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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
激動の海底温泉
101/206

第92話 セーラー服を脱がさないで

海全域が水の女神信仰の総本山扱いだと、「水の神殿」という表現だけではどこを指すのか分かりにくいため、名称を「水の都」に変更しました。

 次の日は、ルリトラとシャコバだけを伴って、コパンさんに会うためにオークションハウスへと出向いた。

 荷物を引き取ってくるだけなので、雪菜の事はクレナに任せて留守番させている。

 貴族、商人、近隣の有力者が集まる場所なので、下手に連れて行っても見世物になりかねないと思ったのだ。

 昨日勇者としての知名度の効果を実感したところだったので、見栄えを良くしておこうと完全武装で出向く事にした。歴戦の戦士感は出てると思いたい。

 俺は『魔力喰い』を装備し、炎の女神キッチンのマグロ包丁を腰に差している。

 この包丁、ロングソード並のサイズであり、炎の女神らしく装飾も派手なので、普段使いの剣としては使い勝手が良かったりする。

 この三人で町中を歩いたのは流石に目立ったらしく、ロビーに入ると既にコパンが待ち構えており、俺達に気付くと小走りで近付いて来た。

「いやいやいやいや、大勝利だったそうですなぁ! ポリスを狙っていた魔王軍の残党を退治したとか! いや、めでたい! これでネプトゥヌス・ポリスも安泰ですな!」

 これみよがしに大声で喋りながら握手を求めてくる。

 俺の功績をアピールしてくれているのだろうが、同時にそんな俺と親しい自分もアピールしているな、これは。

 しばらく付き合ったところで支配人が登場し、別室に案内してくれた。

 中に入るとカーテンで仕切られていて奥が見えない。背後の扉が閉められた後でカーテンが開かれる。

 そこにあったのは俺の胸ぐらいの高さまで積み上げられた金銀財宝の山。ルリトラも思わず感嘆の声を上げる。

「ああ、これを廊下から見えないようにするためか……」

「マナーですよ」

 そう言って支配人は微笑んだ。それだけでなくトラブルを避ける意味もあるのだろう。実際この部屋に入るまでも周りから視線を感じていたし。

「ところで、金貨銀貨はともかく、財宝は何なんだ?」

 俺が頼んだ物ではないので、売れ残りという訳でもなさそうだ。

「前に呪われた品を取っておいてもらうという話をしていましたが、それですかな?」

「一部はそうだけど、それだけじゃにゃいみたいにゃ」

「ああ、全てコインだととんでもない量になりますから。手軽に換金できるものを用意させていただきました。いえいえいえ、追加料金なんて結構ですよ。これはサービスの一環でございます。ああ、お約束の報酬もこちらの中からいただいていきますから」

 シャコバが耳打ちしてくれた内容によると、財宝は宝石類や貴金属のインゴットなど換金性の高いものが九割らしい。

 実際まとまったお金は、宝石などの軽いものに換えて持ち歩く旅人は多いそうだ。

 ウチの場合は、シャコバ達の手で更に価値を高める事もできるので、ありがたいサービスだと言える。

「こちらは……絵か?」

 ルリトラが覗きこむ残りの一割は、絵画などの美術品や高級そうな調度品だ。

「ええ、私めがいただく報酬分でございます。いえいえ、ボーナスなど必要ありません。これだけで結構です、はい」

「金貨に換算いたしますと、一割程度のものである事は、私が保証いたしましょう」

 そう言って支配人は三枚の紙を渡してきた。それぞれ今回の大オークションの結果と、コパンさんが揃えた金銀財宝、そして報酬分の落札価格一覧のようだ。レシートのようなものだろうか。

