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2-1 人類最強ですが、算数は苦手だそうです


前章のあらすじ


 ネコヒトはまず娘パティアに攻撃魔法を仕込むことにした。

 そこで魔導書ナコトに目を付ける。しかしその書は彼の予想を越える、とてつもない逸品だった。

 ネコヒトが持つと、スリープ、アンチグラビティの術が白紙の書に浮かび上がる。

 パティアが持つと、メギドフレイム、オールワイドの術が現れた。

 メギドフレイム、それはかつて魔神に憑依された魔王が使っていた不滅の劫火。

 試しに詠唱を依頼してみると、それは不滅の暖炉となっていた。


 予定を変えて、ベレトはパティアに初歩的な術を教えることにした。

 するとパティアはベレトの5属性ボルト魔法の同時発動という芸を、模倣し、そのけた外れの才能の片鱗を見せる。


 また古城の東には水源となる湖があった。パティアが勝手に近辺を散歩して既に発見していた。

 そんな行動力と勇気が豊かすぎる娘を危ぶみ、ベレトがさらなる魔法の勉強を仕込む。

 パティアの魔法命中率は子供相応に残念だった。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



―――――――――――――――

 2000万ガルドを盗んだ男

―――――――――――――――


2-1 人類最強ですが、算数は苦手だそうです


 ここでは日数の感覚が狂うのであまり覚えも定かではありません。

 しかしもしこの年寄りの記憶が正しければ、今日はわたしがパティアを娘にして10日目にあたる、別に何でもない日でした。


 ええご安心下さい、わたしたちの生活は着実に改善しています。

 わたしの活動時間の短さにより、躍進とは申せませんが前にはちゃんと進んでおりました。


「ふかふかでー、ふわふわだなー。これは、さいこうのべっどだ。……ちょっとへんてこ、だけどなー」

「まあ元はお偉いさんの書斎机ですからね。持ち主も木工職人も、まさかこんな使い方をされるとは思ってもいなかったでしょう」


 4日前、わたしたちは獲物から剥いだ毛皮で寝床を作った。

 首狩りウサギの毛皮は薄緑でつやつやと美しく、繊細なさらさらとした肌触りが娘は気に入ったようです。

 暖炉の付近にはボアの毛皮を2つ敷き、冷たい石床の上でも食事や休憩が出来るようにした。たったそれだけでもまるで住み心地が違う。


 それと念のためメギドフレイムの暖炉には安全設備を設けた。

 何らかの事故で、もしわたしたちの身体に燃え移ったりでもしたら大変ですから。

 そこで城のあちこちから回収した灰かき棒を、井の字に結んで暖炉の前に立てかけて応急の処置をした。


 その際に厨房で肉焼き機を見つけたものの、残念ながらこちらは錆び付きがひどくて使えそうもない。

 そんな惜しい道具が城にはゴロゴロといくらでも転がっていました。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



「ねこたん、むぎ、みつけたぞ」

「……つかぬことをお聞きしますが、それはどこで見たのでしょうか? 確かに朗報ですが、東の湖側以外には行ってはいけないと、わたし言いませんでしたかね、パティアさん?」


