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【感謝330,000pv突破】【完結】回復魔法が貴重な世界でなんとか頑張ります  作者: 水縒あわし
北方編

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117話


翌朝、ユートは眠い目をこすりながらも、エルザ、セーラ、ミア、三つ子たちを乗せた馬車が、アルテナの街門を出ていくのを見送った。


皆の顔には、眠気と同時に、任務へ向かうプロとしての気合が浮かんでいる。


渡した魔法陣が、使われるような事態にならないことを願うばかりだ。


エルザたちを見送った後、ユートは自身の朝食を済ませ、改めて街に出る準備をした。



今日から、彼自身も拠点探しに加わる。

バルカスたちに任せるだけでなく、自分自身もこの目で見て、最適な場所を見つけたいのだ。


ユートは、拠点探しの六人組とは別行動で、一人で街を回ることにした。 


何か目につく場所があれば、鑑定眼も使ってみよう。


午前中から昼過ぎにかけて、ユートはアルテナの街を歩き回った。


表通りだけでなく、裏通りも歩いてみる。

貸店舗や、売物件の看板を見つけ、場所や建物の状態、周囲の環境などを確認する。


いくつかの候補地は見つける事ができた。


表通りの近くには、人通りが多く、目立ちやすいが、取引先を招くには良い場所。

裏通りには、隠れるのに適した、古びた建物や空き家など。


だが、どれもこれも、一長一短だ。ハーネット商会名義の場所は比較的見つけやすいが、ユート個人名義で、裏通りの、かつレーアンが安全に活動できるような場所というのは、なかなかピンとくる物件がない。



理想の場所というのは、そう簡単には見つからないものだ。


結局、その日の拠点探しでは、「これぞ!」という場所は見つけられなかった。


夜になり、再び裏路地の酒場へと足を向けた。


サニッキは今日も店にいるだろうか。


彼に、拠点探しの状況を伝え、レーアンの現状を確認したい。


酒場に入ると、サニッキはカウンターの中に立っていた。


ユートの姿を見ると、静かに頷く。

ユートはカウンター席に座り、酒を注文した。


サニッキとの間に、また言葉ではない、独特の空気が流れる。


「ここ最近は、探し物をされているとか」

サニッキが、情報を把握していることを匂わせる言葉を口にした。


「ああ。いくつか候補は見つけたが、なかなかこれだというのは見つからなくてね」

ユートは、今日の成果について正直に答えた。


ユートは、サニッキを通して、レーアンの現状が落ち着いてきているのか、そして、自身の協力の申し出について、ハガマたちの間でどのような話になっているのかを探ろうとした。


「…今は…新しい拠点が手に入るまで、無理な活動はせず、身を隠すことを優先して欲しい、伝えておいてくれるか」

ユートは、レーアンが安全に過ごすことを優先してほしい、というメッセージを込めてサニッキに伝言を頼んだ。


焦らず、自分を信用して待っていてほしい、ということだ。


サニッキはユートの言葉を聞き、その表情からはわずかながら安心したような気配が感じられた。


「承知いたしました。彼らにも、そのように伝えておきます」

サニッキは言った。



彼を通してレーアンと繋がっている、ということをユートは改めて確認できた。


彼らはユートからの連絡を待っており、活動は再開していないようだ。

それは、ユートの申し出を前向きに検討している、ということだろうか。


しばらくの間、サニッキと、具体的な内容は伴わないものの、信頼関係を構築するための会話が続く。

この独特の駆け引きは、ユートにとって新しい経験だが、情報を扱う彼らの世界の一端に触れるようで、興味深い。


酒場を後にし、夜道を歩きながらユートは考える。


拠点探しは難航している。

だが、これで焦って条件を緩めるわけにはいかない。


レーアンにとって、安全で機能的な拠点が必要なのだ。


翌日。拠点探しの成果は芳しくなかったが、ユートは新たな展開があった。


午前中、ダリウス会長に拠点探しの進捗報告をし、今後の捜索方針について話し合った後、エレナから呼び出しがあったのだ。



制作部の工房に行くと、エレナは満面の笑みを浮かべていた。


「ユート! やっと設計の目処が立ったよ!」

エレナは興奮気味に言った。

どうやら、『ホーム』増改築の設計図がほぼ完成したらしい。


「今日中にでも、改築の準備に取り掛かりたいんだ。午後から、まず一階の増築部分の準備を始めるから、見に来てくれるかい?」


ユートの計画の中で、基盤となる『ホーム』の改築が、ついに具体的な段階へと進むことになった。


情報網の構築、情報屋レーアンとの協力、そして活動拠点となる『ホーム』のセキュリティ強化と増築。全ての歯車が、少しずつ噛み合い始めている。


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