三色の輝き
──ウイング本部。情報部でのことである。
「先日現れた謎の組織について、貴女はどう考えますか……?」
情報部所属である此木はモニターに映し出された資料を見ながらそう言った。
「そうだな、まだ情報が少ないから迂闊な発言は避けたいが、こいつは尋常じゃないということだけは分かるな」
そう言ったのはウイング情報部長、エレナ・レディアンナ。二十歳という若さでカナリアにその才を買われ、ウイングの情報部長に所属した天才のうちの一人である。
「心無き破壊者か、おそらくだが奴らの目的はアイギスの兵器転用だけではないだろう」
「それはどういう?」
此木は問う。
「そのまんまさ、現状アイギスの兵器転用は国規模で動き始めようとしている。今になって謎の組織単体でわざわざ成し遂げようとするものでもないだろう」
「であるならばどのような考えで?」
「現状は分からないな。だが噂ではヴァンダルは聖遺物の研究をしているという話もある。あくまでも噂程度だが……」
エレナはそういうと手元のコーヒーに手を添えた。季節は冬、雪こそ降ってはいないがそれでも凍えるような寒さが皆を襲っていた。
「どの道私らは戦えないからな。あとはあの子たちに任せるしかないな」
エレナは少しだけ悔しそうにそういうとコーヒーを一気に飲み干した。
「あ~疲れたぁ!もう何もしたくないよぉ!!」
キツイ減量期間を終えた葵は怠惰に事務所の床でゴロゴロとしていた。ただでさえライブイベントも迫ってきているというのにカフェでたんまりとスイーツを食べた葵はウイングのアイドルとしてのラインを大きく上回っていたのだ。
「神崎は何というか、こう愛らしいタイプだな」
雫はそんな葵を見つめながらそう言った。
「」
「二人とも二週間後にライブが迫っているというのに随分と余裕じゃないか」
カナリアはギターの手入れをしながらそう言った。
「カナリア司令はもうロックな路線で言っちゃうんですね……」
「なんだ葵、嫌なのか?私はいいと思うがな、恰好良くて」
「嫌ってわけじゃないんですけど、カナリア司令ってせっかくかわいいのにかっこいい路線でいっちゃうと、バランスというか……」
葵の言っていることはあながち間違いでもなかった。Triangle!は雫というクール枠にキュート枠の葵、そしてミステリアス?枠のカナリアで成り立っていた。それがクール枠が二人になってしまえば折角の三要素が崩れてしまうのである。
「まあ心配はいらないさ。葵が思っているようにはならないさ。なんせ私はクール枠じゃなくてイカレ枠で行くからなッ!!」
カナリアは何故か誇らしげにそう宣言した。
ついにやってきたライブ当日。アイギス事変あってか、規模は今までと比べてもトップクラスだ。
「いや~まさか私がこんなドームでライブできるなんて思ってもなかったですよぉ~」
葵は背丈の何倍もの高さのある天井を見上げながらそう言った。
「あぁ、私も日本でここまでのライブはなかなかあるものではあるまいな」
世界的アイドル天音雫ですらもここのドームはそうそう使えるものではない。ここは少し昔にあったの急速な日本の発達の象徴とされたドームの一つらしかった。
「二人ともそろそろ時間だぞ。早く心の準備を済ませておいた方がいい」
カナリアは相棒のギターを抱えながら袖からステージを眺めていた。
「さあ行くぞ司令、神崎ッ!」
ステージに立った三人を大量のライトが照らし上げる。ステージを縦横無尽に駆け回るライトは踊っているようだった。
「みんなぁ~元気してたか~っ!!!」
雫のそんな掛け声に何万人ものファンが反応する。持っているペンライトの色を見ると、初めてライブをした時よりも赤色と黄色が格段に増えていた。
前奏が流れ始める。
「まずはこの曲だぁッ!!」
最初の曲はトリオの曲。初めてのライブでも歌った「トライアングル」である。
一方ウイング情報部。
「ヴァンダルに動きがありましたっ!」
此木は慌てた様子でエレナにそう伝える。状況を把握したエレナはモニターを拡大して詳細な情報を求めた。
「今までは目立った動きこそなかったが、どうやらこれは……」
モニターに乗っていたのは軍服を着た大勢の人間が銃を構えてどこかへ走っていく様子だった。
「この軍服、間違いなくヴァンダルですね……」
「あぁ、ここで動き出したということは狙いは間違いなくあそこだろうな」
エレナは葵達の写っているモニターを見つめながらそう言った。
「まずいじゃないですか!!この前ならともかく、今回のライブだけは止められないですよ!!」
前回の襲撃はまだファンはそこまでだったがよかったが、今回のライブの規模ではそう易々と中止できるようなものではないのだ。
「ヴァンダル……やってくれるわけだ………」
エレナは危機的状況にもかかわらずにニヤリと笑みを浮かべた。




