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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
激動の海底温泉
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第91話 さらば宇宙勇者コスモス 愛の戦士たち

 ところがいざデザイン画を見せてみると、職人達は思いの外食いついてきた。

「えっと、何か?」

「いえいえ、これが勇者様の世界の……レイバー市場の制服と似ていますなぁ」

 妙に乗り気だ。不思議に思いつつ彼等の話を聞いていると、新商品にできそうだと考えている事が分かった。

 どうもこれはヘパイストス・ポリスで勲章をもらった事が関係しているようだ。彼等の話の端々から、俺の知名度を宣伝に利用しようという思惑が窺える。

 なるほど、勇者の名はこんなところでも役に立つのか。

 俺に損は無いし、特に問題は無いだろう。ただ春乃さんが誤解しないよう、妹のために制服を作った事は説明しておこう。ちゃんと届けばいいのだが。

「実は、できるだけ早く作って欲しいのですが……」

「これなら明日にはできていると思いますよ?」

「ありがたいですけど、大丈夫ですか?」

「まったく未知のものという訳ではありませんから。勇者様のご注文とあらば最優先でやらせていただきます、はい」

 なるほど、レイバー市場の制服に似ているからか、それなら大丈夫そうだ。

 ここでふと雪菜達の方を見た。クレナ達に囲まれて楽しそうに笑っている。

 もし中学校に入学できていたら、あんな風に学校帰りとかに友達と一緒に買い物したりしていたのだろうか。

「……あっちの五人の分もできます? サイズは大体分かりますから」

「特急料金をいただければ、二日で揃えてみせましょう」

 俺が職人と熱い握手を交わし、クレナから聞いていた相場よりも多めにチップを渡して注文したのは言うまでもない。


 それから雪菜達のところに戻ると、これから服を選び始めるところだった。俺が戻ってくるのを見越して先に下着から選んでくれていたそうだ。

「それじゃ何から選ぶ?」

「パジャマ!」

 まずは可愛いパジャマか。羽やしっぽは大丈夫かと思ったが、羽は腰のあたりから伸びているのでそんなに気にする事はないらしい。

 しっぽも職人が何とかしてくれるらしい。雪菜が可愛らしいチェック柄のパジャマを選ぶと、女性店員がやってきてしっぽの太さを測っていった。

 しっぽを通す穴は、これから開けてもらえるそうだ。種族によってしっぽの大きさが全然違うので、こういうシステムになっているのだろう。

 流石はフィークスブランド、変態偉人は伊達ではない。

 ルリトラのしっぽなんて雪菜の腰回りぐらいはありそうだもんな。彼が可愛いパジャマ着ている姿なんてイメージできないけど。

 羽が不自由になると飛べなくなるため、雪菜はおへそが見えるぐらいに丈が短いキャミソールやタンクトップを普段着に選んでいく。

 あと、スカートで空は飛べないのでパンツルックにするとの事。

 聞いているだけでも活動的なのがイメージできるチョイスだ。雪菜は本当に元気になったのだなと嬉しくなってくる。

 雪菜が両手にキャミソールを持ってやってきた。

「ねぇねぇ、お兄ちゃん。ピンクとブルー、どっちがいいと思う?」

「柄で言えば、ピンクかな?」

 そう答えると、雪菜はにこにこ顔になる。ピンクの方には、南国らしくディフォルメされた魚が描かれている。雪菜はこういうイラスト入りが昔から好きだったのだ。

「でも……こっちの方が涼しそうじゃない?」

 しかし、すぐにブルーの方を掲げて唇をとがらせる。なるほど、暑いネプトゥヌスでは淡いブルーの方が涼しげだろう。

 というか、一着だけ買いに来たんじゃないんだがな。

「別に両方買ってもいいんだぞ?」

「ホント!?」

 元々、必要な着替えを買い揃えに来たのだ。二着買ってもまだ足りないだろう。

 その事を指摘してやると、雪菜は途端に顔を輝かせて次々に服を選んでいく。

 その相談に乗るのはクレナ達。必要だから来た買い物だが、雪菜とクレナ達を仲良くさせる一助にもなっていた。

 

