34-11 ネコはカラスを釣るそうです - カラス退治 -
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ジャイアント・クロウに襲われる前に、パティアとピッコロは小さな泉で喉を潤したそうです。
水の匂いを嗅ぎ分けながらしばらくさまようと、本当に小さな湖がありました。
それとピッコロのひづめの跡と、採集されて間もないラズベリーの木、それからメープルの木に傷を付けて舐めたような形跡もあります。
襲われたのはこの一帯で間違いありません。
「しかし本当にどうやって結界の中に入ったのやら……」
ゆいいつその部分が仮説を危うくする。
しかしここで迷ったところで意味はありません。わたしは自らが囮となる計画を立てていました。
まずは見晴らしの良いブナの大樹に登り、一番目立つ幹に陣取ります。
とても高い場所です。森がどこまでも樹海となって続いてゆくのが見えるほどです。
わたしはそこで、ただ糸に繋いだだけのトパーズを首にぶら下げて、ひたすら獲物が釣れるのを待ちました。
もとい、わたしという釣り針にカラスが引っかかるまで、ただ寝なおして待ちました。
●◎(ΦωΦ)◎●
太陽が高く昇って夕刻を目前とした頃、大きな羽ばたきと、抑えられた低い鳴き声にわたしは目をさましました。
薄目を開いて辺りをうかがってみれば、ジャイアント・クロウがこの大樹の周囲を旋回しています。
ずいぶん久しぶりに見ました。
人間並みの体躯ですから、森は彼らにとってあまり良い狩り場とは言えません。
さて、ここで倒してしまうと、目当てのねこたん人形は取り戻せません。
そこでわたしは寝たふりを止めて、アンさんより預かった一番大きなトパーズを取り出して、しばらく弄びます。
ずいぶんと光り物に目が無いようで、羽ばたきが大きくなって色めき立ったのがわかりました。
そこでさらにトパーズを空に爪弾いては、心持ち不器用にキャッチして見せます。
少しずつ、少しずつ弾道の高さを上げてゆくと、後は狙い通りです。
ギェェェーッと不気味な鳴き声を上げて、ジャイアント・クロウがわたしのトパーズをかっさらって行きました。
「フフ……わたしの娘を狙ったのが、あなたの運の尽きですよ」
当然ですが逃げるジャイアント・クロウをわたしも追いました。
ハイドでわたしという存在を消し、ナコトの書でアンチグラビティを発動させると、一思いに樹海に飛び降りたのです。
それから何度も空を見上げつつ、森の木から木へと飛び回る。
それがずいぶんと遠くから遠征していたようで、追跡はだいぶ長引くことになりました。
「ふぅ。おや、ここは……」
ようやくターゲットが巣に到着しました。
そこは大地の傷痕の由来そのもの、以前パティアと一緒に来た花畑のその向こうの、断崖絶壁です。
「わざわざこんな場所に住み着かなくとも、もっとマシな棲処がありそうなものですが……」
わたしは引き続きアンチグラビティを発動したまま、片手と足だけで絶壁を下ってゆきました。
巣に忍び寄るためです。やがて進んでゆくと平坦な足場が現れたのでそこに下りると、ヤツが巣を離れるのを一度待ちました。
別の巣を持っている可能性もありましたから、駆除は後回しです。
待つとやがてチャンスが訪れました。わたしは絶壁を再び進み、人間が2,3人住めそうなほど大きな巣にたどり着きました。
「はぁ……っ。あなたがこのまま行方不明になられたら、シスター・クークルスと一計を謀るところでしたよ」
神の代わりに消えた魔王様へと感謝しました。
木々や草で組まれたジャイアント・クロウの巣で、パティアのねこたん人形がわたしを待っていてくれたからです。
「とにかく良かった。あなたがいませんと、わたしはおちおち狩りもできません」
シスター・クークルスが作った布のポーチへと、それをしまいました。
他にもお宝がポーチに入りきらないほどあります。
数々の魔石に、琥珀、水晶。それだけではなく、希少と名高いアレキサンドライトのネックレスまでありました。
いえそれ以上に価値がある物までありました。ザガが尻尾振って喉を鳴らしそうなです。なんとそれは、紅い孔雀石の女神像でした。
「おや、戻ってきてしまいましたか」
ポーチがいっぱいになるまでお宝を詰め込むと、ジャイアント・クロウの怒り狂った鳴き声が頭上より響きました。
警告しても退去しない盗人へと、短気にも襲いかかってきたようです。ですが、それは命知らずの行いです。
「すみませんが、利害が一致しません。駆除します」
パティアがガーゴイルのような硬くて鈍いタイプをカモとするなら、これはわたしのカモです。
しょせんはただ速いだけの鳥類、ネコヒトは高々と跳躍して鋭い爪をかわし、レイピアの一閃にて相手の飛行能力を断ちました。
少し可哀想ですが、これによりジャイアント・クロウは大地の傷痕の底、雷鳴と暗雲と岩の嵐の世界へと吸い込まれてゆくのでした。
「はて――しかし、まさかとは思いますが……」
眼下の恐ろしい世界を眺めると、進入ルートに1つ心当たりが生まれました。
まさかジャイアント・クロウは、その翼で大地の底をくぐり抜けて、古城付近にある別の大地の傷痕まで飛んで来たのではないかと。
里へと帰投しながら何度も考えました。
結界を抜ける方法があるとすれば、この他に思い付きません。
しかしわたしたちには翼がありませんから、検証する方法ない。今回だけがレアケースだと思いたいところでした。
感想、誤字報告ありがとうございます。
次回挿絵回です。かわいい子くるよ~!




