38-2 ねこたん、かえってこない……
・( ΦωΦ )
朝、ミャーは揺すり起こされるニャ。
「こげにゃん、おはよー。きょうもいっしょに、いくかー?」
「……ニャ、ご一緒しますニャ。ふぁぁ~……眠い……ニャ……」
パティアは朝早いニャ。
一緒に寝るようになってから、子供たちの存在がどれだけありがたいか、知ったニャ。
「こげにゃん、えらいえらい。よーし、いくぞーこげにゃーん!」
「はい、ですニャ……。ミャ、目が開かないので、引っ張って欲しいニャ……」
「パティアには、それは、ごほうびです! にくきゅうすき」
「ミャ……」
最近はずっとこんな感じですニャ。
パティアに引っ張られて、眠くて開かないまぶたを辛うじて広げて、城を出ますニャ。
もう夏が来てますニャ。こんな清々しい朝は寝て過ごしたいものですニャ。
けどそうもいかないんですニャ……。
「おはよーっ、クレイさん!」
「あはは、そんなに眠いなら寝てればいいのにー」
すみませんですニャ。ちょっと寝てましたニャ。
頭をブルブル振って眠気をかき消すと、不思議なことにもう森の中でしたニャ。
それと水くみに参加するようになってから、子供に囲まれることが増えたニャ。
別に慕われたくないのに、ミャーは子供たちに懐かれてしまったニャ。
「ニャ、起きますニャ」
「寝てたの!?」
「寝てましたニャ。今からがんばりますニャ」
「こげにゃんはー、ねながらあるくの、じょうずだなー」
また不思議なことが起きてましたニャ。
背負った記憶のない弓が背中にあったニャ。
ミャーは弓を片手に子供たちの先頭に出て、万一のことがないように、気配を探りながら引率していったニャ。
気を抜けない仕事ですニャ。
「こげにゃん、こげにゃん」
「なんですかニャー? 今ミャーはお仕事中ですが?」
「あれあれ、あれとって、こげにゃん!」
「あーー、桑の実だ!」
「あのオデブちゃんに頼んだらどうですかにゃ?」
「しろぴよー? しろぴよはー、たべる、やく」
「……よくわかんないけど、ならしょうがないですニャー」
矢筒から鉄の矢を抜いて、頭上の桑の枝を撃ったニャ。
今日は一発も外さなかったニャ。
パティア含む子供たちが落ちた桑の枝に群がって、すぐに桑の実を美味しそうにほおばり出したニャ。
ほんのりした甘みがあって桑の実は美味しいニャ。
「ぴゅぃぴゅぃ♪」
「あ、しろぴよ! しろぴよー、それーっ!」
「ぴゅぃーっ♪」
狙い澄ましたかのようなタイミングで、デブ鳥が現れましたニャ。
パティアが桑の実を空に投げると、しろぴよは器用に空中を舞って食らいつきますニャ。
子供たちもパティアのまねをするものだから、デブ鳥は沢山の桑の実にありつけたようですニャ。
「へへへー……あさから、てのり、しろぴよ……。このふわふわの、ために、いきている……」
「手にウンチされてますがニャ。湖に着いたら、離れたところで手洗わないとダメですにゃ」
「しろぴよのうんち、きたなくないよ?」
「ぴよっぴよよーっ!」
「汚いですニャ」
「えーー……」
「ぴゅぃー……」
つくづく、変なデブ鳥ですニャ……。
●◎(ΦωΦ)◎●
湖に到着すると、ミャーは水瓶を受け取っては湖水をすくい、子供たちに渡していったニャ。
夏とはいえ朝の湖は冷たいですニャ。パティアを含めて10人分の水瓶に湖水をためたニャ。
「ミャ……? パティアが戻ってきてないですニャ」
「あ、ホントだー」
「僕たち平気だから、見てきてクレイにゃん」
「了解、呼んできますニャ」
パティアは少し離れた水辺で、しろぴよの糞を流しに行ったニャ。
姿を探して湖畔を進むと、いましたニャ。うねった木の幹に腰掛けていたニャ。