 シャコバによると、コパンさんの報酬分は交渉で値段を引き上げられるものとの事。

 あれを元手に商売するつもりなのだろう。しっかり、いや、ちゃっかりした人である。


 結果として、彼に任せたのは大成功だったと言えるだろう。

 コパンさん達に別れを告げた後、馬車を用意してくれるという支配人の厚意を丁重にお断りし、荷物を『無限バスルーム』に運び込んでオークションハウスを後にした。

 普通だったら馬車が必要な量だったな。こういうところは本当に便利だ。

「帰りに光の神殿に寄っていくぞ」

「神殿に、ですか?」

「ああ、馬車の事を頼みにな」

 元々『空白地帯』を旅するため、大量の荷物を運ぶために購入した馬車だったが、『無限バスルーム』が成長した今、その役割が無くなりつつある。

 乗って移動すれば楽だし、『無限バスルーム』内に馬車を入れて連れて行くのは不可能ではないが、これから向かうところは海。馬一頭分の食料の事を考えると、デメリットの方が大きくなってしまう。

 特に今回は春乃さん達を助けた後、陸地に戻るまでの事も考えねばならないのだ。

 ここで手放し、次に必要になった時に改めて買い直した方がいいだろう。

 それに『空白地帯』を旅したり、元・魔王城に出向いたりと色々無茶をさせてきたが、あの馬は特別頑丈という訳でもない。

 光の神殿に頼めば「魔王城から生還した馬」として大事にしてもらえるはずだ。

 という訳で神殿長に面会した俺は、事情を話して馬と馬車を引き取ってもらえないかとお願いした。金をやり取りする気にはならなかったので、売却ではなく寄進する形で。

 すると神殿長は大喜びで承諾。『光の女神巡礼団』などで使う馬を飼育するための牧場があるそうなので、馬はそちらでお世話してくれるとの事だ。

 馬車の方は普通に考えれば処分が妥当だと思うが、もしかしたら記念品として扱われるかも知れない。


「ところで海を目指すそうですが、アレスを目指すのですか?」

「え? ええ、そのつもりです」

 アレスは内海を西から南にかけてぐるっと包む龍尾半島を国土とする国だ。

 春乃さん達を助けた後は、ネプトゥヌスに戻るよりそちらに行った方が近いので、元よりそのつもりである。

「ならばお気をつけください。あの国は、光の女神様のご加護がほとんど届かぬ国です」

「……ヘパイストスみたいな国って事ですか?」

 あの国の光の神殿も、小さくて肩身が狭そうだったな。

 訝しげな顔で問い掛けると、神殿長は神妙な面持ちで首を横に振った。

「もっと酷い状態です。あの国には光の神殿がありません」

 なるほど、光の女神信仰が壊滅状態なのか。夢の中で光の女神が不機嫌になりそうだ。

「今では大地の女神信仰が幅を利かせておりますが、かつては真っ先に魔王に降り、魔王が討たれるまで魔王軍の一員として戦っていた国なのです」

「昔の話なのでは?」

「そう言われていますが、かの国には魔族が隠れ住んでいるという噂もあります」

「……なるほど、気をつけましょう」

 噂か、話半分と言うが、半分だけでも無視できない話だ。

 今は春乃さん救出に集中しなければならないが、この情報は頭の隅に留めておこう。

 それにしても、大地の女神の国なら良い国なんじゃないかと思ってしまうのは、夢で見る女神のイメージ故だろうか。

 何にせよ大地の女神信仰の総本山でもあるそうなので、祝福を授かるためにも避ける事はできないだろう。


 帰った後この件についてラクティに尋ねてみたが、残念ながら覚えていなかった。やはり五百年間封印されていた影響で、昔の記憶はおぼろげになっているようだ。

 こればかりは仕方がない。今は忘れて、アレスに行ってから改めて調べよう。

 今日も川辺の小屋を借りており、ラクティは魚捕り網に夢中な雪菜達のところへ戻っていった。ロニとリウムちゃんも一緒になってはしゃいでいる。

 ちなみにロープを引いているのはルリトラ。お父さん、家族サービス中であった。

 ケトルト達はインゴットに夢中なので、俺とクレナの二人でこれからの事についての話し合いだ。

「それじゃ明日は一日休んで、明後日注文してる品を受け取ったら出発でいいのね?」

「休みというか、『無限バスルーム』内の掃除だな。また広さが変わったし、整理して食料詰め込むスペースを確保しないと」

