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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
激動の海底温泉
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第99話 デザートは美味しそうな果実で

「トウヤさ~ん、焼けましたよ~♪」

 水着の上にエプロンを身に着けたラクティが手を振って俺を呼ぶ。

 近付いて魚の切り身が鈴なりになった串を受け取ると、彼女は「美味しいですよ♪」とにっこり笑う。

 クリッサが準備してくれていたバーベキューは、海の幸を中心にしたものだった。

 俺が受け取った串は、白身魚の切り身、貝、タコの足らしきものが刺さっている。

 水の釣り堀、実は魚以外も取れるのだ。今もクリッサは、マークと一緒に魚を捕まえ、追加分を用意している。

 マークにも休んで欲しいのだが、それを言うのは酷か。ここは思う存分クリッサの手伝いをしてもらうとしよう。本人も嬉しそうだし。

「いいなぁ、楽しそう……」

 という訳で、こちらはこちらで楽しませてもらうとする。

 向こうには砂浜に座り込んで、ヴェルからもらったサンゴなどを飽きもせずに見ているリウムちゃんの姿が見える。

 放っておくと、というか既に食事の事も忘れていそうなので、その背中にご飯だぞと声を掛けておいた。

「な~んで私は呼ばないかな~?」

「後ろからソロソロ近付いてきてただろ?」

 そして後ろから抱きついてきた雪菜は、受け流すようにあしらう。

 足音を立てないように飛んできたのだろうが、皆でわいわいやっている状況だと羽の起こす風の方が目立つのだ。

 そのまま雪菜を背負っていると、リウムちゃんが腰を上げて近付いてくる。

「どうだ、珍しいのはあったか?」

「……全部、珍しい。アテナでは見られないものばかり」

 ふるふると首を横に振るリウムちゃん。そういえばアテナには海がないという話だったな。残念ながら彼女では詳しい事は分からないようだ。

 そこでシャコバに尋ねてみたところ、特別希少なものは無く、全て装飾品の素材になるとの事だった。武器にならないかも確認してみたが、サンゴで殴るぐらいなら棍棒で殴った方がマシらしい。

