126話
最後に姿を見せたのは、仮面を纏ったハガマと、サニッキだった。
彼らが倉庫の中に入ってくると、既に到着していたレーアンのメンバーたちが、そのリーダーを迎え入れた。
皆の無事な姿を見て、ユートは安堵した。
心配したが、全員無事にこの新しい拠点にたどり着いてくれた。
バルカスとドランも、続々と到着するレーアンの一団に、無言で警戒と確認の目を向けていたが、ハガマとサニッキの姿を見て、ようやく緊張を少し緩めた。
「ハガマ殿、サニッキ殿。ようこそ、こちらへ」
ユートが二人に声をかけた。
ハガマはユートに向かって歩み寄り、仮面の奥で、深く息を吸ったようだった。
「ユート殿。この度は…拠点をご用意していただき、誠に…」
ハガマは言葉を探すように、しかし真摯な感謝の念を伝えようとした。
「掃除までしてくださり…家具や、必要なものまで…言葉もございません」
サニッキも、ユートに礼を述べた。
ユートは首を振り、言った。
「気にするな。皆さんの無事が、何よりだ」
すると、その時だった。
ハガマとユートが向かい合って立っている後方で、先に到着していたレーアンのメンバーたちが、横一列に並びスッと一斉に片膝をついたのだ。
その視線は、リーダーであるハガマに向けられている。
ハガマは彼らの行動に気づき、そしてユートの方へ向き直った。
覚悟を決めたような雰囲気が漂う。
そして、ハガマ自身も、ユートの目の前で、静かに片膝をついたのだ。
ユートは、彼らの突然の行動に目を見張った。そして、ハガマは顔を覆っていた仮面に手をかけた。
ゆっくりと、仮面を外す。
露わになったハガマの素顔。
それは、苦労を重ねてきたであろう、しかし強い意志を宿した男性の顔だった。
そして、それに合わせるように、片膝をついている他のメンバーたちも、一斉に顔を覆っていた仮面やマスクを外した。
スイ、ハン、そして他のメンバーにも。
それぞれの顔には、厳しい過去の影と、新たな決意が浮かんでいる。
仮面を外したハガマが、ユートを見上げて、言葉を発した。
その声には、リーダーとしての重みと、決意が込められていた。
「ユート殿。ご報告いたします。…我々を追っていた一団は、先日の貴方の介入もあり、今、我々を見失っています」
ユートがハガマの傷を治し、彼らが一時的に身を隠したことで、追手の撹乱に成功したのだろう。
「そして…その、追手が一団を見失っている、このタイミングで…貴方が、我々にこの場所を用意してくださった」
ハガマは立ち上がることなく、ユートを見つめたまま続けた。
「我々レーアンは…一度、組織として、基盤を失いました。多くの仲間を失い、頼る場所も、行く先も見えない状況でした。ただ、生きていくだけで精一杯でした」
彼の言葉には、これまでの苦難が込められていた。
「ですが…ユート殿、貴方が我々に手を差し伸べてくださった。見返りを求めることは言わず…ただ、困っている我々を助けたいと、言ってくださった」
他のメンバーが一斉に立ち上がり、皆がユートの方を向いた。
彼らの表情には、リーダーへの忠誠心と、ユートに対する敬意が宿っている。
「我々は…もう、かつてのレーアンとして生き延びる必要はない…皆で話し合い、決めました」
ハガマは、自分たちの意思、レーアン全員の総意であることを伝えた。
「これを機に…我々全員で、貴方ユート殿に…新たな組織として、お仕えしたい」
ユートの前に並び立つ、仮面を外した十五人の情報屋たち。
彼らは、自分たちの運命をユートに委ねることを選んだのだ。
厳しい世界で生き抜いてきた彼らが、ここまでの信頼を寄せてくれる。
その重みに、ユートの胸が熱くなった。
ユートは、彼らの前で、リーダーであるハガマと同じ視線になるよう、身をかがめた。
そして、まっすぐにハガマの目を見つめ、彼の申し出を受け入れた。
「…ありがとう。私についていきたいと、言ってくれて、ありがとう」
ユートの言葉は、心からのものだった。
リーダーとしての自信や威厳を示そうとしたのではなく、ただ純粋な感謝と、彼らを受け入れる喜びだけを込めていた。
「君たちのその決断を…決して後悔させないように、私も務める。これからは、皆で、新たな道を進んでいこう」
ユートは微笑みながら言った。
彼の言葉には、これから彼らと共に歩んでいくことへの決意と、未来への希望が込められていた。
「…これから、どうぞ、よろしく」
ユートは改めて、彼ら、そしてハガマに頭を下げた。
彼らが新たな仲間、そして信頼できる情報源となる。
この突然の展開に、一緒に警備にあたっていたバルカスとドランは、完全に呆気に取られていた。
仮面を外した情報屋たちの一団が、ユートに向かって片膝をつき、彼についていくと宣言する。
目の前で何が起こっているのか、彼らには理解が追いつかないようだ。
ユートは二人の様子に気づき、苦笑いを浮かべた。
彼らにも、後でちゃんと説明しなければならないだろう。
レーアンの一団が新しい拠点に到着した今、まずは彼らを落ち着かせ、改めて今後のことを話し合う必要がある。
「しばらくは、ここで休んでくれ。掃除はしたが、まだ十分に整っていない。必要なものがあれば言ってほしい」
ユートはハガマたちに伝え、続けた。
「近く、もう一つ、ハーネット商会として契約した、より表向きの活動に適した拠点にも案内しよう。あちらは、もう少し設備が整っている」
二つの拠点。
裏通りの倉庫と、表通りの近くの物件。
これらを、レーアンの活動拠点として活用するのだ。
「まずは、ゆっくり休んでくれ」
ユートの言葉に、ハガマと他のメンバーは頷いた。
彼らは、長い苦労から解放され、ようやく安住の地を得たのだ。
心身ともに、休息が必要だろう。
夜の倉庫に、ユート、バルカス、ドラン、そして、ユートに新たな忠誠を誓ったレーアンの一団が集まった。
新しい絆が、今、結ばれた瞬間だった。




