33-6 はじめまして、お義父さんお義母さん
3日がけの旅路がようやく終わりました。
ついにわたしたちは苦労の果てに、安全な隠れ里の結界内部へと入り込みました。
人数が人数です。それだけ目立つ一行だったのもあって、かなりのモンスターを駆除して進むことになりました。
わたしは非力な軽戦士、トロルに遭遇したときは、異常なその生命力にうんざりさせられましたよ。
しかしそれももう終わりです。
後はご両親にお子さんを引き合わせて、少し様子を見て寝ることにしましょう。
「良い森だな。なかなか狩りのしがいがありそうだ」
「ええ、実りも豊かで狩人のあなたには絶好地かもしれませんね。ただ可能なら元兵士のパウルあたりと組むと良いでしょう。柵の外側は安全とは言いかねます」
カールの父ハンスはわたしたちにとって収穫でした。
護送中も後続の皆さんが、彼のボウガンに何度も助けられたそうです。
「元兵士か、気が合いそうだ。カールを連れ回すのが楽しみだな、ありがとうエレクトラム」
「いえいえ……ただし白くて丸くてふっくらした、そう、あんな小鳥は撃たないでやって下さいね?」
「ピヨッピヨヨヨヨッッ♪」
よく見れば本物のしろぴよさんでした。
それがわたしの頭の上に飛来して、さも当然とふかふかの毛並みで休憩を始めました。
「わかった、気を付けよう」
「気を付けなよ、もし狩ったら里中の人間にアンタ恨まれるよ」
ところでご両親の足並みが急にしっかりしてきました。
理由は考えなくともわかります。早く会いたいのでしょう、我が子に。
「しろぴよさん、パティアに伝言をお願いします。子供たちのお父さんお母さんが到着したと」
「ピヨッ!」
挨拶代わりでしょうか。
しろぴよさんは狩人ハンスの周囲をぐるりと周り、それから一目散に古城に向かって飛び去って行きました。
「ああやっとこれたわ……。ジアはあそこにいるのね……」
「そうさ、すぐに会えるよ。ただ……親に会えない子たちの方が多い。そのことを忘れないでおくれよ」
早くわたしもパティアに会いたい。
木々を飛び伝って盆地を下りたい気持ちを抑えて、わたしは彼らと共に里の西口から帰郷するのでした。
●◎(ΦωΦ)◎●
バーニィが作った西門をくぐると、すぐそこにカールとジアが待ち伏せしていました。
パティアと他の子たちはまだのようです。まさかしろぴよさんが気を利かせて優先してくれたのでしょうか。
「とうちゃん……マジできたのかよ……。俺なんかのために……」
「カールッ! 生きてやがったなこの野郎ッ!」
カールは驚いていました。そんな我が子をハンスさんは抱き締めて、男親らしく彼の生存と親子の再会を喜びました。
「パパママ、えっとどうしよ、とりあえず、ネコタンランドにようこそ! 待ってたよ!」
「ジア! ああっ嘘じゃなかったのね、良かった……っ」
「ここがネコタンランドか、作物がこんなに……なんて豊かな土だ!」
ジアもご両親に左右からやさしく抱き込まれています。
その光景に他の父親母親も感動して、我が子はどこだと辺りを見回している。
「畑仕事や、男の子は建築を手伝っているはずです。我が子を探しに行かれては?」
「それもそうさね、迷ったらあのでかい城を目指せばいい」
そう促すと、ご両親方はわたしたちにいちいち感謝して、里の奥へと駆けていきました。
さてわたしたちもやることはやりましたし、古城で休むとしましょうか。
「しかしよぉっ、こんなかわいい彼女がいるとはよ、お前は親父に似ず、なかなかたらしだなぁカール!」
「……は?」
と、思ったのですが少し面白いことになっているようです。
「あれがカールくんか。なかなか良い子じゃないジア」
「ええ、カールくんがいるなら私たちも安心ね、あなた……」
どうもカールとジアの親たちは、互いの手紙でも見せ合ったりでもしたのでしょうかね。勝手に勘違いを始めていました。
良かったですねカール、あなたたちは既に親子公認の仲のようですよ。
