表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

404/443

39-8 聖女は見た!

・帰るきっかけを失った正騎士


 同刻、森の用水路にて――


 その日、バーニィさんが釣りの仕事を横取りしたせいで、ハルシオン姫様は雑用を受け持つことになった。

 しかし内容が内容なので、俺もそれを手伝いたいと立候補した。


「こんな汚れ仕事、やっぱり姫様にはさせられません。ここは私が受け持ちますので、今日は休みに――」

「しつこい。僕はもうただのアルストロメリアだ。邪魔をするなら帰れ」


 それは用水路の掃除だ。

 落ち葉や腐葉土が入り込んで水質が悪化する前に、定期的に取り除く必要があった。


「いえ、ですが……」

「フ、つまらない男だな。僕はしたいからしているんだ、嫌々やってるんじゃない。用水路の水が綺麗になったら、畑のみんなが喜ぶだろう。人の笑顔が見れるなら安いものだ」


「私の方は、そうも割り切れませんよ……」

「ならパナギウムに君だけ帰るか? 今さらどんな顔して騎士団に戻る」


 そうだ。仮に騎士団に戻るにも、俺は役目を果たさなくてはならなくなる。

 ここに身を隠すと同時に、姫様を守り、必要ならば連れ帰る。それが俺の役割だった。


「いえ、姫様が戻らないなら、私も戻る気はありません。姫様を守る者がいなくなります」

「ごめん、意地悪で言ってみただけだ。いや、だけど、君はこのままでいいのか……? 君はサラサールの反感を買って、ここに逃げてきた。だがもうサラサールはいない。帰ろうと思えば帰れるよ。僕が一筆用意すれば――」


「姫様を連れ帰らなければ、どちらにしろ俺の顔は立ちませんよ。陰湿な連中は、姫を捨てて逃げたと言い続けるでしょう。ですが私は別に構いません。私は騎士、どこまでもあなたにお供します」


 なんだかおかしな感覚だ。少なからず、国に帰りたいという気持ちはあった。

 だが実際にこうして、姫様から帰還の許しを提示されても、喜びの感情がわき起こらない。


 一人で帰ってどうする。そんな感情が先立った。


「お人好しにもほどがあるな……」

「いえ、自分を犠牲にするつもりで言ったのではありません。バーニィさんや貴女がいる里から、一人で帰って、どうするのだと思ってしまいまして」


「フフ……そうか。ではキシリール、僕は断言しよう。君はパナギウムの騎士に向いていない」

「なっ……。そ、そう断言されると、少し愕然とするものがあるのですが……」


 向いていない。確かに、俺は騎士には向いていないのかもしれない。

 バーニィ先輩は俺のことを真っ直ぐだと言う。でもその性質は、騎士という下級貴族の地位にある者には、まるで向いていないのだろう……。


「だから僕と一緒に、まだ未熟なこの里を守って暮らしていこう。ついているんだよ、僕たちは。結果論だけどね、いいタイミングで国から逃げ出せた。ただ、僕にも一応、ハルシオン姫だった者としての、最後のプライドが残っている。君が里に残ってくれたら、それが満たせる。僕はアルストロメリアでありながら、ハルシオンでいられる。君がいれば自分を見失わずに済むのさ」


 俺は感動した。用水路の中だったが、そんなことはもうどうでもいい。

 下半身が水浸しになるのも構わず、俺は姫様の足下にひざまづいた。


「姫様がそうおっしゃるならば、喜んで。私もこの里が気に入っています。貴女が心配であると同時に、皆の笑顔を見たい。私たちのちょっとした働きが、身近な人間を幸せにできる。騎士だった頃にはなかった感覚です。この里は、素晴らしいです」

「そうかい。ならばキシリールよ、これからも僕に仕えてくれ。フフフ……ヘッポコな僕の足りない分だけ、君ががんばってくれると、多少気楽だからね」


「姫様は十分にがんばっていますよ」

「そう言ってくれると嬉しいよ。あらためてだけど、これからも一緒にがんばっていこう。ただ一人残ってくれた、僕の騎士」


 その時、ハルシオン姫様が手の甲を俺の口に押し当てた。

 騎士の誓いは二度目だ。国王陛下に捧げた誓いは、結局裏切りも同然で終わってしまった。


 だが次はもう破らない。身分を捨てても、俺たちが騎士であり、姫であった事実は変わらない。虚飾の心など捨てて気高く生きよう。


「はっ! まずはこの用水路を、徹底的に浄化するとしましょう!」

「ハハハッ、その意気だ、キシリール」


 バーニィ先輩がそうであったように。国に帰らなくても俺は今でも騎士だ。

 俺たちはこの里を守護する、位無き騎士だ。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



・見てしまった聖女


 見てしまった……。

 嘘、アルス様って、まさかの、お姫様だったのっ!?


 国を捨てた姫と、忠誠を貫く騎士……あっ、いいっ!! これはこれで、凄くいいじゃないっ!!

 ぁぁ……ぁぁっ……。くっつけたい……この二人を……私くっつけてみたいっ!


 ネコヒトであふれる夢の里には、キラキラと輝く禁断の愛が山のように散らばっていた。

 私、決めた! 私もここに骨を埋める!


 骨なんてないけど……魂が消滅するその日までここで、恋の後押しをして暮らしたい!

 そして、私がくっつけた男女の間に子供が生まれて、その子供と子供が、新たなドラマを……っ!


 そうだ。ここはこの縫い針を使って……。


「痛っっ!?」

「えっ、きゃっっ……!?」


 フフフ……ウフフフフフ……。

 キシリールのお尻を針で突くと、彼がハルシオン姫を胸に包み込む結果になった。

 二人はしばらく言葉を失い、ただただ互いを見つめ合う。ロマンチックだ……。


「虫にでも刺されたか? 見せてみろ」

「え、いえっ、お尻がチクッとしただけなので、大丈夫ですっ、本当にすみません、姫様っ!」


「尻か。悪い虫だといけない、見せろ」

「え、いやっ、見せられるわけがないでしょうっ!?」


 むーー……。

 そのままキスしちゃえばよかったのに……。

 この二人もこの二人で、ちょっと手が焼けそうかな……。


 少しずつ私が演出して、二人の愛を育ませてあげなきゃ……。

 ぁぁ……ネコタンランド、やっぱり最高……!

今月より、4日に1回更新に変更しました。

ごめんなさい、これ以上は死ぬ。楽しいけど死ぬ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説家になろう 勝手にランキング
よろしければ応援お願いいたします。

9月30日に双葉社Mノベルスより3巻が発売されます なんとほぼ半分が書き下ろしです
俺だけ超天才錬金術師 迷宮都市でゆる~く冒険+才能チートに腹黒生活

新作を始めました。どうか応援して下さい。
ダブルフェイスの転生賢者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