133話
じっとりとした寝汗の不快感で、ユートは目を覚ました。
アルテナや北方の街とは明らかに違う、まとわりつくような熱気。
窓から差し込む朝日も、どこか白っぽく、力が強い。
(そういえば、昨日の門兵が言っていたな。この街の先には砂漠が広がっていて、そこからの熱風が吹き付けてくる、と……)
慣れない暑さに少しだけ顔をしかめながらも、ユートはベッドから出て身支度を整えた。
リーダーとして、感傷に浸っている暇はない。
宿の食堂に降りると、すでにメンバーのほとんどが集まっていた。
テーブルに並べられた朝食は、薄焼きのパンや、色鮮やかな果物、そして少しスパイスの効いた干し肉など、暑い土地ならではのものが中心だ。
「さて、皆さん。今日からの行動方針ですが」
食事をとりながら、ユートは地図を広げて切り出した。
皆、真剣な表情でユートの言葉に耳を傾ける。
「まずは、このドループでの活動拠点となりそうな場所を探します。それと並行して、地元の主要な商会へ挨拶回りも行い、情報収集の足掛かりを作りたい」
ユートは皆の顔を見回した。
「動く際は、必ず二人か三人一組で行動してください。土地勘のない場所ですし、何があるか分かりません。それから、万が一の連絡や、荷物の管理のために、宿には必ず誰かしらが残っているようにします」
ユートの提案に、皆が頷く。
具体的な役割分担を決めていく。
「挨拶回りは、リーダーである俺と、護衛を兼ねてユージーンで行きます。拠点探しは、バルカスさん、ドランさん、レナータさん、セーラさん、そして情報分析役としてカインさんにお願いしたい。残りのメンバー、エマさん、ミアさん、そして三つ子は、宿で待機と、持ち込んだ資料の整理をお願いできますか?」
「承知いたしました」
「了解です」
それぞれの役割が決まり、朝食を終えた一行は、すぐに行動を開始した。
拠点探し組と挨拶回り組が宿を出ていく準備をしていると、エルザが待機組のエマの元へ歩み寄った。
「エマ、すまないが……」
エルザは、少し申し訳なさそうに、しかし姉としての強い眼差しで言った。
「うちの弟たちのこと、頼んだわ。何か問題を起こさないように、見ておいてくれると助かる」
「ふふ、お任せください、エルザさん」
エマは、エルザの心配を察し、にこやかに、そして頼もしく頷いた。
「えー、俺たち待機組かよー。つまんねー」
そのやり取りを聞いていたリックが、案の定、不満の声を上げる。
ロイも隣で口を尖らせていた。
そんな二人に、エマは困ったように微笑みかけながら、優しく声をかけた。
「リックさん、ロイさん。よろしければ、まだ完全に解ききれていない荷物の整理を手伝っていただけませんか? 私一人では大変で……力仕事が得意な方がいると、とても助かるのですが……」
エマに上目遣いで頼まれ、二人の態度は一変した。
「しょ、しょーがねーなー! 任せとけって!」
「エマさんの頼みなら、いくらでも!」
現金なもので、リックとロイは途端にやる気を出し、満更でもない様子で胸を張った。
エルザはそんな弟たちの様子に、深いため息をついている。
一方、ミアは、一人で黙々と荷物整理の準備をしていたレックスに、おずおずと近づいた。
「あ、あの、レックスさん……私、こっちの重い荷物が……もしよかったら、手伝ってもらえませんか……?」
レックスは、ミアの言葉に無言でこくりと頷くと、彼女が指差した重そうな木箱を、いとも軽々と持ち上げてみせた。
その頼もしい姿に、ミアは「あ、ありがとうございます!」と嬉しそうに声を弾ませた。
それぞれのチームが、それぞれの役割を持って動き出す。
ユートとユージーンも、ドループの商会への挨拶回りに向けて、身なりを整え、宿を出発した。
慣れない熱風が吹く街で、特別調査部の本格的な活動が始まろうとしていた。




