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【感謝330,000pv突破】【完結】回復魔法が貴重な世界でなんとか頑張ります  作者: 水縒あわし
北方編

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121話


ハーネット商会の屋敷では、『ホーム』の増築工事が順調に進んでいた。


エレナとその部下たちがテキパキと作業を進め、日々、新しい壁や屋根が組み上げられていく。

一方、ユートを含めた特別調査部の面々は、それぞれの持ち場で活動を続けている。


街に出て、使えそうな物件を探す拠点探しチーム。

先日手に入れた倉庫を掃除し、使えるようにするための作業を続けている掃除チーム。


どちらも根気のいる作業だが、皆、黙々と任務を遂行していた。


そんなある日、街の門の方から、見慣れた馬車の隊列が帰還する音が聞こえてきた。輸送任務に出ていたエルザたちのチームだ。


「エルザたちが帰ってきたぞ!」


調査部のメンバーが歓声を上げ、輸送部棟の前でエルザたちを出迎える。


馬車は多少汚れているが、荷物も、そしてメンバーも無事だ。エルザ、セーラ、ミア、そして三つ子たち。皆、長距離輸送の疲れの色は濃いものの、顔には達成感が浮かんでいる。


「皆、無事に戻ったか!ご苦労様だった!」


ユートも駆け寄り、彼らを労う。


思っていたより時間がかかったようだが、無事に任務を終えて帰還してくれたことが何よりだ。


エルザは少し疲れた様子だったが、しっかりとした足取りで馬車から降り、ユートに報告した。

今回の輸送ルートで予期せぬトラブルがあったため、予定より時間がかかってしまったらしい。

だが、そのトラブルも皆で協力して乗り越えたと、力強く語った。



ユートは彼らの報告を聞き、まずはゆっくり休むよう伝えた。

特に、連日の輸送で疲れているだろうミアや三つ子たちに、しっかりと休養を取るように言い含めた。


彼らがいるからこそ、商会の物流は止まらないのだ。



翌日


残っていた皆と、エルザたちのチームが合流し、『ホーム』のリビングには特別調査部全員が久しぶりに集まった。


簡単な朝食を済ませた後、ユートは全員に、先日手に入れた裏通りの倉庫について話をした。


そして、午前中は皆でその倉庫へ向かい、具体的な改装の打ち合わせをすることにした。


皆で裏通りを進んでいく。

レナータが地図を確認しながら、確かな足取りで皆を先導する。


ユージーンは相変わらず慣れない裏通りの雰囲気に少し警戒しつつ、ユートの傍らに立っている。


エルザやセーラは、新しい拠点の可能性に興味津々だ。ミアとカインは、普段通らないような場所に来たことに少し興奮している。


みんな、この倉庫が特別な場所になることを理解しているようだ。。


そして、三つ子たちは、また新しい秘密基地ができるのかと、ワクワクしているようだった。



倉庫に到着すると、先日から皆で掃除したおかげで、入り口付近はある程度綺麗になっている。


埃っぽさはまだ残っているが、荷物や瓦礫は運び出されており、倉庫全体の広さや構造が分かるようになった。


「ここが、皆のおかげで手に入った、私たち特別調査部の、もう一つの拠点になる可能性がある場所だ」


ユートは皆に倉庫を紹介した。

広い空間を見渡し、皆もその可能性を感じ取ったようだ。


「思ったより広いですね!これなら色々使えそうです!」

ミアが声を弾ませる。


「ここを、レーアンの皆が安全に活動できる場所…そして、彼らが身を隠せる場所として改修したい」

ユートは改めてこの場所の目的を伝えた。



本格的な改装は今後になるが、今日はまずは具体的な活用方法について話し合う。

ユートはカイン、セーラ、バルカス、ドランに、倉庫の広さや構造を見て、どのような家具が必要になるか、あるいは、どういった設備があれば彼らの活動に役立つか、目星をつけるように指示を出した。


カインは実務的な視点から、セーラは生活空間として、バルカスとドランは訓練や防衛の観点から、それぞれ必要なものを考えていく。


「ユージーンと、エルザ、レナータ、そして三つ子たちは、建物の構造や周囲の環境を確認して、防衛に役立つ場所や、いざという時の逃走経路などを確認してくれるか?」

ユートは護衛チームに、軍事的な観点から建物を調べるように頼んだ。


皆がそれぞれの役割を与えられ、倉庫の隅々を見て回っている。ユートは、そんな彼らの様子を微笑ましく見守りながら、一つ別の用事を思いついた。


ユートはエマとレナータに声をかけた。


「エマ、レナータ。君たちに少し、付き合ってほしいところがあるんだ」


二人は首を傾げたが、すぐにユートに頷いた。


ユートはそのままエマとレナータを連れて、街中へと向かった。向かうは、先日エマとレナータが倒れていた老人を助けた、あの裏通りの民家だ。


レナータの記憶を頼りに、再びあの民家を探し当てた。

呼び鈴を鳴らすと、中から先日助けた、あの身なりの良い老人が姿を現した。


老人はユートたちの姿を見て、少し驚いたようだ。

「おや? 君たちは…先日助けてくれた娘さんたちと……ユート殿ですな。どうなさいました?」


ユートは老人に丁重に挨拶をし、今日の訪問の目的を伝えた。

「先日は大変お世話になりました。実は、もう一つ、おじいさんにご相談したいことがありまして、参りました」


老人は「相談?」と興味を示したようだ。


「以前、おじいさんは、街の物件の情報をお持ちだとおっしゃっていましたね。そして、先日お譲りいただいた倉庫は、本当に私たちにとって大変ありがたい場所でした」

ユートは感謝の言葉を述べ、本題に入った。


「あの倉庫とは別に…もし、可能であれば、おじいさんがお持ちの物件の中から、一つ、私たちハーネット商会として、正規に…取り引きしたい物件があるのですが…ご紹介いただけないでしょうか」



これは、商会名義で借りる場所を探すためのものだ。

引き続き複数の候補を見つけてくるだろうが、老人が持つ物件情報の方も、より詳しく、信頼できる可能性がある。


それに、一度縁ができた老人に頼む方が話もスムーズだろう。


ユートは、なぜ商会がわざわざ物件を探しているのか、簡単な理由も伝えた。

「ハーネット商会は、おかげさまで事業を拡大しておりまして。今回の増築だけでなく、街の中にいくつか、外部の方とも気兼ねなくお会いできるような場所…商会の建物の外にも、少しばかり、居を構えたいと考えているのです」


これは、レーアンがハーネット商会と取引する際に、公の場所として使える場所を確保したいという意図を誤魔化しながら老人に伝えるための言葉だった。



老人はユートの話を聞き、再び考え込んだ様子だった。

だが、ユートの誠実な態度と、ハーネット商会という大きな後ろ盾を見て、協力する価値があると判断したのだろう。


彼は快くユートの申し出を受けた。


「なるほど…ハーネット商会がこの街に、ですな。それは街にとっても良いことです。よろしいでしょう。私も引退しておりますので、それほど多くの情報を持っているわけではございませんが…」


老人はユートを家の中へと招き入れ、街の物件情報について詳しい話を聞かせてくれることになった。


エマとレナータも、ユートと共に家の中へ入る。

これで、表向きの活動拠点の目処も立つかもしれない。


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