34-5 嵐の後に - 愛ゆえに -
・うさぎさん
ちょっと前まではこれから開拓し直せばいい、そう思っていた。
だがよ、建築中だった家が無惨に半壊してるのを見ちまって、結構精神的に来ちまったわ。
どこもかしこも水浸しの泥まみれだ。
バリケードの復旧やら、ダメになった作物の処分やら、人手も持っていかれちまって、今は再工事どころじゃねぇ。
立派な家が建つのを、ジアの親御さんたちが楽しみにしてくれてたのによ、こんなの申し訳ねぇよ……。
「どうしたんですか先輩? みんなが探してましたけど」
「なんだキシリールか。見りゃわかるだろ、サボってんだよ、俺がサボっちゃ悪いかよ?」
「いえそんなつもりでは……。でもバーニィ先輩らしくないです」
「ソイツはお前さんの思い込みだ。俺は元からこうだ、いい加減覚えとけ」
どこから手を付ければいいのかすら判らん。
せっかく作ったのに、ダメになった建材を引っ剥がさなきゃならん。
リックちゃんたちが苦労して伐採してくれたやつを、ムダにすることになっていまったんだ。
苦労したりこだわったのによ、見るだけで苦痛だわ……。
「先輩がナーバスになってどうするんですか。やっぱりらしくないですよ」
「だからよぉっ、俺はお前によ、ずっとカッコ付けてきただけだっての! 俺は不良騎士だったんだよっ、正義の味方でも指導者でもねぇ!」
「でもこの里に移住してからのバーニィさんは立派でした! やっぱり尊敬しています、あなたは俺の理想の騎士だ! そんなあなたがへこたれるなんて、見たくないです!」
「だからよ……。譲らねぇヤツだなお前も……」
前向きにならねぇといけねぇ。んなことは俺が一番わかってる。
だがよ、里全体の帳尻合わせを考えるとだな、やっぱショックなんだよ。
やるはずの予定が全部先延ばしだ。ずっと前進してたいんだよ、俺は。
やり場のない怒りと苛立ちのあまり、俺は壊れた建材を蹴り飛ばしていた。
しっかり作りやがってよ、俺の足の方が負けたじゃねぇか、痛ぇよ!
「バーニィ! アンタが悪いよ!」
「ゲッ、出やがったなタルトッ!? って、リックちゃんもいたか。二人ともどうしたよ?」
出てくるにしてはタイミングが良すぎる気がするな。
キシリールは先鋒で、この二人は俺たちのやり取りを見張ってたんじゃねぇか……?
「確かにな、これは酷い。バニー、お前が落ち込むのも、オレにもわかる。お前は、里を発展させるのが、生きがいだった……。だが、壊れた物は、これから直せばいい。こんなことでウジウジするなんて、お前らしくない」
「そうだよ! それにアンタはお調子者のムードメーカーさ、アンタがそんなんじゃどうすんだい! うざったいよっ、いっそ殴ったら目を覚ますのかい!?」
リックちゃんとタルトにまで叱られちまった。
片付けだけで2、3日は食うことになるんだ。俺だってうんざりしてんだよ。
そうだ。この里は俺の夢だ、俺の命だ。
それが嵐にメチャクチャにされて、笑ってらんねーんだよっ。
「正論過ぎてぐうの音出ねぇわ。だがお前ら、お節介にもほどあるぜ」
「わかった。バニー、歯を食いしばれ」
「は……? おいっ、ちょっと待てっ、リックちゃんの本気なんて食らったら、死ぬっての!」
「はっ、死んだらバカが治るかもしれないよっ! しゃんとしな、バーニィッ!」
「逃げるなバニー! タルト、キシリール、バニーを拘束しろ……」
「ええっ!? いや、俺はちょっとそういうのは――逃げて下さいバーニィ先輩!」
信じてたぜキシリール。けど遅かったわ。
タルトに腕を引っ張られてよ、退路をリックちゃんに塞がれちまった。
ヤバい、マジで死ぬ、リックちゃんのストレートなんて食らったら、顔面の骨が砕け散るぞ!
「さあやっちまいなっ、リック!」
「二人ともそれはやり過ぎですよーっ!?」
「悪く思うな、バニー。オレは、いつものお前が、いいんだ……!」
ヤバい、コイツら本気だ。
本気で俺の目を覚ますために、手加減抜きのストレートをぶち込むつもりだ!
リックちゃんの顔がそう言っている。
思い詰めた表情で、拳を大きな胸の前でギリリと握り締めていた。
「わかったっ、もうウジウジすんのは止めるからっ、止めろやお前らっ! んなもん食らったら死ぬっての!」
「本当だろうな、バニー……いつものお前に、本当に、戻るか?」
「リックはアンタのことを思って言ってんだよ! 本当は殴りたくないさ!」
「だぁぁーっ、俺だって殴られたくねぇよっ! 殴られるくらいならいつもの調子に戻るってのっ、脳まで筋肉かよてめぇらっ!」
タルトは俺を離して、リックちゃんは握った拳を広げてくれた。
なんかコイツらよ、前より仲良くなってねぇか……?
昨日あの後、なんかあったのかね……。
「信じよう」
「キシリール、アンタもよく覚えておきな。旧市街育ちのバカには、こんくらいがちょうど良いのさ」
慰められてるんだが、調教されてるんだか、もうわからん。
俺は背筋をしゃんと伸ばして、それからちと思うところがあってな、広場の方に目を向けた。
そしたらよ、妙な物が転がってた。
「ありゃなんだ?」
「はっ、その様子じゃ、報告も耳に届いてなかったみたいだね」
「バーニィ先輩、あれは魔石です。どうも昨晩、突然地中から生えてきたそうで……」
魔石の大岩が広場の外れに転がっていた。
まるでタケノコみたいによ、土を下から盛り上げて、確かに生えてきていたわ。
「ありゃお宝じゃねぇかっ、なんで言わなかったんだよキシリール?!」
「ちゃんと言いましたよ! バーニィ先輩だって、わかったって返事したじゃないですか!」
神様からのお見舞い金か何かかね?
あの程度じゃ今回の損失と計画の遅延は取り返せねぇが、あれがあれば取引である程度取り戻せる。
嵐がもたらしたのは、損ばかりじゃなかったってことだ。
俺はその大岩目指して駆けていった。それでしばらく見物して考えたよ。
「バニー、やはり気合いを、入れてはどうだろう?」
「リックちゃんよ、んなことしたら、気合いと一緒に俺が棺桶に入るっての」
「はっ、やっと冗談を言う元気が戻ってきたじゃないか! まったくさ、安心したよ……」
ネコヒトが言うには、この魔石には植物の生長を促す力がある。
モンスターどもも引き付けるみたいだがな、これは実験を始める契機かもしれねぇ。
「俺はもう大丈夫だから、お前らもさっさと持ち場に戻れ。キシリール、ネコヒトの野郎とマドリちゃんを呼べ、ちと相談したいことがある」
「バーニィ先輩! わかりました、どうかお任せを!」
「バニー、良かった。お前はそうではくては、調子が狂う」
どう考えたってやり過ぎなんだけどよ、やむを得ない状況に追い込まれて元気が出ちまった。
だからリックちゃんとタルトに感謝して、俺は相棒と賢い学者さんを待つことにしたのさ。
今度ラブレーとマドリちゃんの家に遊びに行ってよ、酔いつぶれたふりして居座って、それからよ……。
いける。いけるか……? しかしラブレーの聴覚を考えると……。
それに夜ばいなんてしたら、さすがのネコヒトもキレるかね……?




