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4-4 娘のために水源地を城に近づけよう、ただし冒険とスリルはお断り

 例の実験の結果が出ました、嬉しいようでやや判断しにくい結果が。

 それというのも広場の土、腐葉土、湖の泥を使った3種類の畑に、ほぼ全ての作物が合致したのです。


 ただ1つの例外がジャガイモです。こちらは余計な混合物を好まず、広場の土にだけ発育の良い芽をつけておりました。

 そうだった、そこで今さら思い出しました。

 これは教官時代に同僚から教わった話ですが、土には刺激の強さというものがあるそうです。


 腐葉土は確かに栄養があるもののその刺激が強く、それが発育に影響を及ぼすことがあると。

 だから焼いた何かを捲くと良いと彼は言っていた。

 それは珍しくもない身近なものだったはずなのですが、はてさて……ずいぶん昔のことなので思い出せない。まあいい。


 要するにこういうことです。ジャガイモは広場の土。ニンジンとタマネギ、カブは腐葉土。小麦は池の泥が快適だとわたしたちに苗となった姿で示していたのでした。

 しかし……どの畑も作物の育ちがあまりに良過ぎて、どうも不自然な感じなのですがね……。


 いいえ、ならばわたしは認識を改めるべきですか。大地の傷痕はわたしたちの予想を越えて肥沃だったのだと。

 なのになぜここに住み着くやつがいないのでしょうか。ええ、それも少し考えれば単純な話でした。


 人間と魔族の戦争に巻き込まれる可能性と、常人には対処不能なモンスターの危険、それとギガスライン要塞と茨の森(ローゼンライン)で東西の行き来が遮断されているのが原因でしょう。


