22話中編
「商隊に……俺が……」
ユートは、ダリウスの言葉をまだ完全には受け止めきれずにいた。
ダリウスは、そんなユートの様子を察したように、今回の商隊について説明を始めた。
「今回の商隊は、隣町へ向かう定期便だ。荷馬車は4台。積荷は、この辺りの特産である農作物、それから制作部で作った洋服などの日用品、そしてエレナが開発した魔道具がメインだな」
彼は人員構成について説明を続けた。
「人員は、商業部から2名、総務部から3名、輸送部から5名。そして護衛部だが、通常は荷馬車1台につき護衛2名、計8名を配置するところ、今回は特別体制だ。通常の8名に加え、予備人員としてさらに2名を追加し、合計10名とする。万が一の事態に備えてな」
ダリウスはユートを見た。
「まあ、ハーネット商会からすると、小〜中規模のキャラバンといったところだが、警備は通常より厚くする。君と、君の専属護衛であるバルカス、ドランには、これに同行してもらう」
ライオスが補足するように口を開いた。
「普段なら、この規模の商隊に俺が直接同行することはないんだが、今回はユート殿の初陣でもあるし、万全を期すために特別に俺も同行する。心配はいらん」
護衛部の実質的なトップであるライオス、そして通常の護衛人員に加えて予備まで。
ユートのために、かなり厳重な体制が組まれていることが窺えた。
「隣町での商談自体は、同行する商業部の者が行う。到着してから3日ほど滞在する予定だが、その間、ユート殿には少し暇ができるだろうから、一つお使いを頼みたい」
ダリウスはそう言うと、エレナに目配せした。
エレナが、待ってましたとばかりに説明を引き継いだ。
「ユート、あんた用の装備に使う魔法石を手に入れてきてほしいんだよ」
彼女は、自分の指輪についている小さな石を示した。
「魔法石ってのは、マナを蓄えたり、特定の属性の魔法を増幅させたりする力がある鉱石のことさ。こいつを武器や防具、装飾品に組み込むことで、魔法を使う際の補助や、威力の増幅に使えるんだ。あんたもそろそろ、そういう装備を用意したいからね」
エレナは続ける。
「一番いいのは、どの属性とも相性の良い無色の魔法石なんだが、これはかなり希少で高価だ。もし見つからなければ、あんたの得意属性である火属性と相性の良い、赤い魔法石を探してきてくれ。大きさは、まあ、親指の爪くらいあれば十分だ。隣町の市場なら、質の良いものが見つかるかもしれん」
ダリウスが、改めてユートに視線を向けた。
「……というわけだが、ユート殿。大丈夫そうかね? もちろん、護衛もつけるし、無理はさせんが」
その問いかけには、ユートの意思を確認する響きがあった。
「は、はい! 大丈夫です! やらせてください!」
ユートは、まだ緊張はしていたが、はっきりと返答した。初めての任務、そして自分のための装備を手に入れるという目標。不安よりも、挑戦への意欲が勝っていた。
「へっ、威勢がいいじゃないか。まあ、無理すんじゃないよ。お使いの途中で迷子にでもなられたら、あたしが困るんだからね」
エレナが、茶化すように言いながらも、その目には心配の色が浮かんでいた。
「ご心配なく、エレナ様」
ユートの隣に控えていたバルカスが、力強く答えた。「我々が必ず、ユート様をお守りし、任務を遂行させてみせます」
ドランも無言で頷く。二人の頼もしい言葉に、ユートは改めて心強さを感じた。
最後に、ダリウスが念を押すように言った。
「ユート殿、くれぐれも忘れるな。君の回復魔法のことは、この商隊の他のメンバーには一切伝えていない。道中、どんな状況になったとしても、人前で回復魔法は絶対に使わないように。いいね?」
「……はい。肝に銘じます」
ユートは、その言葉の重みを噛み締めながら、力強く頷いた。
「よろしい。出発は3日後だ。それまでに、必要な準備を整えておくように。エレナ、ユート殿に必要な装備や心構えなど、指導しておいてくれ」
「あいよ、任せとけ」
攻撃魔法の実戦デビューと、秘密を守り通すという二つの課題を抱え、ユートの初めての商隊任務が、こうして正式に決定したのだった。




