1-7 お気の毒ですが、命中精度が残念なようです
「ねこたん、とってきたぞー! さーびすで、20こだ!」
「おや倍も持ってくるとは。そういう子、わたしは好きですよ」
ただし人の世界に渡るには、彼らが築いた大要塞を越えなければならない。
この辺りがギガスラインと呼ばれているのは――まあこのことを考えるのは今度でいいですか。
「えへへ……パティアは、きくばりができる、いいおんなを、めざしてるからなー」
「そうですか。ではこれをあっちの方に投げますので、魔法で撃ち落として下さい。弾速が早く安定している、アイスボルトあたりからにしましょう」
説明代わりにわたしは小石を1つ投げてみせた。
それでパティアも理解したようだ、解体を続けながら始めることにする。
「さーこい! あっ……いまのはなしだ! こおりのやつ、まだつくってないぞ!」
「さーこいって今言ったじゃないですか」
「そうだけど、まだなのー! ……さあ、こい!」
「もう1度いきますよ」
パティアの右の人差し指の先にアイスボルトが生まれた。
自信があるようです、パティアはやる気まんまんで待ちかまえる。わたしは小石をまた投げてやった。
「えい! ……あれ?」
「次、いきますよ、準備して下さい」
「お、おう! いまのは、まちがった、こいー!」
解体を続けながらわたしは引き続き石を投げる。
「とうーー! ……な、なんでだーっ!? ねこたん、なんであたらない?!」
「練習あるのみです。次」
何度投げてもパティアのアイスボルトが石に命中することはなかった。
首狩りウサギはこんなもんじゃない、もっともっと速い。
やはり思った通りの結果です。
いかに魔法の才能がとんでもなかろうとも、技術は大人のそれに遠く及ばない。
将来末恐ろしい魔力を持っているからこそ、いまのうちに精確なコントロールを覚えてもらわなければ困るのです。
「はぁ、はぁ、はぁ……ねこたんっ、もっかい、もっかいだ!」
「タフですね。いきますよ?」
「たーーっっ!! う……ぅぅぅぅ……あたらない……」
「はい、今日はこれでおしまいです。部屋に戻ってお肉を焼きましょう。パティア、あなたのメギドフレイムでね」
8歳のお子様は大げさに膝を突いて前のめりに倒れた。
結局命中0、才能があるとわたしにおだてられた娘は、技術の壁という現実を知ったのです。
「ねこたんっ、もっかいだけ!!」
「あなたも負けず嫌いな人ですね……。だけどダメですよ、その悔しさをバネにして、次に活かして下さい。……それにわたし、お腹すいちゃいましたから」
●◎●(ΦωΦ)●◎●
「がおぉぉーっっ、めぎど・ふれいむーっ!」
わたしたちの部屋、司令部に戻った。
そこでまずパティアにメギドフレイムを再詠唱してもらうことにした。
結果は、暖炉の火力が小アップです。たった1日で少女はもう成長を形として見せていました。
この調子で伸びていったら、数年後には冗談抜きで竜より強くなっているかもしれない。
ともかくこれで肉がもっと効率的に焼ける。すぐにその炎でボアの肉を焼いていきました。
「うまいうまい! ねこたんっ、ボアたんもうまいなー!? あぶらがのってる!」
「ただ焼いただけですが、お腹が空いてると何でも美味いものですね」
薄切りにすればすぐに焼ける。
わたしがナイフでボアの肉をスライスし、それをパティアがフライパンの上に乗せる。
世界を滅ぼす破滅の業火でそれを焼き、順番に腹に収めていった。どこかで見ておられますか魔王様、笑っちゃいますよわたし……。
しかしですね、肉ばかりでは栄養が偏ってしまう。
ところがその問題はわたしの知らないところで対策されていたようでした。
「あまい、あまくて、つっぱいぞ♪ ねこたんくえ、えんりょするなー?」
「言われた仕事以上のことをする8歳児。お見事ですパティア」
パティアは水くみを終わらせると、ブラッディベリーの木を探し当てて水瓶の底いっぱいに採集してくれていました。
甘酸っぱいその味わいが疲れた頭と身体を癒やしてくれる。
「こうなると、パンが食べたくなりますね。小麦がこんなところに生えてるとは思いませんが」
「わかった、パティアがさがしておくぞー」
「ご冗談を。パティア、あまり森の奥に入らないで下さい。小さい個体ならまだしも、例えばベアタイプの魔物や、こんな古戦場であるとは思いませんが、魔族と遭遇したら厄介です」
「くまは、くまはこわいな……あいつ、パティアはきらいだ……。がぉぉぉ……」
どうもベアと遭遇したことがあるらしい。
イヤな思い出もあるようで、少女は唇をとがらせてまゆを深くしかめた。
「ベア系は下手な魔族より危険な個体も多いですからね、気をつけて下さい。あの湖に行くのは許可しますが、どうか他は勘弁して下さい、好き勝手動かれたら守りかねます」
「……うまいうまい、にく、おいしいなー!」
「頼みますよパティア、あなたがもし怪物に食われたら、ショックなんてものじゃりませんからねこっちは……」
「うん!」
パティアは、わかった、とは絶対に言いませんでした。
普通なら怖がって森に入ることすら嫌がるでしょうに、なんて困ったお子様でしょうか……。
○●(ΦωΦ)●○
腹を満たし、他の肉の加熱処理もようやく終わったので、わたしたちは2度目の狩りと採集に向かった。
昼過ぎになるとわたしはパティアに眠気を訴え、同意の元で一緒に昼寝することにした。
「日が落ちたら起こして下さい。さすがに子供を夜1人にするほど人でなしではありませんので。それと、今日からは早めに寝ましょう」
「パティアにまかせろ。むへへ……、ねこたん、ふかふか……いいにおい……」
それから日没と同時にわたしは目覚め、パティアと暖炉を囲んで夜を過ごす。
晩ご飯を食べて腹が落ち着いたところで、やることもないのでじゃあまた寝ましょうかと誘う。
「うん、ねるか。ねこたんのまほう、すごいもんなー。きっと、あさまでぐっすりだ」
「ええ、ではまた明日。スリープ」
魔導書を借りてパティアにスリープをかけると、昨日そのままにコテーンと少女が眠りに落ちていった。さあわたしも寝ましょう。
スリープで眠気を押しつけたのだから今は眠くない。
けれどわたしはネコヒト、この300年間、寝ることを極めてきたしょうもない存在です。
1日8時間の覚醒時間が、9とか10になったところであまり変わらないのですよ。
わたしは、本来一日16時間の睡眠が必要な、古い役立たずの種ですから。
「それではおやすみ、パティア。どうにかこうにか、このスリープの力を使って2人でやりくりしていくしかありませんね」
わたしはパティアを胸に抱き込み、尻尾を彼女の腰に乗せて、気分が良いときに訪れる爽やかでやさしい眠りへと落ちていきました。
じきにわたしたちの前に、今の生活をひっくり返すとびきりうさんくさいやつが現れるとは、まだまだつゆさえも知らずに……。




