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アイギスの歌姫2  作者: 星輪 慧


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1/5

バエル奪還作戦

『目標地点まで7.2km!直ちに急行してください』


 バエルによって引き起こされた例の事件は「アイギス事変」と呼ばれ、世界で大きな話題となった。その後というものの、バエル……もとい神崎澄音の使用したアイギスの一部が謎の組織によって強奪、葵達ウイングは現在後始末に追われていた。


「カナリア司令もおっちょこちょいですよね、重要に保管される予定だったバエルの一部を落としちゃうなんて」


「あれは仕方がないだろう!戦闘後でちょ~っと手が滑っただけだ!」


 葵は呆れたように苦笑いをした。


「過ぎてしまった事を悔いるのであれば、今それを挽回するのが得策というものだ。今はとにかく急ぐぞ」


 雫の言葉で二人とも我に返り、急いで駆けた。澄音はアイギスのイヤリングをつけてはいなかったものの、纏っていたアイギスの破片を兵器として利用されれば世界の情勢はひっくり返るといっても過言ではない。ラボの研究結果によればアイギスを身に纏っているときの出力を100%としたとき、何も身に着けていない状態でおよそ30%、実体化したメロフォージ、つまりアイギスの衣装部分の保有する力は15%ほどといわれている。


「さて、現場についたわけだが……」


 見るとそこは幾台にもわたる戦車と無数の兵隊たちが構えている駐屯地のような場所だった。それはカナリアや雫の眼で見ても


「この中にお母さんの遺品が……」


「葵にとってバエルは呪いであって母の一部なのだろう。尊厳は守らなくちゃ、だな」


 カナリアは指をポキポキと鳴らす。


「モニターに高速接近する三つの反応ありッ!!」


 謎の組織のリーダーはその言葉を聞いて微笑を浮かべた。


「アイギスの力を狙う勢力か……ククッ、いいだろう!我らの力存分に見せてやれェッ!!」


 組織のリーダーの指示で指令室の人間が機器を操作すると、駐屯地に置いてあった一つの砲台が葵達のいる方角へ回転した。


「発射ァッ!!!」


 砲身が紫色の光を放ち、そこから放たれたものはあまりにも見覚えのあったものだった。


「神崎ッ!!」


「任せてください!!!」


 葵は発射された光線の目の前に立ちふさがり、その剣を構える。恐怖はない。何故ならその光はバエルの放った光線に近いが、その出力はバエルと比べるとかなり劣っていたからだ。


「てりゃぁぁぁッ!!」


 葵が剣で思い切り光線をつくと、それは刃先に接触し、無数の光線となって散った。


「なんだとぉッ!?何故だ!何故効かんッ!?」


 組織のリーダーは困惑していた。


「これは……まさかッ!?」


 指令室でモニターとにらめっこをしていた、一人の軍服を着た男がそう叫ぶと周りの男たちもそのモニターにかぶりついた。


「アイギスですッ!!……奴らこそアイギスですッ!!!」


「何ィ!?」


 葵達はさらに駐屯地までの距離を詰める。前線に立っていた兵士たちが目と鼻の先まで近づくと、雫は拳とその風圧で次々と兵士をなぎ倒した。


「司令!戦車は任せますッ」


「あぁ、任せろ!!」


 カナリアは弓を取り出すと、器用に矢を戦車の装甲の薄い部分に向けて放ち、無力化した。


「次弾装填完了!出力120%発射準備できました!!」



「聖遺物と科学の融合技術を見せつけてやれェッ!!」


 その掛け声と共に再び砲台から光線が発射された。光線は瞬く間に前進し、すぐ目の前にいた葵たちは避けることができるはずもなく、葵達の足元で特大の爆発が起こった。


「これがアイギスッ素晴らしいッッ!!」


 組織のリーダーは手を大きく広げ、歓喜した。その場にいた男たちも誰しもがその可能性を目の当たりにし、期待に胸を膨らませていた。


「……まだですッ!!」


 モニターを見ていた男がそう叫ぶと同時に、爆炎を振り払い、三人の少女の姿が現れた。無論、葵と雫とカナリアの三人だ。


「メロフォージは人の想いの力。お母さんの抱えてた思いがどんなだったかは分からない……けれどあなたたちに負けるほど私たちの想いはヤワではないッ!!」


 三人はそれぞれの武器を構える。一見バラバラで不揃いな陣形。だけど、これこそが三人にとっての最適解なのだ。


 葵の掛け声とともに三人は一斉にメロフォージを解放した。


「目には目を歯には歯をッ!」


「ビームにはビームを……ってやつだな」


 放出された三人のメロフォージは組織の放ったものの何倍も大きく、光り輝いていた。


「全員退避ィ!!!」


 だがもちろん施設内にいた人間たちがすぐに対比できるわけでもなく、そのレーザーは建物に向かって直撃した。


 建物が跡形もなく吹き飛んでいた……わけではない。レーザーは少し上に逸れ、壁の上部から天井にかけてを丸々と消し飛ばしていた。


「さっすがカナリア司令!!あんな出力のレーザーを上方向に曲げるなんて器用!!」


「なに、これくらい三本の矢を射るよりもたやすいことだ」


 三人は施設内に入る。そこには死んでこそいないものの、風圧や衝撃、さらには恐怖で気絶したであろう人がいた。もちろんその場で立っている人物は葵達を除いて誰一人としていない。


「よし、後かたずけはラボの人たちにでも頼もうか」


「カナリア司令??ラボの人は雑用じゃないんですが……」


「だが奴らの残しバエルの研究資料はここに置いてあるぞ、まさか我らがウイングの研究部がこの機会をや易々と見逃すほど愚かではあるまいな」


 雫は珍しく不敵な笑みを浮かべた。



 バエルの後始末もひと段落つき、葵達はウイング本部に戻っていた。


「なんで奏ちゃんを出撃させたんですかっ!!奏ちゃんがアイギスを使うのは危険だって言ってましたよね!?」


 葵はカナリアに直談判していた。内容はバエル事変で奏が出撃していたことについてである。


「あの時はみんな精いっぱいだったんだ、仕方がないことだろう!?」


「だとしても!みんなが助かっても奏ちゃんだけが助からないなんておかしいですよ!!」


「だが結果的に奏は暴走することなく無事だ!!それならば何も問題はないだろう!?」


「じゃあカナリア司令は仮にそれで奏ちゃんが暴走したらどうするつもりだったんですか!?その時もまたこうやって言い訳するんですかッ!」


 二人の言い合いはどんどん勢いを増していく。どちらの主張も間違っているわけではなかった。ただそれが、個人を守るためか、世界を守るためだったか、それだけだったのだ。


「もういいですっ!!」


 葵はそういうと持っていた資料を机にたたきつけて逃げるように駆け出して行った。


「…まったく、ああいうブレないところはいいところではあるんだがなぁ……」


 残されたカナリアはそう呟いて、散らばった資料を片付けるのだった。

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