「何勘違いしてんだよ親父!? ジアとはそんなんじゃねぇって! だってこいつ、お、俺よりでけぇだろっ!」
「情けねぇ照れ隠しすんじゃねぇ! 男が身長なんて気にするな、お前は俺の息子だぞ、男前になりやがってこの野郎っ!」
さすがは父親、カールのことを理解しています。
しかしそんなド正論を出されても、まだ未熟な少年には響かないかもしれません。
「俺は元から男前だっての! おいジアッ、お前もなんか言えよなっ、俺たち勘違いされかかってんぞっ!?」
「…………え、うん。お義父さんに会えて良かったね、カール」
ジアは勘違いに抗議しません。
病で蒼く染まってしまったその肌を、ほんのりと頬と耳を充血させていました。
「ジアちゃん、こんなへそ曲がりなガキだが、俺の大事な息子だ。これからもカールのやつをよろしく頼む!」
「あ、は、はい……! カールって、なんかほっとけないところあるから……私がしっかり面倒見ます、お義父さん!」
「何言ってんだよっお前までっ!?」
わたしは賢明だと思いますよ。
好きな子の父親と良好な関係を築けば、外掘りを埋めていけますからね。
「別に言った通りよ! カールがガキっぽいから私が面倒見るって言ってんの!」
「お前だってガキだろっ! あだっ、とーちゃん何すんだよぉっ!?」
「お前よぉ……贅沢言ってんじゃねぇ、うちのかーちゃんより美人じゃねーか!」
さてそろそろ退散しますか。
そうタルトに促そうとすると、彼女が城の方を指さしました。何かと思えば、なるほど。パティアです。パティアが飛んできました。
「ねこたーーんっ、ちょっとおそくなった! ねこたんねこたんねこたんっ、おーかーえーりぃぃー!」
「ただいまパティア。はて……」
しゃがみ込んで彼女のタックルを受け止めようとしました。
ところが素通りです。見れば両手に桃色の花を抱えていて、それをカールとジアのご両親にそれぞれ押し渡したようです。
「わたしの娘です。この通り元気が有り余っておりまして……ちょっと、パティア今度は何をするつもりですか……」
「みてれば、わかるぞー。あめあめふれふれーーっ! あと、きらきらー!」
ご両親の前で、オーバーオールの元気娘はスコールの術を発動させました。
さらには黄金の輝きを手から畑にまき散らして、そこに小さな虹を生み出して見せました。
「カールと、ジアの、おとーさんおかーさん、ネコタンランドに、ようこそー、だぞー!」
「あっはっはっ、相変わらずだねアンタはさ! あたいも来たよっ、バーニィのバカはどこだい?」
「バーニィのおっさんならあっちで家作ってるぜ。あとダンがさっ、げっこーせきってやつで、すっげー綺麗な道作ったんだぜ!」
ご両親は、特にジアの親たちは美しく虹のかかる里に心を奪われていました。
彼らは搾取されるばかりの小作人です。
しかし今日からは違います。少なくともこれからは、誰にも奪われない。
こうして隠れ里に働き盛りの労働者が9名も増えました。
カールとジアは親子公認の仲となり、両親たちは同じ境遇にある子供たちを、我が子同然に愛するようになってゆくのでした。
そうです。わたしの知らぬところでそうなっていたらしいのです。
ジアの両親がカールにも愛を向けたように、我が子だけではなく、他の子たちも愛そうと彼らは取り決めをしていたそうでした。
「ねこたんっ、これみてっ、これー! クーがねっ、これねっ、つくってくれたんだぞー」
「おや、かわいい猫ですね」
「ねこたんだぞー。ぎゅーー……こうしてると、さびしくなくなるんだぞー、はぁ……ねこたんの、ふかふかのにおい……」
「見間違えでした、これはカッコイイネコヒトですね」
腹が立ちますね、わたしたちの猿真似をする猫という生き物には。
ところでそのネコヒト人形、不思議なことになぜかわたしの匂いが染み付いていました。まさかとは思いますが……。
「どうしたー、ねこたーん? ねこたんのにおい、かぐかー?」
「いえわたしは遠慮しておきます」
これわたしの毛玉、使ってませんか……?




