずかしそうなロニの声を聞いて、俺はピンときた。あれだ。

「もしかして……ケレス?」

「正解、相変わらず鋭いわね」

 やっぱりあの時か。

 ケレスの神殿に泊まった時、のぼせたクレナを助けて彼女の生まれたままの姿をモロに見てしまい、そして俺はロニに見られてしまった。

 あの後恥ずかしがるロニへのフォローを頼んだのだが、おそらくその時に覚悟云々の話をしたのだろう。

 なるほど、二人は見られたら見返せの精神でいたのか。

「最近逞しくなってきて見甲斐があるようになってきたわ♪」

「そ、そうか?」

「そうですよ! 背中も大きく!」

 ロニも興奮気味に褒めちぎってくれる。

 そう言われても正直自覚が無いのだが、そうなのだろうか。いや、『魔力喰い』を着用して動き回っているし、そうなのかも知れない。

 それにしても以前から混浴中に視線を感じる事は度々あったが、まさかそんな風に見られていたとは。喜んでもらえているなら何より……でいいのか? これ。

 ともかくクレナ達も、別の意味で逞しくなったといえるだろう。

「……冬夜君!」

「は、はい!」

 二人のある種の成長にしみじみしていると、春乃さんの勢いある声が俺の意識を引き戻した。思わず振り返りかけたが、何とか堪える。

「えっと……何かな?」

「私も見ますから、冬夜君も見てください!」

「待て、どうしてそうなる」

 続けて投げかけられた彼女の言葉は、予想外のものだった。

「ハルノ様、湯浴み着脱いじゃダメですよっ!」

 しかも、どんな格好で言っているんだ。というかどこまで見る気なんだ。

 見ていいのか。本当に見ていいのか。クレナ以上だと思われるそれを。

 振り返りたくなる誘惑に囚われながらも必死に耐える。

「……あ~、先に入っとくから」

 しかし、このままでは耐えられなくなる。そう判断した俺は、背後で起きている騒ぎは放っておいて一足先に入る事にした。

 これは逃げではない、戦略的撤退である。

 というか背後の状況を考えると、俺が止めに入る訳にもいかないからな。


 大浴場に入った俺は、洗い場の奥に陣取る。ケレスでは俺が手前側を使ったせいでクレナがのぼせたからだ。

 軽く掛け湯をしていると、まず雪菜とデイジィが連れ立って入ってきた。

 こちらに気付いて、デイジィがすいっと近付いてくる。

 流石に彼女サイズの湯浴み着は無かったようで、ハンドタオルを身体に巻いていた。

 インプとしては大人であるらしい彼女は、意外とメリハリの利いた肢体をしている。ミニサイズだが。

「よぉ、向こうは面白い事になってるぜ」

 だが、ニヤニヤと笑うその表情は子供っぽい。精神年齢はまだ子供なのかも知れない。

 隣の椅子にちょこんと腰掛けたので、桶を手に取って湯を汲んでやった。

「どうなってた?」

「み~んな湯浴み着? はだけた状態で真剣な顔して話し合ってた」

 皆はだけた……見てみたいが、誘惑に負けてはいけない。

 とりあえず、皆が風邪をひかないように対処しておこう。

「雪菜、入り口脇のスイッチで脱衣場の暖房を付けておいてくれ」

「え? ああ、これね。は~い」

 まだ入り口からさほど離れていなかった雪菜に暖房を入れてもらう。

 それから雪菜は椅子を手に近付いてきて、俺の背後に座った。

「何してんだ?」

「お兄ちゃんの背中流してあげるの。早い者勝ちだからね!」

「はぁ? なんでわざわざ……」

「楽しいよ? 洗いっこ」

「こえーよ」

 確かに、デイジィのサイズだと難しいかも知れないな。俺も彼女の小さな頭や身体を上手く洗う自信は無い。

「雪菜、場所交代だ。デイジィ、よく見ておけ。ここのお風呂の使い方教えるから」

 とはいえ使い方が分からないのもまずいので、ここはお手本を見せる事にする。

 いつも通りに雪菜の頭を洗う姿を見せると、彼女は周りを飛び回りながら不思議そうに眺めていた。

「……なぁ、洗いっこってそんなにいいのか?」

「気持ちいいよ~……すっごくしあわせ~……」

 雪菜の顔を覗き込んでるが、気持ち良さに顔を緩ませているだろうな。

 というか、インプのお風呂事情ってどんなものなのだろうか。

「インプって普段はどういう風に洗ってるんだ?」

「はぁ? こんな泡とか使わねーよ」

「……汚れた時とかは?」

「水に飛び込む!」

 想像以上にワイルドなようだ。

 ちなみにケトルト達とは違って水浴び自体は大好きなようだ。

「でも、ちゃんと洗ってからな」

「……洗わないとダメ?」

「ダメ」

 春乃さんと旅をしていた時は、石鹸を勧めてくる彼女から逃げ回っていたらしい。

 ここでもシャンプーのボトルを見てビクビクしているようだ。

「それってさ、なんかヤバそうじゃない?」

「ヤバそう? 何が?」

「だって、光の力の塊だろ?」

「……そういう効果は無いんじゃないかなぁ?」

 これでモンスターを倒した実績はあるが、光の力は関係無かった。

