表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【感謝330,000pv突破】【完結】回復魔法が貴重な世界でなんとか頑張ります  作者: 水縒あわし
北方編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/169

93話


一夜明け、ユートとセーラは皆と朝食を共にした後、普段通りの態度でそれぞれの持ち場へと戻った。


午前中、ユートはダリウス会長の執務室に呼び出された。


「ユート、今日からだが、いくつか君たちに頼みたい仕事がある」

ダリウス会長は率直に言った。


「はい、会長」


「先日頼んだ、カインたちの輸送任務だが、まだ彼らは帰還していない。輸送部の人員は相変わらず手薄なままだ」

ダリウス会長は少し困った顔をした。


「そこでだ。本来であれば輸送部で担うべき仕事なのだが…アルテナから近隣の町への、日帰りの輸送任務をお願いしたい。荷物はそれほど高価なものではないが、定期的に運搬する必要があるもので、あまり遅れるのは商会としては好ましくない」


ダリウス会長は続けた。

「特別調査部のメンバーを遊ばせておくのも勿体ない。、せっかくなら動いてもらった方が効率的だ。悪いが、彼らが戻るまで、近場の輸送任務を任せたい。日帰りできる範囲で、幾つかの町を回ることになるだろう」


つまり、カイン達が帰ってくるまでは、特別調査部は日雇いの運び屋代わりになるということだ。しかし、これは商会の他の部署をサポートするという、特別調査部本来の役割の一つだ。遊んでいる人員はいない。


「承知いたしました、会長。特別調査部で対応させていただきます」

ユートは二つ返事で引き受けた。特別な任務だけをこなすわけではない。商会全体がスムーズに機能するために、必要な部分で力を貸すことも彼らの役割だ。


「ありがとう、ユート。詳細は輸送部の者から説明があるだろう。準備が整い次第、向かってくれ」

ダリウス会長は言って、話を終えた。


会長室を後にしたユートは、『ホーム』へ戻った。すでにセーラが部屋で待っていた。バルカス、エルザ、レナータ、ユージーンも集まっている。皆、今日の仕事は何だろうか、という表情だ。


「会長から指示がありました。カインたちが戻ってくるまでの間、日帰りの輸送任務をいくつか請け負うことになりました。荷物はそれほど重要なものではないようですが、定期便的なもので、遅れるのはまずいらしい」

ユートは皆に説明した。


皆は、輸送任務だと聞いて頷いた。前回のポートベストルや3つの町への任務よりは緊張感は薄いだろうが、これも必要な仕事だ。


「早速ですが、最初の任務は今日中です。輸送部の方で荷物の準備ができているそうです。手早く支度をして、向かいましょう」


特別調査部のメンバーは、ユートの指示を受け、手慣れた様子で旅の支度を始めた。大がかりな準備は必要ない。各自の武器や最小限の荷物、そして商会の制服に着替える。


支度を終え、『ホーム』を出た一行は、輸送部棟へ向かった。輸送部員たちが、今日の運搬用の荷物を馬車に積み込んでいる。今回は食料品や雑貨類など、比較的生活に近いものが多かった。バルカス達も率先して荷運びを手伝う。


荷物の積み込みが終わると、輸送部の担当者から、今日の目的地の町と、運搬する荷物についての簡単な説明を受けた。アルテナから西へ半日ほどの、大きな村に近い小さな町への輸送だ。


「それでは、行ってまいります」

輸送部担当者に見送られ、特別調査部はアルテナを出発した。馬車にはユート、セーラ、そして控えのエルザが乗り込み、バルカス、レナータ、ユージーンは徒歩で前後を固める。御者は、ユートが交代で務めることになった。


馬車が進むにつれて、アルテナの街並みが遠ざかっていく。街道沿いの景色は、以前にも何度か通ったことがある道だ。特に新しい発見があるような道ではないが、気心が知れた仲間と共に進む道は、以前とは違って感じられた。


皆で会話をしながら、進む。今回の任務はそれほど緊迫感がないため、会話も弾む。昨夜の精霊神の言葉を思い出し、ユートは改めて皆の様子を見る。セーラは隣で穏やかに座っている。バルカスは街道脇の植物についてユージーンに話しかけている。エルザとレナータは、進行方向と後方を警戒しながらも、リラックスした様子だ。ユージーンは、皆といることに安心しているのか、表情が柔らかくなった。


他愛のない話をする。先日読んだ本の面白さ、町の噂話、好きな食べ物の話、あるいはただ黙って景色を楽しむ。こうした時間の中にこそ、精霊神の言っていた「優しさの広がり」があるのかもしれない、とユートは感じた。無理なく、自然に、皆が心地よく過ごせる空気感。それが、ユートが作り出し、皆が育んでいる特別調査部の『ホーム』の雰囲気なのかもしれない。


馬車はのどかな景色の中を順調に進んでいった。日帰りの輸送任務。大した仕事ではないかもしれないが、それでも皆が一緒にいることが、この旅を特別なものにしてくれている。アルテナから少し離れた、目的の小さな町への道のりは、彼らにとって、束の間の穏やかな時間となっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