 一通り買い物を終えた後は、コスモス達に会いに行く。

 雪菜を助ける事ができたのは彼等の力もあっての事なので、お礼を言うためだ。

 彼等は今『潮騒の乙女』亭に泊まっていたが、訪ねてみるとリコットがおらず、親衛隊の人数が少ない。

 俺の疑問を察したのか、王女が「リコット達には、出航の準備を任せています」と教えてくれた。そういう実務は彼女の担当のようだ。

 改めて雪菜の件でお礼を言うと、コスモスは「良かったね!」と白い歯を見せて笑ってくれた。自分の方は失敗したというのに、こういうところは本当にすごいと思う。

 話の流れで雪菜の着たがっていたセーラー服を注文してきた事を話すと、彼は意外と食いついてきた。

「へぇ、そのお店でセーラー服を作ってもらえるのか。僕も作ってもらおうかな、皆に」

 待て、皆ってまさかフランチェリス王女達だけでなく親衛隊全員か。

 目を輝かせるコスモスの隣で、王女は扇で口元を隠しつつ呆れた目で見ている。

 その後コスモスは立ち上がり、フォーリィと親衛隊の方に行ってしまった。それを見計らって王女が身を乗り出してくる。

「……それはともかく、丁度良かったですわ。こちらも貴方達を探させていましたの」

「探させてた? 俺達を?」

「ええ、情報交換のためですわ。先日は楽しい一時でしたが、そういうお話をする雰囲気ではありませんでしたから」

 ギルマンの島での宴か。確かにそれどころでは無かったな、コスモスが色々と大騒ぎしていたし。

「実は……魔王がまだ復活していない事が判明しました」

「一体どこから……ってバルサミナか」

 俺の呟きを、王女は小さく頷いて肯定する。バルサミナが去り際に「復活させる方法がもうすぐ見つかる」と捨て台詞を残していったそうだ。

「そちらも魔将と戦ったそうですが、何か言っていましたか?」

「元・魔将ですよ。残念ですが、これと言った情報はありませんでしたね」

 良いツっこみをしてたけど、その手の情報はほとんど喋らなかったからな『不死鳥』。

「……ああ、あいつがアンデッドの王なのに『不死鳥』なのは、『不死王』と名乗ると魔王に怒られるからだと言ってました」

「な、なんというか……」

 呆れるよな、俺も呆れた。だが、一応これも「魔王は配下からも恐れられていた」という一つの情報だから伝えておく。

 念のために言っておくが、これはふざけている訳ではない。

 コスモス達がバルサミナを追えば、『不死鳥』とも遭遇し、戦う可能性があるのだ。それなら奴の性格を知っておいた方がいい。特に、やたらと挑発に弱い事を。

「せっかくだ、雪菜。あいつについて知っている事、もう一度話してくれるか?」

「うん、いいよ」

 という訳で俺達は、『不死鳥』に関する情報を王女に提供した。

 雪菜がノリノリで話す内容は『不死鳥』の悪口大会みたいになっているが、王女は真剣な顔をして相槌を打っている。この情報の重要性を理解してくれている様子だ。

 結局話はリコット達が戻ってくるまで終わらなかった。

 思いの外遅くなってしまったのでそろそろおいとましようと席を立ち、扉を開けて廊下に出たところでコスモスが俺を呼び止める。

「冬夜クン……」

「何だ?」

「君達を見て確信が持てた。やっぱり魔族だから、ただそれだけの理由で争うのは間違っている。僕とバルサミナはきっと分かりあえるよ!」

「……そうか、がんばれよ」

 意外と真面目な内容だったので一瞬呆気に取られてしまったが、気を取り直し真面目な表情で返事をした。

「だって、可愛いは正義だもんねっ! オォぅ!?」

 でも、やっぱりコスモスだった。

 途中で勢い良く扉を閉めたので、位置的に鼻に当たったと思われる。

 隣の雪菜達も呆れ顔だ。

「ったく、可愛いのは認めるけど、そうじゃないだろ……」

「お兄ちゃん、あの人……」

「どうした?」

 カッコいいとか言ったら泣くぞ、臆面もなく。

 しかし、雪菜はまったく別の事を考えていた。

「あの人の性格というかノリ? 『不死鳥』に似てるかも。バルサミナ苦手なんじゃないかなぁ、ああいうの」

「そ、そうか……」

 『不死鳥』とバルサミナ、両方を知る者の意見だけに説得力がある。

 しかしコスモス、お前は雪菜を助けようとしていた俺を応援し、雪菜が助かった事を心から祝福してくれた。

 だから俺も応援する。いつかバルサミナを説得できるよう祈っているぞ。

 そう決意しつつ、俺はいまだ悶絶の声が聞こえてくる扉に向けて、ぐっと拳を握りしめるのだった。

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