ライブが終わり……
奏の甲斐あってライブは無事に終了。のちに真実を知った葵は驚愕するとともに、奏のおことを心配していた。
「度重なるヴァンダルの活動……もはや無視することはできないね」
カナリアは司令室の椅子に腰をかけ、そう言った。
「う~ん、何かこう…根本的に解決する方法はないんですか?」
「神崎の言うとおりだ。ヴァンダルは現状未知数、このような防戦一方ではいずれこちら側がジリ貧となるだなろう」
三人で今後の方針について話し合っていると、それを聞いたある人物が指令室の扉からやってきた。
「ヴァンダルの素性を探る方法なら、少々危険だがないわけではない」
「エレナか、その方法とやらは何だ?」
「スパイ作戦さ。相手の居場所はこちら側で大方把握している。そのままつぶすよりはよっぽどいい作戦だろう?」
エレナが提案した作戦はこうだった。誰か一人をスパイとして向かわせ、ヴァンダルの内部事情及び所有している情報をウイングへ持って帰る。シンプルだがリスクを伴うものだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!誰がスパイをするんですか!?」
葵は思わず声を上げた。誰か一人、この中の誰かがスパイとしていく。それはつまり……
「スパイとして赴くのはアイギスを纏えるものたちだ」
現状のアイギスを纏えるのは四人。もちろん奏に行かせるわけにはいかない。残った三人のなかでもカナリアはウイングのリーダー。可能性のあるのは葵と雫だけだった。
「ならばここは葵に任せようか」
カナリアはそう言った。
「ま、待ってくださいよ!潜入任務ってなら雫さんの方が適任では!?」
葵は猛烈に抗議する。
「雫はtriangle!である以前にソロのアイドルだ。今回は長期間になるかもだからな。不審がられないためにも残ってもらう」
「ぐぬぬぅ……」
葵は悔しそうに拳を握りしめた。だがそれは当然のことだ。何があるかわからない敵地に1人で潜入して、なおかつ情報を盗んで来いなんて女子高生がやっていい内容ではないのだ。
「まあウイングにきた時からこうなる覚悟ができてなかったかというと嘘になりますが…」
「じゃあって事で葵、後で順を追って説明する。二時間後にまたここで会おう」
そうして会議は終了した。
会議終了後、葵は本部にある自分の部屋のベッドに寝っ転がっていた。「はぁぁ……」…葵は大きくため息をつく。覚悟はできていた。だがそれでも葵は自分の身を案じると億劫になっているのは確かだった。
「葵さん?いますかぁ??」
扉をノックする音と同時にそんな声が響いた。声の主が誰か葵には瞬時に判別できた。
「どうぞ〜」
葵がそう言うと奏が静かに扉を開いた。
「葵さん!葵さんが向こうに行っちゃうって本当なんですか!?」
「うん。私も行きたいわけではないけど皆んなのために行かなくちゃ……」
そう言った葵の顔は曇っていた。泣いているわけではない。誰かを恨んでいるわけでもない。ただ自分に課されたその重みに耐えきれなくなり始めていた。
「葵さんは何のため、誰のために戦うんですか?」
それはアイギス事変の後、葵が奏に問いたものと同義だった。
「私は……」
葵は考えた。今に始まった事ではない。葵は度々そのことを考えていた。再び決断の時だ。
「私は最初は自分のために戦っていた。けれどいつの日か誰かの為に、ウイングの仲間たちの為に戦うようになっていた……。それは間違ったことじゃないと思う。だとしても私は私のお母さんの力を悪用しようとしている人を許せない!!」
葵は強く拳を握る。ヴァンダルはバエルの力を悪用しようとしているのだ。亡くなった人の尊厳だけは守らなくてはいけない。それが残された人の使命だから……。
「私はまだ子供なので詳しいことはわかりません。けれどもし葵さんに何かがあれば私は反対を押し切っても助けに行きますからっ!!」
会議から一ヶ月ほど経過した日のことだ。いよいよ葵が「ヴァンダルに潜入する時がやってきていた。
「服の中に高性能な盗聴器を仕掛けてある。基本こっちから連絡することは無いからバレないように気をつけてくれ」
カナリアは葵の背中を押した。カナリアだけではない。ウイングの全員が葵の背中を見守っていた。
「神崎!…無事に帰ってくることを祈ってる」
「葵さんがまたステージに立つ日を待ってますから!!」
そうして葵の孤独な戦いは幕を開けるのだった。




