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【感謝330,000pv突破】【完結】回復魔法が貴重な世界でなんとか頑張ります  作者: 水縒あわし
北方編

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37話


数日後、ユートは再びダリウスから呼び出された。

いよいよ例の仕事について、具体的な指示があるのだろう。

執務室に入ると、ダリウスは大きな地図を広げ、いくつかの書類を脇に置いて待っていた。


「ユート殿、よく来てくれた。早速だが、先日話した君への任務についてだ」

ダリウスは地図を指し示しながら説明を始めた。

「表向きは、未開拓地域の市場調査及び販路開拓、ということになっている。君には調査隊のリーダーとして、今回は北方の山岳地帯とその周辺地域を回ってもらう」

彼は書類の一つ、品物の目録をユートに手渡した。

「そして、調査の一環として、これらの品物を調達してきてもらいたい。いずれもその地方で産出される、あるいは見つかる可能性があるとされるものだ。我が商会で今まで本格的に取り扱ったことがない物がメインでね。新たな商材となり得るか、その価値を見極める意味もある」


目録には、以下のような品物が記載されていた。(すべて北方山岳地帯周辺で産出される可能性があるとされる物)


陽炎石ようえんせき』: 特定の条件下で光を屈折させる希少鉱石。装飾品や、もしかしたら魔道具に応用できるかもしれない。山岳地帯の特定の鉱脈で稀に見つかるとの噂がある。


氷霧草ひょうむそう』: 極寒の地でのみ育つとされる薬草。強力な冷却効果を持つ成分が含まれており、解熱剤や特殊なポーションの材料になる可能性がある。高地の岩陰などに自生するという。


『山鳴りやまなりいし』: 風が吹くと独特の音色を奏でる不思議な石。楽器の材料や、音を使った魔道具への応用が考えられる。風の強い山の尾根などで見つかると言われている。


「これらの調達に関しては、特に急ぎではない。だが、期間は3ヶ月を目安とする。もちろん、状況によっては延長も認める」

ダリウスは地図上の北方の地域を指した。

「向かう場所の中には、噂程度の情報しかなく、我々が誰も派遣したことのない場所もある。気候も厳しいだろうし、魔物もアルテナ周辺とは違う種類が出るかもしれん。危険も伴うだろう。十分に注意してほしい」

そして、彼は付け加えた。

「これは市場調査でもあるので、目録以外のものでも、君が『これは』と思う目ぼしいものがあれば、君の判断で入手してきても構わない。その目利きにも期待している」


最後に、ダリウスは日程を告げた。

「出発は2日後の午前とする。それまでに必要な準備を済ませるように」


「はい、承知いたしました!」

ユートは目録を受け取り、気を引き締めて返事をした。


会長室から出ると、廊下でばったりと輸送部長のゴードンと総務部長のアルバンに出会った。

「おお、ユート殿。旦那様から例の会議での話が、ようやく君に降りたのかね?」

ゴードンが快活に声をかけてきた。

「君の単独任務、期待しているぞ。我々も、今回の件に関して直接的な手助けや助言はできない決まりだが、商館の部門としてできることはある。何か必要な物資や情報があれば、遠慮なく言いたまえ。できる範囲で手配しよう」

アルバンも、普段の神経質そうな表情を少し和らげ、後方支援を約束してくれた。


部屋に戻ると、今度はエレナが待ち構えていたように声をかけてきた。

「よう、ユート。ダリウスから話は聞いたよ。いよいよお前さんの独り立ちってわけか。まあ、心配ではあるが……しっかりやんな」

彼女はぶっきらぼうな口調ながらも、上司として、師匠として、ユートの身を案じている様子だった。


ユートは、早速4人を集め、ダリウスとの話の内容、任務の目的(表向きと実際の目的)、目的地(北方山岳地帯周辺)、調達品、期間などを伝えた。

「……というわけで、2日後に出発することになった。それで、今回の任務には、商業部と輸送部からも臨時でメンバーが加わるらしい。まずは、他のメンバーが誰になるのかを知りたい」

ユートは、4人にそれぞれ指示を出した。

「セーラは総務部のマルコかアルバン部長に、レナータは護衛部のライオスさんか担当者に、バルカスは輸送部のゴードン部長かケビンに、ドランは商業部のバルド部長か担当者に、それぞれ今回の任務に同行するメンバーの名前と簡単な人となりを聞いてきてほしい」

そして、付け加えた。

「それから、明日、顔合わせをしたい。昼食を一緒に食べながら打ち合わせをしたいから、その旨も伝えて、都合を確認してきてくれ」


「了解しました、ユート様」

「承知いたしました」

4人はテキパキと動き出そうとする。

「へへ、ユート様もすっかり指示出しに慣れてきましたね! 商隊を率いるとなれば、そうでなくっちゃ!」

ドランが、からかうように軽口をたたいた。ユートは少し照れながらも、リーダーとしての自覚を新たにする。


4人が情報収集に向かう間、ユートは制作部のエレナの元へ向かった。

「エレナ様、今回の任務についてですが、制作部は同行しないのですよね? その理由を確認しておきたくて」

「ああ、それか」エレナは工具をいじりながら答えた。「今回の任務は、あくまで市場調査と素材調達がメインだからな。それに、あんたの実力を見るって目的もある。制作部の人間がついていって、魔道具やら何やらで助けちまったら意味がないだろう? まあ、あんたの手甲の調整とか、何かあった時のための連絡手段くらいは用意しといてやるがね」

なるほど、ユートの自立を促すための判断でもあるらしい。


夕方、情報収集に向かっていた各々が部屋に戻り、集めた情報を共有した。

同行メンバーの名前と簡単なプロフィール、そして明日の昼食の約束も取り付けられたようだ。ユートはメンバーリストに目を通し、明日に備えて、改めて任務計画を練り始めた。

初めてのリーダー任務に向けて、準備は着々と進んでいく。


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