 それを聞くと少しは興味を持ったのか、デイジィは恐る恐るボトルに近付いていく。流石に一人では出せないだろうから、そこは手伝ってあげた。

「泡が目に入らないように、気を付けるんだぞ」

「お~」

 拙い手つきで頭を洗うデイジィ。その姿を見ていると、昔の雪菜を思い出すな。

 小学校に入学したての頃――その頃には既に病気で、忙しい両親に代わって俺がお風呂に入れていたのだが――雪菜が頭も身体も自分で洗うと言い出した事があった。

 それから四苦八苦しながらも雪菜は洗い方を覚え、一月ほどは一人で洗う姿を見守っていただろうか。

 しかし一月後、雪菜が泣き出した。目をつむって頭を洗っていると、一人ぼっちになったみたいで寂しかったそうだ。それからはお互いに洗いっこするようになっていた。

 昔を思い出してしみじみしている内に雪菜の頭を洗い終わって泡を流す。

 次に行く前にデイジィを見守っていると顔中を泡まみれにして「痛っ! いたたっ!」と声を上げ始めた。

「デイジィ、顔の泡を洗い流すぞ」

 指を差し出して前髪を上げつつ顔にお湯をかけてやると、痛みも引いたのか黙って手を動かすのを再開した。雪菜も最初はこんな感じだったなぁ。

 あの時に倣って、そのまま洗い終わるまで前髪を支えていてあげよう。

 デイジィがじぃっとこちらを見てきて、見つめ合う形になる。こういうところも雪菜にそっくりで、思わず笑みがこぼれる。

「わ、笑うなよ! 怖くなんかないからな!」

 顔が紅いのは熱気のせいだけではないだろう。

 隣で雪菜がうんうんと頷いている。お前もそうだったもんな。目をつむるのが怖くて、洗っている間中ずっと前髪を支える俺を見続けていた。よく覚えているぞ。

 まだお湯にもつかってないのにほっこりしていると、デイジィが「もういいよな?」と言ってきた。雪菜がすかさずお湯を掛けて泡を流すと、顔を振って髪の水気を切る。

 よく頑張ったなと頭を撫でると、彼女は恥ずかしそうにその手を払った。


 続けて身体の洗い方も教えよう。デイジィ用のタオルは、ロニがタオルを切って用意してくれたそうだ。

 今度は雪菜が自分で洗ってお手本を見せると、デイジィはすぐにそれを真似して全身泡まみれになる。しかし目には入らないので大丈夫そうだ。

 ところが、ある場所を洗おうとしたところで一つの問題が発生した。

「あれ? あれ?」

 背中だ。羽が邪魔で自分の背中を洗えないのだ。

「デイジィ、そこは洗ってやるよ」

「…………おぅ」

 背中と羽だけなら多分何とかなるだろう。椅子ごと移動させて俺の前に移動させる。

 それにしても小さな身体だ。小さなタオルを受け取ると、まずはできるだけ痛くないよう、優しく優しく背中を洗った。

 コウモリに似た羽も皮膜を傷付けないよう、丁寧に手洗いをしてあげよう。流石に羽を洗うのは初めてだな……。

 その間、借りてきた猫のようにおとなしくしているデイジィ。

 そして、横から顔を近付けて微笑ましそうに見守る雪菜。

 それに気付いたデイジィは雪菜の鼻を叩こうとするが、簡単に手のひらで受け止められている。こら、あんまり動くな。

 最後に泡を流すとデイジィは立ち上がり、勢い良く羽ばたかせて羽の水気を飛ばす。

「デイジィ、私が連れてってあげる!」

「あ、コラ! 離せ!」

 そのまま椅子から飛び立とうとするが、それより早くに雪菜が彼女を抱き上げた。

 抱き上げられたデイジィが足をジタバタさせているのも意にも介さず、そのまま湯船に連れて行ってしまう。

 ついて行こうにも俺はまだ頭も身体も洗っていない。デイジィにダメと言った手前、俺もちゃんと洗わないとダメだな。

 今日は洗いっこは無しだなとタオルを手に取ると、脱衣場への扉がガラッと開いた。

 視線を向けると、そこにはラクティとリウムちゃん、それに扉を潜って入ってくるプラエちゃんの姿があった。更にその後に、サンドラ、リン、ルミスが続く。

 クレナとロニ、春乃さんとセーラさんの姿が無いな。

 ラクティとリウムちゃんは、俺の姿に気付くとすぐに駆け寄ってくる。プラエちゃんもその後について来た。

「クレナ達は?」

「……話が長くなってきたから、放ってきた」

「あ、大丈夫ですよ。ケンカしてるとかじゃないですから」

「みんな仲良しさんだよ~」

 あの四人、何の話をしているんだ。気になるが、女性陣だけで話しているのだから、首を突っ込むのも良くないだろうな。

 そんな事を考えていると、先程までデイジィが座っていた前の椅子にリウムちゃんが、雪菜が座っていた後ろの席にラクティが座って前後を挟まれる形になった。

 横からはプラエちゃんが大きな瞳で覗き込んでくる。眼帯は付けたままなんだな。

 まぁ、四人については待つしかない。こちらはできる事からやっていくとしよう。

混浴は、まだ続きます。

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