 そういう事ならば、扱いはシャコバに一任しておいた方がいいだろう。


 報酬の処理を決めたところで食事にしよう。

 というかルリトラとパルドーは、既に木製ジョッキを手に飲み始めている。シャコバもそちらに戻って一緒に飲み始めた。

 ルリトラの奴、片手で串三本を持って一口で食べている。口のサイズから違うとはいえかなりの勢いだな。なるほど、クリッサも忙しくなる訳だ。

 酒盛りはしばらく終わりそうにない。食べ終わったらクリッサ達と交代するか。

「みなさ~ん、こっちも用意できましたよ~♪」

 串を数本食べ終え、塩焼きにした魚にかぶりついていると、ロニとクレナがドラゴンの果実を切り分けて持ってきてくれた。

 見た目はカッティングしたメロンに近いな。ただ皮は宝石のように光沢のある明るい青で、瑞々しい果肉は蜂蜜色だ。

 十人いるので一人一切れだが、こればかりは仕方が無い。

「じゃあ、ここはリーダーのトウヤから一口」

「俺か? じゃあ……」

 クレナに勧められ、一切れ口に運ぶ。そしてしばし味わって、しみじみと一言。

「……甘いな。これは確かにどんな病気でも治りそうだ」

「じゃあ私も……うわっ、甘~い! 何これ!?」

 横から手を伸ばした雪菜も驚きの声をあげる。

 それを皮切りに皆も次々に果物を口にして、直後に口を押さえて悶絶した。

 うん、甘いんだよ。というか甘過ぎるんだよ。どんな病気でも治せるほどの栄養を蓄えると、果物はここまで味が濃くなるのか。

 しかし味は悪くない。ここまでくるとかえって不味く感じそうなものだが、むしろ美味しいのだ。吐き出すのが勿体無いと思う程に。

 そのためこの暴風のような味覚の奔流に、ただただ耐えるしかないのである。

 美味しいのに疲れる味って、初めての経験だな。

「……薬だと思えば、美味しいよね」

 隣でそうつぶやく雪菜の声には、妙に実感がこもっているような気がした。

 一番に来るのはあくまで「美味しい」なので、ヴェルの妹も大丈夫だと思いたい。

「そんなに変な味ですか? 美味しいんですけどねぇ……」

 そしてただ一人、ラクティだけは平然とした顔でこの果物を食べていた。

 最近忘れかけていたが、流石女神というべき――なのかも知れない。


 それはともかく、ラクティによると身体に良いものなのは確かみたいなので、ルリトラ達にもしっかり食べさせた。

 やはり悶絶していたが、疲労回復には効果テキメンだそうだ。

 残り二切れはマーク達の分だ。パルドー達がしっかり食べさせてくれるはずだ。

 という訳で俺は、雪菜、ラクティ、リウムちゃんの三人を連れてクリッサ達のところに交代しにいく事にする。

 クレナとロニは先程までバーベキューを食べていたので、もう少し食べているそうだ。口直しだな。俺も塩気の強い干し肉を噛んでいる。

 まぁ、あの果物は一度味わっておくべきだと思ったので、交代する際にクリッサにも絶対に食べておくようにと言っておいた。

 その後、向こうからマークの「ふぎゃーーーっ!!」という声が聞こえてきたが、聞こえないフリである。

 休んでおくように言ったのに、クリッサの手伝いをしていたのだ。それでしっかり疲れを癒やしてもらおう。



「まったく、ヒドい目に……って、程でもないのよねぇ」

 それから食事を終えてお風呂に入ると、クレナが顔半分を沈めながらぼやいた。

「俺は足の疲れも吹っ飛んだ。そっちはどうだ?」

「……実は私も」

 ぼやきつつも効果はあったようで、彼女も憮然とした表情で認めた。

 まぁ、納得できないというか、釈然としない気持ちは俺にも分かる。

 でも、効果はある。マークに関しても、彼がクリッサの手伝いばっかりで休んでなさそうだったので、あの果物を食べてもらいたかったのだ。つまりは親切心である、多分。

「ところで、ツルに巻き付かれたところは大丈夫か? 怪我してるなら治療するけど」

「ああ、ちょっと跡が残ってたけど、もう治ったわ。ほら」

 そう言ってクレナは手首を見せてきた。確かに、もう赤い跡も残っていない。

「ロニはどうだ?」

「私も大丈夫です」

「むしろ、引っ張られた鎧の方がダメージ大きいんじゃない?」

「ですね、留め具が壊れかかってました」

「それは、魔法じゃ無理だな……」

 後でパルドー達に頼んでおこう。操舵の合間に直してくれるはずだ。

 防具が壊れたまま水の都に行く訳にはいかないから、時間が掛かるようなら操舵は俺達で引き受けよう。

 続けて雪菜とラクティにも同じ事を聞く。

「お前達はどうだ?」

「見てみて~♪」

「あ、跡になってませんか……?」

 すると雪菜とラクティはそろってお尻をこちらに向け、湯浴み着の裾をピラリとめくってきたので慌てて目を逸らす。

 そういえば水着引っ張られてたの下の方だったな。

「え、えっと、大丈夫そう、ですね」

「あんた達、はしたないでしょ!」

 ひとまずロニがチェックしてくれて大丈夫だったようだが、直後にクレナが湯音を立てて立ち上がり、二人のお尻をピシャリと叩いた。

「慎みを持ちなさい! これは男も女も関係無いわよ!?」

 そのまま湯船の中で二人を正座させ、クレナは腰に手を当て仁王立ちで説教を始める。

 叩かれたお尻が痛いのか、雪菜もラクティも涙目だ。

 まぁ、さっきの二人の振る舞いは、嬉しくないとは言わないが流石にはしたない。俺も説教を止めずに見守る事にする。

「おっきい……セーラほどじゃないけど」

「しっ」

 すすすっと隣に来たリウムちゃんの口を押さえて止めた。

 クレナの説教を止めないのは、湯に濡れた湯浴み着がピッタリと張り付いて丸いお尻の形が浮かび上がっているからではない。いや、ホントに。

 クレナは貴族令嬢として作法を習ってきた身、俺が下手に口出しするより任せてしまった方が良いだろう。

 とはいえ、のぼせてしまってもいけないので、ほどほどの所で声を掛けておく。

「なるほど……あんまり丸出しでも色気が……」

「……まぁ、間違ってないわね」

「そういえば、大地のお姉様がそんな感じですね。トウヤさんも、いつも視線で追って」

「ラクティ、その話詳しく」

 クレナに任せておけば大丈夫なはずである、多分。


 その後の船旅は順調に進んだ。

 防具の修繕もパルドーが文字通り朝飯前に済ませてしまったので、あとは水の都到着に備えて英気を養いながら到着を待つばかりだ。

 深海まで潜っているため海獣類とも遭遇する事なく、穏やかな航海を続けること数日。

 グラン・ノーチラス号のレーダーが、巨大な建造物群の姿を捉えた。

 レーダーを見ていたパルドーが神妙な面持ちで呟く。

「この構造……間違いにゃく人工物にゃ」

 近付くまで断言はできないが、ほぼ間違いないとみていいだろう。

 とうとう到着したのだ、水の都に。

「よし、このまま近付いてくれ。向こうから来いって言ってきたんだ。こっちに気付いて何かしてくる可能性もある」

「手荒い歓迎がくるかにゃ?」

「無い……とは言い切れないな」

 あれからも毎日手紙を送り続けているが、春乃さんからの返事は無い。

 何が起きているか分からない以上、油断するべきではないだろう。

 いつでも迎撃できるよう準備しつつ、慎重にレーダーの反応に向けてグラン・ノーチラス号を進めていった。

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