36-5 古城周辺を拓いて放牧地を作ろう - ちゅちゅ -
朝食を済ませてもう一度現場に戻った頃には、一軒家を建てられるくらいまで拓けていた。
そこからはネコヒトの民と、ガキどもやラブレーとカールにも力を貸してもらった。
伐採した樹木をファゴットとピッコロに広場まで牽いてもらったり、残った切り株を掘り返す作業の方を頼んだ。
この切り株がまた厄介でな、焼き畑農業をしたがる連中の気持ちが少しだけわかる。
幸いは古城の北側に面していたのもあって日照条件が悪く、野太い木が少ない点だ。
そんなちょいとジメジメした森を開拓したらよ、随分気分がいいに違いないぜ。
朝夕は陽光に照らされて、昼間の日射しは古城が遮ってくれるんだ。馬どもも喜ぶに違いねぇ。
「ぴっこーろさーんのー、たーめなーらー、えーんや、こーら!」
「にゃにゃーにゃ、にゃにゃにゃっ、にゃーにゃっ、にゃーにゃっ!」
でよ、ネコヒトの民はパティアのやつが大好きだ。
がんばって早起きしてくれた連中を中心に、力を合わせて切り株を掘り返していた。
長い杭を根の底まで深く差し込んでよ、後はテコの原理でネコヒトたちが杭に飛び移る。
こいつら力は弱いけどな、エレクトラム・ベルの同族だけあってか、力の使い方が何かと上手かった。
「やったー! でっかいねっこ、またやっつけたぞー! へへへー……みてるだけで、たのしい……ねこちゃんたちが、ぶらーんっ!」
「パティアさんと、お仕事できるだけで、幸せ! 命令されると、もっと幸せ!」
マジで獣たらしだわ、このお子さまはよ。
しかし負けちゃいられねぇな。俺たちも足腰に力を入れ直して、斧を振って森を切り開いていった。
だが思っていた以上に切り株の撤去が早い。
まさか切り株の方が先になくなるとは思いもしなかったぞ。ネコどもめ、なかなかやりやがる。
「はやくはやく、バニーたんはやく、きりかぶつくれー?」
「こっち来んなっての! 危ねぇから引っ込めっ、ガキのやる仕事じゃねぇ!」
「あ、そだ! パティアもー、おてつだい、すればいいんだ」
「待てこら悪ガキ! 焼き払うのはダメだぞ、ここにある材木は全部俺んのだからな!」
ここを開拓すれば短期間に木材が大量に手に入る。
こいつは減った材木を補充する一石二鳥のチャンスだったのよ。
「ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ……パティアをみてろー?」
「どうでもいいがお前さん、舌打ち下手クソだなぁ……」
それがかわいくてよ、ついつい俺はパティ公がしたいようにさせてしまった。
「うぃぃぃーん……ど! かったぁぁーー!! ばばばばばばばー!」
パティ公が森の奥に向けて、物騒極まらん風の刃を連発しやがった。
するとガンッだのゴンッだの、凄まじい物音が辺りに響きわたってな……。
「てめぇパティ公っ、だぁぁぁぁっ危ねぇぇぇぇーっっ?!!」
で、当然だがよ、ぶった斬られた樹木がメチャクチャな方向に倒壊してきた。
パティ公を抱えて逃げなきゃ、危うく下敷きにされるところだったぜ……。
「おぉ……バニーたん、たすかったぜ」
「たすかったぜ、じゃねぇよっ! 手伝ってくれるのは嬉しいが、お前さんが怪我したら馬どもが悲しむだろがよ!」
「むーー……まほー、むつかしいなー……。でも、バニーたんの、いうとおりだ。おとなしく、ねこちゃんと、きりかぶほる」
「おう、すげぇ助かってるからそうしてくれや」
悩む方向まで規格外だなコイツは……。
ネコヒトが心配性になる気持ちちょいとだけわかったわ。
でかい力を持っているのに、中身がコレだからな……。
「どうしたバニーたん? パティアにほれたかー?」
「惚れてるよ、最初からな」
「それは、てれる……。うっふん……?」
「それはオバちゃんが使う言葉だっての……。ほらお子さまはよ、ニャンコどもとつるんでろ」
ネコヒトの民は今も切り株の処理をしていた。
パティ公がそこに戻ると、作業の手を止めてミャミャーと、猫っていうより犬っころみてぇにお子さまを取り囲むのだった。
●◎(ΦωΦ)◎●
「んじゃ、最後にこのへんに牧草の種をまいて、今日はおしまいだな。俺はもう風呂入るから勝手にやっといてくれや」
「やったー、パティアたちにまかせろー!」
気づいたら夕方になっていた。
これだけの人数で、一日中がんばっただけあって、古城の奥行き換算で3分の1くらいは切り開けた。
馬二頭を支える放牧地として見るとまだまだ小さい。
それでもずいぶん広々とスッキリして風通しが良く、見ているだけで気持ちのいい光景だった。
あとは残りの下生えの草を撤去して、種を蒔けば今日の工事は終わりだ。
「ウサギさん、ウサギさん、手伝うことはありますかニャ?」
「てめぇクレイ……。今さら現れやがったな……」
「あ、コゲにゃんだ! あのなー、パティアといっしょに、たねまくの、てつだってー?」
そこに風呂上がりのクレイがやってきて、労働者の心を逆撫でしてくれたりもした。
コイツがまともに働いている姿を見たことがねぇぞ、俺は……。
「だったらミャーが指示するから、パティアが種をまいてにゃ」
「うん、わかったー」
「てめぇも働けやクレイ!!」
毎日労働力をここに傾けるわけにもいかん。
この調子じゃ、放牧地の完成にはもうちょいかかりそうだ。