 2日前、パティアが野生化した小麦を見つけてきた。

 たまたま時期が良かったのか、麦穂には青い実がついていた。

 恐らくはこの古城の本来の持ち主、人間たちが持ち込んだものだろう。


「う……それはな、それは、えっと……すまん。でもやくそく、やぶってないぞ。パティアはなー、みずうみのむこうに、いっただけだ」

「あきれました。まさか対岸、あんな遠くに行っていたのですか……。確かに約束は破ってませんが、まったく、またあなたはそうやって無謀なことを……」


 狩りばかりしていたら肉ばかり、成長期のパティアの栄養が偏ります。おまけに獲物も少しずつ減っていくでしょう。

 狩猟民族なら移動すればいいだけですけど、わたしたちは隠遁生活をしています。

 ここを動けない以上、狩りと採集以外の方法で腹を満たせるようにならなければなりません。


「麦の種は買おうと考えていたのですよ」

「え、かうのか? ……あれ、でもー、むぎ、どこでかうんだー?」


「そうですね、魔界に戻ったらわたしは首が飛んじゃいます。そうなれば残る選択肢は1つ、さあどこでしょうか?」

「んん~~、なかなかむつかしい、しつもんだ……。あっ、ねこたんのくにか?!」


 故郷に戻ったらそれこそ生きていることをバラしてしまうようなもの、それにここからは距離があるので無理でしょう。


「残念外れです。わたしの故郷はネコヒトばかりのド田舎で、行ってもつまらないですよ」

「ねこたんがいっぱいか!? おおおおぉぉ、しゅごい、なんだそれー、てんごくか?!」


 連れて行ってやりたい気にもなりましたけど、それももう叶いません。

 わたしたちは追放者と逃亡者、お互いここでなければ生きてはいけないのです。



 ●◎(ΦωΦ)◎●



 そして今日。今日は食料の備蓄が十分だったので狩りは休みにしてパティアの水くみを手伝い、その後は昼まで勉強に付き合いました。


「ねこたん、パティアは、まほうのべんきょうがいい!」

「もちろんそれはこの後にしっかりがんばっていただきます。しかしですね、これ何度目だって言葉ですが、あなたは人間です。魔法以外のお勉強もちゃんとしておかなくては、他の人間よりおバカな大人に育ってしまいます」


 優れたその魔法の才能がいずれ彼女を歪めるでしょう。

 才能というものは、悲しいですけどそういうものです。

 この子は将来、望まずとも人類最強の大魔法使いになるのですから。それは冒険者という名のゴロツキや、武人という修羅の才能とも言い換えることも出来ました。


「う、うう……だけどなー、パティア、あんまり、おべんきょうはなー……。むつかしくて、にがてだ……」

「知ってます」


 つまりこういうことですよ。

 他の部分を伸ばしておかなければ、わたしたち魔族は成長したこの子に劣勢に追いやられる。

 清く正しく成長するにも、魔法使いとしての才能があまりにも高すぎる、それがとても危険なのです。


「うぁ、ひどいぞねこたん! だったらー、まほう、おしえて! おべんきょうは、やだぞー!」

「ダメです。お勉強しない子には、魔法は教えてあげません」


「おにだ! ねこたんは、まほうと、おべんきょうのことになると、おにになる!」

「知らなかったんですか、そうなんですよ。わたしこれでも昔は、魔軍で先生をしていましたので」


 その結果生まれたのか、ミゴーという恩知らずのバカ生徒です。

 これだけ魔軍に尽くしてきたのに、どうしてわたし追放されちゃったんでしょうか……。


「さて、ではここに13個のブラッディベリーがあります。パティアが4つ、わたしが7つ食べました。さあ残りはいくつでしょうか?」


 するとどうでしょう、パティアがわたしの問いかけにやる気いっぱいの挙手をしてくれた。

 良い眼差しです、パティアはやれば出来る子ですね。


「はい、どうぞパティア」

「ねこたんずるい!!」


「違います、これはそういう問題ではありません。ふぅっ、ならば言い換えましょう……13個のベリーをわたしが4つ、パティアが7つ食べました。残りはいくつですか?」

「パティアとねこたんで6こ! はんぶんこして、のこりは1こだ! のこりは……パティアのほうが、ちっちゃいからなー……。とくべつに、ねこたんにあげるぞ……」


 この子、森での探索能力といい、妙な部分の頭のキレが良い。

 算数の問題としては0点でしかありませんが。まあいいでしょう。


「不正解です」

「えーーっ?!」


「ですがわたしの中では◎です。よく計算出来ましたね」

「おお、にじゅうまるか! へへ、えへへっ、ねこたんはー、いいせんせいに、なるなー」


 良い先生も何も引退済みですよ。

 わたしみたいなお爺ちゃんになると、色々としがらみがあるもので。

 沢山の優秀な生徒を排出した教師が、派閥の世界で力を得ることも実際に多々ありまして、ま――ソイツもずいぶん昔に死にましたが。


「では、今度こそ算数をしていただきます。次の問題――」

「まだやるのか?! さんすうはー、あたまがつかれるから、ぅぅ、にがてだぞ……」


「魔法の集中力も同時に付いて一石二鳥です。それだけ術の命中率も上がりますよ」

「やっぱり、おにだ。おべんきょうになると、ねこたんは、おにだ……」


 パティアはおとなしくわたしの授業を受け、その後の魔法の勉強もご褒美として張り切ってくれました。

 投げられた小石への魔法命中度合いは、今のところ40%といったところです。

 これではまだまだ首狩りウサギの相手は許可できません。


 ところがそれに対して、術の発動回数の方は常識では考えられない成長力で日に日に増えていきました。

 末恐ろしいその成長は、わたしを驚かせると同時に安心を与えてくれます。


 スピードタイプの厄介なモンスターでなければ、彼女はもうどうにか出来てしまうでしょう。

 しかしそのことを、わたしは絶対に口にはしまい。これ以上増長して、散歩の活動範囲を広げられたら困るからです……。


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