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【感謝330,000pv突破】【完結】回復魔法が貴重な世界でなんとか頑張ります  作者: 水縒あわし
生活の始まり

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31話


ユートのアイデアにエレナが乗り、早速、手甲型魔法具の制作が始まった。

まずは採寸だ。エレナはユートの手の大きさ、指の長さ、手首周りなどを念入りに計測していく。

「よし、こんなもんか。あんた、見た目より手がしっかりしてるねぇ」

エレナは計測結果を羊皮紙に書き留めながら言った。もちろん、両手分作る予定だ。


次に、エレナはユートのアイデアと採寸結果を元に、設計図の作成に取り掛かった。ユートも側で見守りながら、指の動かしやすさや、魔法石を取り付ける位置など、細かい希望を伝えていく。

エレナは時折、専門的な見地からアドバイスを加え、設計図は徐々に形になっていった。

それは、単なる手甲ではなく、魔法の発動を補助するための複雑な機構が組み込まれた、まさに「魔法具」と呼ぶにふさわしい設計図だった。


設計図の目処がつくと、次は素材の選定だ。

「さて、問題は素材だな。せっかくあんた専用に作るんだ、そこらの安物じゃ意味がない」

エレナは腕を組んで唸った。

「手袋部分は……防御力とマナの親和性を考えると、高位の魔物の革がいいだろうな。甲の部分は……魔法の衝撃にも耐えられる強度と、魔力伝導性が欲しいところだ」

エレナは、部屋にいたリナに声をかけた。

「おい、リナ! 悪いが、輸送部の在庫管理担当の奴を捕まえてきてくれ! 大至急だ!」

「は、はい! すぐに!」

リナは慌てて部屋を飛び出していった。


しばらくして、リナに連れられて、輸送部の若い職員(名前はケビンというらしい)が、大量の在庫リストを抱えてやってきた。

彼は、エレナのただならぬ気迫に少し怯えている様子だ。

「え、エレナ様、どのようなご用件で……?」

「ケビンと言ったな、ちょうどいい。今、こいつの専用装備を作ろうとしてるんだ。最高の素材を使いたい。在庫リストを見せな」

エレナはケビンからリストをひったくるように受け取ると、目にも止まらぬ速さで目を通し始めた。

ユートも隣で覗き込む。リストには、様々な鉱石、木材、そして魔物の素材などがびっしりと書き連ねられている。


「ふむ……手袋部分に使える革か……。ワイバーンの革は強度があるが、少し硬すぎるか……グリフォンの皮はしなやかだが、マナ親和性がイマイチ……おっ、これだ! 『シャドウパンサー』のなめし革! これはいいぞ!」

エレナがある項目を指差した。『シャドウパンサー』は、森の奥深くに生息し、影に溶け込むように移動するという、そこそこ名の知れた強力な魔物だ。

その革は、しなやかでありながら非常に頑丈で、マナを通しやすい性質も持っているという。

「在庫も少量だが、ちょうど両手分は取れそうだ。よし、手袋部分はこれに決まりだな」


「次に、甲の部分の金属……。ミスリルは高すぎるし、オリハルコンなんて論外……アダマンタイトもいいが、加工が難儀だ……」

エレナはさらにリストをめくり、唸り声を上げる。ユートは、隣に控えていた交代の護衛2人(今日は、寡黙な剣士風の男と、小柄で俊敏そうな女の組み合わせだった)にも意見を求めた。

「すみません、何か良い素材はありますか? 防御力も欲しいんですが……」

「そうですね……軽さと硬さを両立するなら、やはり魔法金属が良いでしょうが……」剣士風の男が考え込む。

「魔力を通しやすいという点も重要ですよね。エレナ様、『星屑鋼スターダストスチール』の在庫はどうでしょうか? 以前、ドワーフの国から少量仕入れたと聞きましたが」

意外にも、小柄な女護衛の方が提案した。

『星屑鋼』は、隕鉄を特殊な製法で精錬した合金で、非常に硬く、魔力伝導性も高いとされる希少な金属だ。


「おお、『星屑鋼』か! よく知ってるじゃないか!」

エレナはリストを確認する。

「……あった! これなら加工もそこまで難しくないし、強度も申し分ない! よし、甲の部分は『星屑鋼』で決まりだ!」


こうして、手袋部分に『シャドウパンサー』の革、甲側の素材には『星屑鋼』という、どちらも非常に高価で希少な素材を使うことが決定した。完成した設計図を見た交代の護衛2人は、その豪華な仕様に内心驚いているようだったが、表情には出さず冷静を装っていた。


一方、輸送部のケビンは、指定された素材の希少さと価格を思い浮かべ、顔を引きつらせながら「か、確認してまいります……!」と言い残し、震える足で部長のゴードンに報告しに走っていった。


「ふふん、最高の素材が揃えば、最高のものができるに決まってる!」

エレナは満足そうに笑うと、設計図と素材リストを手に、早速、制作に取り掛かり始めた。素材の加工指示を他の職人に出したり、魔法回路の設計を練り直したりと、その姿はまさに水を得た魚のようだ。


ユートとリナ、そして交代の護衛2人は、エレナの背中を見送りながら、顔を見合わせた。

とんでもないものが出来上がりそうだという期待と、その費用に対する若干の不安を感じながら……。

ユート専用の手甲型魔法具の制作は、こうして始まったのだった。


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