 広くなっても中の荷物、家具の位置は変わらないため、その都度移動させているのだ。今回はいつにも増して拡大しているので大変そうだ。

 オークションハウスから持ち帰った荷物もあるし、おそらく今日明日はそれでつぶれる事になるだろう。

 それを察したのか、クレナが大きくため息をついた。

「……とりあえず、宝物の整理から始めましょうか」

「宝箱に入れるだけじゃダメなのか?」

「傷ついちゃうじゃない」

 宝物は宝箱に詰め込まれ、開けると輝きが溢れてくるようなイメージなのだが、それはあっさりと否定されてしまった。

「難しそうだな……任せていいか? 俺はその他諸々を担当するから」

 逃げではない、適材適所である。と言い訳しておく。

「はいはい、宝石とかアクセサリーはシャコバに任せましょうか。私は本を担当するわ」

 しかし、そう言って微笑む彼女は、俺の心の中さえも見透かしているような気がした。

 何か負けた気がするので後で反撃しよう、お風呂の中で。



 そして出港当日、『無限バスルーム』内の整理を終えた俺達は、注文していた荷物を受け取り、確保していたスペースにそれらを運び込んだ。

 ちなみにセーラー服は涼しげな夏服で、他の店でも注文できるよう型紙も一式買い取らせてもらっている。

 昨日大量注文が入ったらしく、予備の型紙がいくつかあったようだ。間違いなくコスモスだろう。

 フィークスブランドの職人いわく、まだまだ改良の余地があるとの事。

 覚えている限りの事を話したが、ずっと一着を着続ける服だけあって旅装に通じるものがあるらしい。実際このセーラー服は、野外用メイド服の技術を転用しているそうだ。

 上着の丈が少し短い気もするが、それは腰の羽を出すためなので仕方ないだろう。

「じゃーん♪」

 早速着替えた雪菜が、俺の前に立ってポーズを取る。

 雪菜が夢見ていた制服は、俺にとっても夢だった。本当に可愛い。だが、それ以上に涙が出そうになってしまい、ぐっと堪える。

 それは雪菜も同じだったようで、堪えきれずに俺の胸に飛び込んできた。

 それを抱き留めると、雪菜が顔を上げて眩しい笑顔を見せてくれる。

「良かったな、雪菜」

「うん……!」

 この笑顔を見られただけでもこの世界に召喚された甲斐があった。今なら心の底からそう言える。

 この笑顔を守っていこう。俺は決意を新たに、その小さな肩を強く抱きしめた。

「良かったわね、トウヤ……ユキナ……」

「ああ……ありがとう、クレナ」

 涙ぐむクレナ達。ルリトラは隠そうとしているようだが隠しきれていない。ラクティに至っては大泣きである。

 良い家族だ。ふと、そんな言葉が頭を過ぎる。

 グラン・ノーチラス号のメンテナンスも問題なく終わっており、ネプトゥヌス・ポリスでやるべき事はもう残っていない。

 次にやるべき事は、春乃さん達の救出だ。

 水の都にいるせいか手紙を送っても音沙汰がなく、雪菜を助けられた事も伝わってない可能性が高い。早く彼女達に雪菜を紹介したいものだ。

 そのためにも、一刻も早く水の都に辿り着かなければならない。

 雪菜を腕にしがみつかせたままロンダランのドックに移動した俺達は、グラン・ノーチラス号に乗り込む。

 今日出港する事は知られており、ロンダランに港の人達、神殿の人達、それにコパンさん達やコスモス達まで見送りに駆けつけてくれた。

「冬夜クーン! この広い世界のどこかでまた会おーう!!」

「その時はバルサミナも一緒である事を祈ってるよ!」

「ありがとう友よっ!!」

 コスモスの大声にこちらも大声で返すと、友認定されてしまった。まぁ、悪くはない。手を振る皆に大きく手を振り返し、透明のハッチを閉じる。

「よし、皆行くぞ!」

 その言葉と共にグラン・ノーチラス号を起動、ゆっくりと海中へと潜っていく。

 目指すは春乃さん達が待つ水の都。海中の旅の始まりである。

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[良い点] 美しき兄妹愛。こんなん、まじ泣いてまうわ(号泣
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