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アイギスの歌姫2  作者: 星輪 慧


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2/5

うら若き英雄

カナリアと葵の口喧嘩の後のこと。葵は奏の元へと向かっていた。だがその足はふらふらとしいて、どこか浮いたような様子だった。


「葵さんっ!」


 部屋の扉を開けると、葵が入ってことに気付いた奏は飛び込むかのような勢いで誓へ駆け寄った。まるで犬のような様子に、落ち込んでいた葵の表情に少しだけ笑顔が戻る。


「……奏ちゃんはさ、アイギスを纏って戦いたいと思ってる?」


 突然のその言葉に奏は目を大きくした。


「私は葵さんに助けてもらって今ここにいるんです。だから葵さんみたいになりたいです!!……でもそれが戦って誰かを傷付けることなのかはわかりません」


「奏ちゃん……私は奏ちゃんが無理して戦っているところは見たくない……でも奏ちゃんが誰かを守るために戦いたいって言うんだったら私は全力で応援するよ」


「私は……」


 頭を抱える奏を置いて、葵はその場を離れた。その足つきはここに来るまでのものとは大きく変わっていたのだった……。



『こちらV32応答せよ』


『こちら総司令部。如何ほどの用事か』


 軍服の男たちが無線で会話をする。


『バエルの一部の回収に成功。状態は完璧とまでは言えませんがなかなかです』


 V32と名乗った男の手には確かにバエルの一部が握られていた。


『よくやってくれた。慎重に帰還せよ』


『承知いたしました』


 そこで通信は途絶えた。男は腕を大きく広げて歓喜する。


「バエルのアイギス……この力があれば我らはッ!」



 ──私立幸兼高校。アイギス事変があっても学校は平常運転だった。


「はあぁぁ……みんなになんて言えばいいのやら」


 登校日の朝、琴音とともに歩いていた葵は憂鬱そうにそう言った。


「まあまあ、そんな怯えなくてもいいと思うよ?だってほら、皆からすれば葵は英雄なんだから」


「う~ん、それもなんか複雑というかぁ……」


 葵は言葉にできない感情を抱えていた。アイギス事変以来、葵は世間から英雄と謳われた。それは表面的に見ればTriangle!の売上向上や、ウイングへの多額の支援金など、様々な恩恵を与えた。だが葵にとってそれは本望ではなかったのである。


「お母さん……」


 葵は空に向かってそう呟いた。もちろん返答は帰ってこない。


「葵は深く考えすぎなんだよ。お母さんに貰ったこの"今"を謳歌しないと。私たちはこの今を、刹那を生きているって言ったのは葵でしょ?」


「……そうだね、胸を張らなきゃ!生きろってお母さんに言われたんだ。もう私一人の人生じゃないッ!」


 そう固く決心した葵は学校へ向けて力強く歩を進めた。



「な、なにこれぇ~~全く分からないんだけどぉっ!?」


 授業後のことである。長期間の欠席のせいで授業内容が全く理解できなかった葵は一人頭を抱えていた。


「当たり前でしょ?葵ったら戦ってばっかりでちっとも勉強しないんだから……」


「むしろ琴音はどうしてそんなに分かるの?ここ最近は私と一緒にいたじゃん!!」


 葵は琴音をしきりに指差し、そう言った。


「私は……ほら!葵が戦ってる間に勉強してたからねっ」


「ぐぬぬぬぅ一人だけいい思いしちゃって……」


 二人がそんな会話をしていた時だった。


「なあ、ちょっといいか?」


 葵はその声に反応して振り返る。声をかけてきたのはいつもの三人だった。


「三人とも!!元気してた?」


「元気してた、じゃないですよ!!みんな心配してたんですから」


 珍しく綾乃が声を張り上げた。


「そうですよぉ…まさか葵ちゃんが戦うアイドルだったなんてぇ」


「しかもそれが世界の命運のかかったものときた。いったいどうなっているんだ?」


 そこからだっただろうか、三人を皮切りに教室にいた人が会話に乗ってきていよいよ収集がつかなくなってきていた。


「はいはい、神崎さんにもいろいろ思うところがあるんだからそっとしておいてあげなさい」


 結局騒動は担任の教師によって幕を閉じるのだった。



 放課後のことだ。振り返れば決しては長くない時間だったが、葵にとっては久々に落ち着ける時間だったので、琴音と三人組と一緒にカフェに来ていた。


「そんで?なんで私たちには黙ってたんだ?親友じゃないのか?」


 悠乃は席について早々、葵を問い詰めていた。


「大体アイドルだったって言った時から既に隠してたってのかよ」


「ま、まあ……」


 葵は申し訳なさそうにそう言った。


「ったく、そんなこと一人で抱えんなっつーの」


 悠乃から帰ってきたのは意外にも憤りなどの言葉ではなかった。むしろ、心配しているかのようなトーンだった。


「……怒らないの??」


「何言ってんだ、怒るわけないだろ。私たちが知った時にはどうすることもできなかったけど、無事に帰ってくれるだけで安心したよ」


「そうですよ?私たちが信頼されてなかったのは少し残念ですが……」


「私はそれでも親友だって信じてるよぉ」


 三人はそれぞれ葵に微笑みかけてそう言った。


「みんな……」


「よかったね葵。葵の頑張りは無駄じゃなかったんだよ」


 琴音はそう言った。思えばあのときバエルを倒しきれなかったら今皆はここにいなかったのかもしれない。結局バエルが何を為したかったのかは定かではないが……。


「よぉし、今日は私の奢りだ!!じゃんじゃん食べろ!」


「え、いいの!?」


 葵は目を丸くして驚いた。


「世界と私らの命に比べりゃ安いもんよっ!」


「わ〜い!いっぱい食べるぞぉ〜」


「何言ってんだ葵と琴音だけに決まってるだろ!あゆみは駄目!!」


 そうして葵と琴音は食べれるだけのスイーツを注文するのだった。葵がこの後減量生活を送るのはまた別のお話である。

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