103話
制作部での打ち合わせを終えたユートは、一度『ホーム』へと戻った。
ちょうど良いタイミングだったのか、日中のそれぞれの活動を終え、休暇中の調査部のメンバーが、運皆『ホーム』に揃っていたのだ。
カイン達も旅の疲れから回復したようで、賑やかな声がリビングから聞こえてくる。
ユートはリビングにいる皆に声を掛け、全員に話をする時間を持った。
「皆、今休憩中悪い。少し話があるんだ」
ユートが声をかけると、皆はテーブルを囲んで座り直し、ユートの方を向いた。
ユートは、ダリウス会長から新たな種類の仕事を進める許可を得たこと、そして、その仕事のために『ホーム』の増改築を行うことになった、と説明した。
「新しい仕事というのは、今後の特別調査部、そして僕個人の活動に関わるもので…少し詳しい説明は、今はできないんだ。これはダリウス会長にも許可を得た上でのことなんだが…」
ユートは、現時点では詳細を明かせない、と前置きした。
情報という特殊なものに関わる以上、話せる段階ではないこともある。
だが、信頼している仲間に、隠し事をしているような感覚は、ユートにとって心苦しいものだった。
「この新しい仕事に関係して、『ホーム』を、もっと安全で機能的な場所に改築することになった。皆が安心して過ごせる場所にするためにも必要なんだ」
具体的な改築内容として、ユートは説明する。
「一つは、『ホーム』の建物周囲に、外部からの怪しい動きを感知できるような、警報装置としての魔法陣を設置する。これは護衛の皆にも、役に立つだろう」
バルカスやエルザ、レナータ、三つ子たちは、警備の効率が上がるだろうと、興味深そうに聞いている。
「もう一つは、一階に部屋を増築する。執務室と同じような設備を備えた、特別な客人を迎えるための応接室になる予定だ。この部屋を、機密性の高い来客との応接場所や、活動拠点の一つとして活用する」
一階に応接室が増築されることで、二階の執務室がよりプライベートな空間になるだろうし、特別な来客との接触もスムーズに行える。
「これらの増改築は、今エレナさんたち制作部にお願いして、設計を進めているところだ。工事開始時期については、また追って皆に説明する」
ユートの急な発表に、皆は少し戸惑った様子だった。
詳細が明かせないというのも、彼らにとっては不慣れな状況だ。
だが、ユートがダリウス会長の許可を得ていること、そして、新しい仕事、特別調査部全体の安全と活動に関わることだと説明されると、皆はユートを信用し、納得したようだった。
「詳細はお話しできないということですが…ユート部長が必要だと判断されたのであれば、それに従います」
カインが代表して言ってくれた。
「はい、ユート様。私たちも、より安全で仕事がしやすい環境になるのはありがたいですわ」
セーラも微笑んで言った。
他のメンバーも、口々に賛同を示した。ユートのリーダーシップと、彼が皆のために考えて行動していることを、彼らは信頼している。
ユートは皆に感謝の言葉を述べた。
「皆、急な発表で済まない。それに、せっかくの休みの途中に、皆を集めて仕事の話をしてしまって…本当にごめん」
特に、保存食の準備を頼んだセーラには改めて謝った。
「セーラ、君には特に…昨夜遅くに頼み事をした上に、朝の頼み事と、今、またこうして急な話で。申し訳ない」
セーラは首を振り、穏やかに
「いいえ、ユート様。気になさらないでください。私はユート様のお役に立てて嬉しいですから」
ユートは皆に、何か進展があれば、改めて話せるときが来たら必ず話すことを約束した。
「とにかく、改築が始まれば、また皆に手伝ってもらうこともあるかもしれない。その時はよろしく頼む。それまでは、皆、休暇をしっかり満喫してくれ」
ユートは皆を解散させた。
メンバーたちは、新しい展開に思いを巡らせつつ、再び休暇へと戻っていった。
夕方になった頃、『ホーム』で片付けをしていたセーラから、頼んでおいた保存食が完成したと報告を受けた。
ユートはすぐにセーラの元へ向かい、保存食を受け取る。
「セーラ、ありがとう。大変だっただろう」
ユートは、ずらりと並べられた保存食の量を見て、改めてセーラに感謝した。かなりの量を準備してくれたようだ。
「いいえ、皆様のために作らせていただいたものですから」
セーラは微笑んで言った。
ユートは、それらの保存食を自身のインベントリにしまい込んだ。
インベントリの中でなら鮮度もそのまま保たれる。大量の保存食を前に、今夜の交渉がうまくいくことを願う気持ちが強くなった。
保存食をインベントリに収納した後、ユートは近くにいたユージーンに声をかけた。
「ユージーン、少し休んでいてくれ。夜、またリビング…いや、執務室で会おう」
ハガマたちを応接室に招く前に、二人だけで打ち合わせをする時間を取りたかった。
そして、今夜の件については、他のメンバーを巻き込まずにユートとユージーンだけで対処するつもりだ。
ユージーンは何も問わず、ただ頷き、自分の部屋へ向かった。
ユートも、少し早い時間だが、来るべき夜に向けて、体力と精神を休めるために自室に戻り、仮眠を取ることにした。
ベッドに横たわりながら、今夜も会うことになるだろうハガマたちのことを考える。
彼らが今夜も本当に来てくれるのか
協力を取り付けることが出来るのか
ユートは考えながら静かに眠り時間までを過ごした。




