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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
激動の海底温泉
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第97話 轟きの森のドラゴン

「トウヤ! 浸ってないで助けてよ!」

「お兄ちゃん、おっぱいなの!? おっぱいがいいの!?」

 俺の目の前で言い争う二人。まるで姉妹のじゃれあいだ。

 しかし二人が姉妹だとすれば、それを止めるのは兄の役目だろう。俺は二人に近付き声を掛ける。

 といってもそんな難しい事ではなかった。二人にはヴェルの帰りを待つ妹の事を告げたら一発だ。

「ちょっと浮かれてたわね……早く病気を治す果実を手に入れないと」

「うん、早く帰れるようにしてあげよう!」

 こうして二人は仲直りした。いや、本気でケンカしていた訳でもないから、仲直りというのも変な言い方かも知れないが。

 ともかく、俺達一行は島の奥へと向かった。元々強いモンスターはいないため、特に問題も無く進む事ができた。

 それにしても心地良い森だ。木漏れ日が差し込み、清涼な空気が流れている。海から離れて奥に進むほど過ごしやすくなっているかも知れない。

 急ぎの旅でなければ数日休んでいきたいぐらいだが、早く春乃さんを迎えに行きたいのでそうはいかない。

 まずはヴェルの妹のために病気を治す果実を手に入れよう。

 しばらく歩いていると、先頭を進んでいたロニが振り返りつつ声を掛けてくる。

「あの、倒木が多くないですか?」

「……多いな」

 確かに多い。その内の一つを調べてみると、枯れている様子もなく、何者かによってなぎ倒されたように見えた。

「こういう事をできる奴がいるって事か……」

 ヴェルも強い力で押し潰されたような断面を神妙な面持ちで見つめている。木はそれなりの太さだ、これを折れるとなると相当なパワーがあると見ていいだろう。

「……やっぱりドラゴンみたいですね」

 ラクティが地面に手を当てながらそう言った。

「分かるのか?」

「ドラゴンくらいのレベルになれば」

 なるほど、女神姉妹がそれぞれ司っているのは自然の一部。ドラゴンは周囲の環境、自然に影響を与える存在なので、察知できるのかも知れない。

「やはりドラゴンですか、ヘパイストスのアレよりは戦いやすそうですが」

「……毒ガスは無さそう」

 ルリトラと、その肩に腰掛けたリウムちゃんが辺りを見回しながら言った。確かにあれに比べたら『水のヴェール』無しでも戦える時点で楽である。

「周りの環境に影響を与えた結果がこの島なのかしら?」

「いいドラゴンですね」

 クレナの疑問を聞いてロニは笑うが、そういうドラゴンだった場合、俺達はどうすればいいのだろうか。倒さずに果実を手に入れられたらいいのだが。

 ヴェルの方を見てみると、なんというか目が据わっている。ギルマンの表情はよく分からないのに相当思い詰めているのだろうなと分かるのは、彼の境遇がかつての自分に似ているからだろうか。

 もし雪菜を救う薬があると当時の俺が聞いたら一体どうしていたか。そんな事を考えながら俺達は島の奥へと進んでいった。


 更に進むと、バキバキッと豪快な破砕音が聞こえてきた。もしやドラゴンかと音がした方に向かうと、奇妙な光景が目に飛び込んできた。

「なんだありゃ……」

 最初に思ったのは「象サイズの巨大な球根」。色は濃い緑で、こちらまで漂ってくる青臭さは小学校のうさぎ小屋を思い出させた。

 根かツルか分からないものが下部から何本も生えており、ウネウネとうごめいている。

 いや、ツルだけではない。球根自体も動いてる。どうやらツルは底からも短いものが生えているらしく、それを使って動いているようだ。

 ゆっくりと動くそれは、大きな木の前まで進むと、ツルを左右に伸ばし……次の瞬間、二本のツルを木に巻きつけてそのまま幹を握り潰してしまった。

「えっ……?」

 予想外の光景に一瞬何が起きたのか分からなかった。

「い、いいい、今の何!?」

「わ、分かんないわよ! 進むのに邪魔だから折った……とか?」

「あのツル、そんなに太くないぞ!? ラクティがベアハッグで折るようなものだぞ!?」

「できませんよっ!?」

 変なたとえにラクティが抗議の声を上げるが、実際彼女の腕ぐらいの太さなのだ。

 それなのに木をへし折った。つまり、あいつにはそれだけのパワーがある。

 ドラゴンだ。ウロコもなく、ドラゴン要素ゼロだが、あの強さはやはりドラゴンだ。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。見て、お腹がふくらんでる!」

