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38-6 邪神を殺したネコヒト、魔界の森を駆け抜ける - 都合のいい牧場 -

 その頃、里では――

 

・シェフ


「ま、また来たんですのっああたたちっ!?」


 あの光輝く井戸を下り、迷宮の再深部に到着すると、今回もでかふく殿がオレたちを歓迎してくれた。


「またと言われても、今日はまだ、3周目だぞ?」

「十分過ぎますわよっ! その子に何かあったら、ああたどうするおつもりですのっ!?」


 今日はパティアも一緒だ。

 でかふく殿はいつもより一層に気を高ぶらせて、翼をバタつかせて怒っていた。


「でかふくさんは、パティアのこと、きらい……?」

「ぇ……。あ、いえ、そんなことは別に、ないですわよー……? でもね、いくらなんでも、子供が――」


「また、でかふくさんに、さわってもいい……?」

「はぁぁ……。もう、本当にちょっとだけですわよ……。今だけだから、勘違いしないで下さいましねっ!?」


 でかふく殿に説明した覚えはないのだが、既に彼女は里の実情を把握していた。

 教官の失踪と、里の周囲を取り囲む戦乱。何よりパティアが心を痛めていることをだ。


「すまないな……。体を動かしている間は、気がまぎれるんだ。オレも、パティアも……」

「だからって! こんな子供とペアで迷宮を周回するなんてっ、ああたは何を考えてるんですの……っ!」


 正論だ。しかし十字槍を振り回さなければ、オレは正気でいられない。

 それはきっとパティアも同じだ。強い力を持つパティアだからこそ、教官を助けに行けない苦悩がより深くなる。


「面目ない。オレは不器用だから、こうする他にないんだ……」

「ほわぁぁ……ふわふわだぁ……。こげにゃんより、ふわふわ……でかふくさん、しゅごい……すき……♪」

「ひゃ、ひゃぁんっ!? ちょっとっ、ど、どこを触ってるんですのっ!? 下は、下はだめですわっ、あっああっ、はぁぁんっ!?」


「あーー……。あーあ……もっと、ふわふわのおなか、さわりたかった……」


 翼を羽ばたかせて、でかふく殿は別の空間へと姿をくらましてしまった。

 パティアは物足りなそうに手のひらをワキワキと蠢かした後、代わりにオレと手を繋ぐことにしたようだった。


 悪い気はしない。その手を引いて道を進む。


「よし、もう一周するか」

「そうしよー! あ、おたからばこ!」


 進むとクリア報酬の宝箱が待っていた。

 パティアがそれに飛びつくのを止めて、代わりにオレが慎重に箱を開く。


 中身は鳥の卵だった。ギッシリと40個ほども積み重なってひしめいていた。

 それを見てパティアは不思議そうに首を傾げたようだ。


「でかふくさんの、たまご? あっためたら、ちっちゃいでかふくさん! うまれるかっ!?」

「違うわよっっ! 男もいないのに、ひなが産まれるわけないでしょうが! 未婚者舐めるんじゃないわよっ!」


「そーなのー?」

「そうよ! 鳥類をなんだと持ってるのよああたっ!」


 でかふく殿は隠れただけで、別に去ったわけではなかったようだ。

 本音を言うと、オレも少しパティアと似た感想をいだいた。アレが産んだのかと。


「これで甘いケーキを焼こう。さて、となれば次は乳だな。出るまで周回するとするか」

「はぁっ!? ケーキ!? そんな物のために自分の命をかけるとかっ、ああたたちっ、本物のおバカさんですのっ?!」

「うんっ!!」


「うんっ! じゃありませんわよもうっ!! 見守るだけの側にもなりなさいって、わたくしは言ってますのっっ!!」


 少し前までのパティアなら、オレもでかふく殿と同じ感想だったかもしれない。

 だがこの子は成長している。いずれ立ち回りをさらに覚えて、元魔軍の斬り込みでも勝てなくなるだろう。


 むしろそれくらい強くなってくれたら、教官はともかくオレの方は安心する。


「でかふくさん、パティアをしんぱい、してくれてるの……?」

「それ、今気づいたんですの……? べ、別に、ああたを心配なんてしてませんわよっ!」


「でへへ……パティア、でかふくさん、だいすき」

「ッッ……か、勝手に言ってなさいな!」


「うんっ♪」


 パティアは特に、獣に近い存在を魅了するようだ。

 獣系魔族の王とクレイが勝手に言うのも、少しだけオレもわかる。

 だがそんな地位を与えては、この子の成長を歪ませるだけだろう。


「はーー、のどかわいたなー。パティア、うしおねーさんの、おっぱいのみたいな……」

「……すまない。オレのは、その……出ないんだ」


 狙われているような気がして、邪魔でしかない自分の胸を隠した。

 教官が失踪したせいで、母性に飢えているのだろうか……こういうのは困る。


「揉んだり絞ったら、出るかもしれませんわよ?」

「おおっ、でかふくさん、それほんとー!?」

「そんなわけがあるかっ! 変なことを吹き込むな!」


 変な話題から離れるために、オレはクークルスが作った布袋に卵を詰めた。

 割れたら台無しだ。気を付けて運ばないとならない。パティアの手を引いて、地上へと繋がる階段を昇った。


「また来る」

「迷宮は卵拾い牧場じゃありませんわよっ!」


 自分たちのストレスを発散させつつ、オレたちはみんなを励ましたいだけだ。

 だからオレたちはケーキの材料が集まるまで、でかふく殿の抗議を全て無視して、迷宮をひたすら周回し続けた。


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