「何してるのかニャー?」
のんきな口調でパティアに声をかけても、反応はなかったニャ。
頭上を広がる木々の支脈と木漏れ日を見つめて、いつまでも黙り込んでたニャ……。
その隣にミャーは腰掛けたニャ。
よく観察すると、あのデブ鳥の姿も近くの樹木の上にあったニャ。
ジッとパティアを見守っているように見えたニャ。
原因はみんな知ってるニャ。パティアのねこたんが帰ってこないせいニャ……。
最初は寂しさのあまり、静かな涙を何度もこぼしたりしてたニャ。
けれどある日を境にこうなったニャ。泣かない代わりに笑わないニャ……。
こんな姿を見せられたら、責任を感じてしまうニャ……。
ミャーが暗殺計画を運んでこなかったら、こうはならなかったニャ……。
「どうしたのかニャー? それにしても、いい天気ですニャー。……そんなにぼんニャりしてたら、みんなに置いてかれちゃうかもニャー?」
「……いい」
「いいって、何がニャー?」
「いいの。パティアは……おとーたんにも……ねこたんにも……おいてかれた。さき、かえって、いい……」
グサリときましたニャ……。
痛々しいですニャ。罪の意識を感じますニャ。
他の連中ならまだしも、パティアだけは悲しませたくない。それがネコヒトの総意ですニャ!
「大先輩なら生きてるニャ。絶対に死なない凄い人だニャ。大先輩が帰ってくるまで、みゃーが代わりになるニャ。だから、笑ってほしいニャ」
「ん……。そか……」
もう何百回も伝えた言葉ニャ。
繰り返し繰り返し、みんなが心に思い聞かせてる言葉ニャ。
大先輩、里の最長老エレクトラム・ベルがいないネコタンランドなんて、あり得ないニャ。
「パティアが悲しいと、ミャーたちネコヒトはみんな悲しい。パティアはミャーたちの、魔王様だニャ」
「こげにゃん……じゃあ、めいれい……。パティアを、なぐさめて……」
「もちろん喜んで、お任せらくちんニャ」
パティアの両手を二つの肉球で挟み込んで、すっかりフワフワになった毛皮をすり付けたニャ。
そうするとパティアの目から涙が流れ落ちて、悲しそうに鼻をすする音も聞こえてきたニャ。
大先輩の温もりを思い出しているのかニャ……。
「あの人はミャーの憧れ。そのエレクトラム・ベルが、娘を置いて死ぬわけがないニャ。外の世界が大変だから、きっとやることができて、戻るに戻れないだけニャ」
「じゃあ、パティアが、たすけにいく……」
「パティアはこの里を守るのが役割ですニャ。それを忘れちゃダメですニャ」
「そか……パティア、ひつようか……。うん……わかった……。こげにゃん、かえろ」
「そうしますかニャ」
こんな生活が朝から晩まで、明日も明後日も明明後日続いてゆくニャ。
大先輩、ミャーもそろそろマジで帰ってきて欲しいニャ……。
うさぎさんもリックも、あのお人好しのクークルスまでどことなくおとなしくて、こういう暗いのはもう勘弁願いたいですニャ……。
●◎(ΦωΦ)◎●
余談だけどニャ。大先輩が旅立ってほどなくして、ネコヒトの移民者が合計で300人もやってきたニャ。里が猫だらけになって、パティアはとても喜んでいたニャ。
しかし移民計画の約束は全て果たされる前に、穏健派と正統派の争いにより、それ以上の移民は実現不可能になっていたニャ。
無事に里まで、移民者を運べなくなってしまったのニャ。
今、結界の外側は、穏健派と正統派の軍隊が行ったり来たりの大乱戦ニャ。
それでも必ず、大先輩は戦場の中すらくぐり抜けて、里に帰ってくるはずニャ。
そうしたらミャーたちはこう言うニャ。
パティアを、ネコヒトの新しい魔王様にしようって、言うニャ。
ひねくれ者で裏切りの常習犯であるミャーも、パティアにはもうメロメロニャ。