 雪菜に言われて見てみると、球根の部分が一回り大きく膨らんでいた。

 何かの攻撃かも知れない。そう思った俺は咄嗟に前に出て盾を構える。

「皆、下がれ!」

 と声を上げてみたものの、予想に反して球根ドラゴンの次の行動は攻撃ではなかった。

 緑の表皮が勢い良く開き、中から真っ赤な花びらが出てきて大輪の花が咲く。それと同時に散弾のように何かが周囲に撃ち出された。

「あ、落ちたわよ」

 しかし、俺達にダメージを与える程の勢いは無いらしい。

 その内のひとつが俺の兜の上に落ちてきて、クレナがそれをつまみ取る。

「なんだそれ?」

「種……みたいね。あいつの種かしら?」

「鳳仙花じゃあるまいし……」

 どうやらあの緑の球根は、巨大な花の蕾だったようだ。球根改め花ドラゴンである。

「トウヤ……見て」

 リウムちゃんが二つの種を拾ってきて見せてくれた。明らかに違う種類の種だ。兜に落ちてきたものとも違う。

 花ドラゴンの方を見てみると、ゆっくりと花びらを閉じ、ツルを使って倒れた木から果実を取り、蕾の先端部分から中へと放り込んでいる。

「……なるほど、ああやって果物を食べて、蕾の中に種を蓄えているのか」

「あのドラゴン、何がしたいんだ?」

 怪訝そうな顔で首を傾げているヴェル。

 一方で俺は、何となくだが花ドラゴンの目的が理解できたような気がした。

「……あいつ、森を整備しているんじゃないか?」

「整備? トウヤ様、どういう事ですか?」

「確か間伐と言ったか、森ってあんまり木が密集していると、中に光が届かなくて森がダメになるそうだ」

「ああ、私も聞いた事ある……かも?」

 あるよ、一緒に見ていたテレビ番組でやってた話だから。

 番組の中で「死にゆく森」みたいなフレーズが出てきて、真剣に見ていた雪菜が泣き出したのを覚えている。

「……さっきみたいに木を倒して、木同士の間隔を調整してる?」

「そうだ。それと、果物の種をばら撒く役目も担っている。そうする事でこの島の環境を調整しているんだ」

 そう、この補給島は、花ドラゴンによっていつでも新鮮な果物が補給できるよう維持されている島なのだ。

 いや、正確には花ドラゴンは自分の餌場を作っているだけで、船乗り達がそのお零れに与っているだけなのだろう。

「……確かにそれはドラゴンですねぇ」

「ヘパイストスのドラゴンと比べると随分平和的だけどね」

 俺の説明に皆も納得してくれたようだ。

 そして船乗り達が島の奥に行くなと言っていた理由も理解した。まかり間違っても花ドラゴンを倒される訳にはいかなかったのだろう。

 普通に説明してくれなかったのは、おそらくドラゴンスレイヤー勲章のせいだ。

 あれのおかげで俺達がヘパイストスでドラゴンを倒したのは有名になっていたので、ドラゴンの存在を知れば倒しに行くと思われたのかも知れない。

 念のために言っておくが、必要もなく好き好んで戦いを挑んだりしないぞ、俺は。

「……ともかく、あのドラゴンを倒すのはまずいな。この島がどうなるか分からない」

「だから、倒すなと言うのか? 妹の事は諦めろと?」

 俺の出した結論に、ヴェルが槍を手に噛み付いてきた。その声色からイライラしているのが伝わってくる。だが、早とちりするな。

「そうじゃない。倒さず果物を手に入れる方法を考えればいいんだ。お前は木から果物を一つ採るのに、木ごと切り倒すのか?」

「いや、それは……しないな」

「だろ? それより問題は、あの身体のどこに実を持っているのか。あるいは持っていないのかだ」

 ヴェルが戸惑いつつも引き下がったところで、改めて花ドラゴンを見てみる。

 象ぐらいのサイズとはいえ蕾とツルだけの姿。植物なのは間違いないと思うが、果実が実っているようには見えない。

 もしかしたら件の果実は、この花ドラゴンのものではないのかと考えていると、隣のルリトラが声を掛けてくる。

「トウヤ様、先程花が開いた時、中に球のようなものが……」

「球?」

 巨大サイズとはいえ花は花、雄しべや雌しべが中にあるのは十分考えられるな。そこに果実がなっている事も。

「もう一度開かないかなぁ」

「いつ開くかも分かりませんな。今食べた果実を消化すれば開くのか……」

「消化スピードが早いと……この島の果物はとうに無くなってると思う」

 俺とルリトラが花ドラゴンを見ながら話し合っている脇で、リウムちゃんがポツリと一言。その言葉に皆無言になってしまった。

「と、とにかく、もう少し追跡して観察しよう。花を開くタイミングが分かれば、その時に実を採ればいいんだ」

「……いつまで待っても開かなかったら?」

「俺がこじ開けてあの中に入る」

 協力を申し出たのだから、これぐらいはさせてもらおう。

 抵抗されるだろうが、『魔力喰い』を装備していれば大丈夫だろう。やり方を考えれば下手に攻撃するよりも花ドラゴンへのダメージは少ないはずだ。

「……変な感じだな」

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「いや、何でもない」

 モンスターに気を遣うというのも変な感じだが、それを言ったら心配げに顔を覗き込んでくる魔族の妹はどうなるのか。

 むしろ人間の助けになっているモンスターなのだ、戦いを避けても問題はないだろう。

「あ、移動し始めましたよ!」

 そうこうしている内に、花ドラゴンが再び動き出した。

「ちょっと追跡を頼む。俺、準備をしてくるから」

 そう言うが早いか、俺は返事を待たずに『無限バスルーム』の扉を開いて駆け込む、

 あれを使えば花ドラゴンに対処しやすくなるはず。これまで得た情報からそう推察した俺は「秘密兵器」を手に取った。

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