 前に少し触れたましたが、このローゼンラインというのが魔界側のギガスライン要塞にあたる。

 正体不明の巨大薔薇エメラルドローズが生み出した広大な茨の森と、後から併設された監視塔で構成された天然の壁です。


 さらに付け足せばその薔薇の森は、毎年ほんの少しずつの成長が確認されている。

 元は1つの種から生じたもので、今も雄株を求めて種を付けることもなくただ翠色の薔薇だけを咲かせて、運命の相手を待っているという。



◎●(ΦωΦ)●◎



 今日で種をまいて4日、わたしたちは焦ることなくゆっくりと今を過ごしていました。

 わたしはこの通りのお爺ちゃんですし、バーニィも危険で忙しい騎士生活から逃げてきた身です。

 よって辺境での仕事との付き合い方を心得ていました。ゆっくりがんばることの大切さを。


「ようネコヒト、相談があるんだ。ずっと考えてたんだがよ」

「そういう真面目な顔で言われると、問答無用で耳を塞ぎたくなってきますよ。何ですか?」


 広場の木陰でぼんやり畑を眺めていると、軽鎧をすっかり着なくなったおっさんが来た。


「城の井戸をどうにかしないか? あるいは湖からこの近くに水道を引けないかね?」

「ああそのことですか」


 畑の水まきは大変です、気づけばパティアの魔法スコールを頼ることになっていました。

 それは魔法の練習にもなるので良いとして、あの子の仕事は毎朝の水くみや採集もある。畑が広がればさらに負担が増える。


「水回りをパティアに全部任せるのは、俺はどうかと思うぜ」

「お節介ですね、もちろんわかってますよ。……あなたの魂胆もね」


 バーニィはこの土地を村として大きくするという夢を捨てていない。

 人を増やすならば井戸と水道が必要でしょう。


「ま、もう少し人が増えたっていいだろ? 出会いなんて突然だ、今から準備しておいて損はねぇ」

「わざわざ余計な仕事を増やすのが好きですね。まあパティアを楽にしてやりたいのは、わたしも同じですが」


「そこは本能かもな、あのギガスラインだってそうだろ、人間って種族はよ、積み重ねるのが大好きなんだよ。でよ、いずれ両方確保するとして、まずはどっちやるべきかね?」


 仕事を捨てて逃げてきたというのに、逃げた先でも仕事を探すんですか。人間って変な生き物ですね。


「とにかくよ、水まきと水くみを子供に両方させるのも気が引けるんだよ。……体力付いていいかもしれねぇけど、ありゃ女の子だろ、どうにかしてやろうぜ」

「ならば城の井戸の方ですね。あれを掘り返すのが手っ取り早いです」


「まあそうだけどよ、少し手間はかかるが極端にここと湖が離れてるわけでもねぇ。湖からの水路を作るのも悪くねぇ気がすんだよな」


 城の方角に向けていた目線を、東の森の方角に移す。湖はここよりほんの少しだけ低い位置にある。

 水は低きに集う、けして登りはしない。


「道具はクワしかありませんよ。高低差の分だけ作業量も増えます。あそこからここまで掘るだなんて、大変な上に、完成がいつになるかもわかりませんよ」

「そうか? 毎日ちょっとずつやれば何とかなりそうな気もすんだけどな。ま、なら井戸から作るか」


「肝心な部分を見落としていますね、クワは1本しかありません。やるにしても水道は畑が片付いてからでしょう」

「ああ、そうだったわ……じゃやっぱ井戸だな」


 するとそこにパティアが戻ってきました。

 わたしが作ってあげたツルのつば突き帽子をかぶり、籠に採集した木イチゴやサルナシをギッシリと詰め込んでいました。


「お、パティ公じゃねぇか、これから井戸掘るんだけど一緒に来るかっ?」

「いど? はっ、バニィたん……まさかー、パティアのしごとっ、とるつもりかーっ?!」


「ちげーよ、楽にしてやるって言ってんだよ」

「パティア、今からお城に戻りましょう。あの埋まった井戸をどうにかしようと思いますので、明かりの魔法をお願いします」


 わたしたちはパティアに感謝して甘い木イチゴをつまみながら、薄暗い城の井戸へと向かっていきました。



●○(ΦωΦ)○●



 わたしたちは役割を分担した。わかってました、消去法で老いたネコヒトに貧乏くじが回ってくることも。

 バーニィの大きな身体は井戸底での作業に向かず、パティアにこれを任せるというのも論外、わたしが下りて掘るしかありませんでした。


「いどのしたって、どんなだ、ねこたん?」


 クワを使って砂を掘り、それをバケツに満杯にして引っ張ると、バーニィが井戸の滑車を使って地上に運ぶ。

 パティアは地上から照明魔法ライトを使って、井戸の底とわたしを照らしてくれていた。

 わたし教えた記憶がないんですけどね、この術も……。


「はい、人間の死体がたくさん埋まっていますよ」

「ひ、ひぇっ?! やだ、こわいっ、ぅ、ぅぅぅぅ……きかなきゃ、よかったー!」

「ネコヒトよ、そういうことすると嫌われるぜ。……なあ、それ、冗談だよな?」


 ここは古戦場、そのくらいのことは覚悟しておくべきです。

 地面を掘ったら刀剣が出てくるならまだマシ、人骨が現れる可能性はかなり高い。


「冗談だと思って下さってかまいません。昔そんな話を聞いたことがありましてね、病人を井戸に捨てて、埋めたとか」

「ね、ねこたんっっ、こわいはなしはもうだめだぞーっ! も、もうやめろーっ、ひゃあああーもうおしっこいけなぃぃー!」


 集中力をかき乱されてパティアはライトを維持できなくなりました。

 真っ暗闇の中、わたしは黙々と足下を掘る。湖との高低差からするともう少し掘れば水と出会えるはず。


「とっ、こらっ、うがっ、首を絞めるなパティ公っ?! おいネコヒトなんてことしやがるっ、危ねぇっ落ちる落ちる落ちるだろぉっ?!」

「すみません、脅かしすぎました。人骨なんてありませんよ、土の湿り気すらもね」


 しかしどうなっているのでしょうか。

 これだけ深さがあれば土は湿り気を持ち始めるはずなのに、乾いた砂と、捨てられた石ころばかりです。


 あるはずありませんけど、本当に呪いの井戸だったらどうしましょうね。

 答えはとにかく掘るしかない、わたしはクワを振り下ろす。やがてようやく地上の方が落ち着いて、再びライトの魔法がわたしを照らしてくれました。


「あっぶねぇぇぇ……。落ちたら誰が引っ張り上げるんだよっ、勘弁しろよなぁどっちともよぉっ!?」

「もぐもぐ……あ、あまいの、たべたら、ちょっとおちついた……。んぅぅっ?! しゅ、しゅっぱっ、しゅっぱいのあたったぁーっ!」


 野生の果実です、たまにエグいのや酸っぱいのが混じるんですよね。

 ともかく落ち着かれたようで何よりでした。


「パティア、脅かしたことは謝ります。なのでわたしたちの分も残し――」


 おや、わたし最近よく落ちますね……。

 地上を見上げると、まぶしいライトの魔法とバーニィ、身を乗り出してわたしを見るパティアの姿がありました。


 それがいきなり遠ざかり、奈落と化した井戸がネコヒトさんを飲み込んでいくのだからさあ大変。

 暗闇のせいか上下感覚が狂い、わたしはもう壁に爪を立ててしがみつくことしかできませんでした。


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