29-5 おーだめーど - ポケット - (挿絵あり
話は続きます。春着は隔離病棟の子供たちを優先したスケジュールでした。
ですがある日、パティアの順番がいきなり繰り上げになっていました。
この子の今の服はエドワードさんと暮らしていた頃の形見です。
それがボロボロになる前に、新しい一張羅を用意してあげよう。
里の子供たちはパティアの勇気とやさしさに一目おいていましたから、感謝を込めてそういうことになったそうでした。
「そういうことでー、パティアちゃんに質問です。これからパティアちゃんの新しい服を作るから~、どんなのが欲しい教えてね~♪」
「おおー、ついに、パティアのばんか?! それはー、きめてあるぞー、ふわふわのやつがいいです!」
「うふふ~、これから作るのはね、あったかい季節に着る服なのー。だからそれはどうかしらー」
すみませんこんな子で……。
パティアは春夏に着る服だというのにふわふわを熱望しました。
「パティアはー、ねこたんの、むすめだぞー。あつくても、ぜんぜん、へーき」
「そうは言ってもー……暑くなったら、脱いじゃう姿が私には見える気がするわ~」
「ん~……うん、まあ、あついと、あついしなー」
「あっそれなら、前のオーバーオールみたいなのはどうかしらー?」
似合うと思います。それにただでさえ活動的なのですから、パティアはスカートよりズボンが生活に合うでしょう。
「あれかー、あれは、きらいじゃない。あっ、そうだっ! あのねっクー、パティアはっ、しろぴよがっ、ポケットはいれるやつがっ、いいとおもうっっ!」
「あらかわいい、それは良いかもしれないわ~♪」
「なっ! パティアもしかして……ふくかんがえる、てんさいかもなー? クー、しろぴよはいれるやつ、できそーかー……?」
「任せてパティアちゃん♪ それならやっぱり、オーバーオールが良いかしらね。お腹の辺りに大きなポケットを作って、そこに入ってもらいましょ~」
クークルスの提案がパティアを興奮させました。
何と魅惑的な申し出だと、パティアは空想の中でしろぴよをお腹に抱いたそうでした。
「クー、ありがとー! しろぴよのふわふわが、おなかに……ほわぁぁ……。かんせいが、たのしみ! 早く作ってクー! わぶぅっ?!」
シスター・クークルスがわたしに言いました。
それがあまりにもかわいいものですから~、気づいたら胸の中にパティアちゃんがいたんですよ~。と。
「私に任せてね~、パティアちゃん。それにね、してほしいことがあったら、いつだって言ってくれていいのよー?」
「クーは、じぶんのことも、かんがえたほうがいい。ねこたん、そういってたぞー?」
パティアは抱擁を拒みません。
逆にクークルスのやわらかい身体にしがみ付いて、彼女のやさしい微笑みを不思議そうに見上げました。
「あらまぁ~、パティアちゃんにも言われてしまいましたね~」
「クーにはなー、せわになってるからなー。これでも、それなりに、パティアも、クーのことみてるのだ……」
「あら嬉しい♪ でしたらこうしましょ、これからは私のことをママって呼んで――」
「ダメ、ねこたんは、わたさない」
あなたはどうしてそこまで、シスター・クークルスに対抗心を向けるのですか。
それもいつものことなのですから、シスター・クークルスも笑うばかりです。
「でもー、パティアがいちばんで? クーが、にばんなら、かんがえてもいいよ?」
「あら嬉しい♪ じゃあそうしましょうかー♪」
いえあの、勝手に妙な約束を取り付けないで下さい……。
2番目ならいいという愛人まがいの言葉の意味を、パティアはまるで理解していませんでした……。
●◎(ΦωΦ)◎●
それから3日の作業日が過ぎると、そこにしろぴよさんとたわむれるパティアの姿がありました。
もちろんあの新しいオーバーオールを着込んでいました。
「しろぴよーっ!」
「ピヨピヨッ♪」
しろぴよさんは賢いですから、すぐにお腹の大きなポケットに目を付けました。
パティアがポケットを広げると、丸くてふわふわの小鳥がそこに飛び込ます。
やわらかい布地に包まれたそこには、パティアの温かいぬくもりが入っています。
しろぴよさんがご満悦でポケットの中に住み着いたのは、もはや疑うまでもありません。
糞を漏らしても大丈夫です。
シスター・クークルスの尽力により、ポケットの内側を取り外して洗えるようになっていました。
「しろぴよ~、おやつだぞー」
「ピュィピュィ♪」
そのポケットに森で採集したてのベリーをつまみ入れると、しろぴよのくちばしがついばみます。
パティアの目線からは、ポケットの隙間から自分を見上げる小鳥の姿が見えるそうです。
「はーー……かわいい……かわいすぎて、つらい……。パティア、しろぴよのたまご、うみたい……」
しろぴよさんもパティアも、すっかり新しいオーバーオール、というより腹のポケットが気に入ったようでした。
まあ夏が来たら入ってはくれなくなるでしょうけど……取り外して洗えるポケットは、食いしん坊で拾い食いが得意なパティアにピッタリです。
それから小鳥と少女は森からクークルスの仕立て部屋に引き返しました。
目当ての物を手に入れたからです。
「あら、まだ入ってるのね~その子。うふふ、かわいいわー♪」
「クーありがとう! すごい、このふくは、すごいよーっ! ポケットのなかでなー、しろぴよのなー、あったかふわふわ、かんじるの、しゅごく、かんじる! クー、ありがとー! クーはてんさいだ!」
そのポケットの中からしろぴよさんが飛び出しました。
クチバシに赤紫のナデシコの花をくわえて、見せつけた後に器用にもシスター・クークルスの髪に挿したのです。
「ピュィッ♪」
「クー、ありがとー! これはー、しろぴよと、パティアからのー、おれいだからなー」
それからパティアがポケットの中に手を入れたそうです。
どこで見つけてきたのやら、その中にはピンク色の花びらがたくさん詰まっていまして、パティアはそれをシスター・クークルスの頭上めがけて、華々しくまき散らしたのでした。




