ティム凱旋する
「一体、どんな訓練を積めばさっきみたいに剣と魔法を使った戦闘スタイルをができるようになるんだ?」
その日の移動が終わり、警備のため焚火を囲んでいるとリーダーから質問をされた。
「そ、それは……」
まさか「ステータス操作というユニークスキルに目覚めているので覚えられるスキルはすぐに上限まで上げることが出来る」などと馬鹿正直に説明するわけにもいかず言い淀む。
「もしかして、噂に聞く『覚醒者』なのではないでしょうか?」
後衛の治癒魔法を使える女性が探りを入れてきた。
「ええ、まあ。そんな感じですね」
見当がついているのだろうし、無理に否定する必要はない。
俺やガーネットのように、成長が遅くスキルの発現が人と違うタイプの冒険者は『覚醒者』と呼ばれている。
強力なユニークスキルを身に着け、台頭してからは一気に成長するので冒険者の間では『覚醒者』は一目を置かれる存在となっていた。
「ティムとかいったか、もしどこのパーティーにも所属していないなら俺たちのところにこないか?」
なので、覚醒者とわかると勧誘をする冒険者は多い。
「いえ、生憎組んでいる人間がいますから……」
俺はガーネットとフローネの姿を思い浮かべながら勧誘を断った。
地元の街でもAランククランや高ランクパーティーから散々勧誘を受けた。だが、当時は周囲の人間を信用していなかったし、パーティーを組みたいと思わなかったのですべて断っていた。
「だよなぁ、前衛も後衛もこなせるし、索敵までできるだから。こんな優秀なやつがフリーなわけないよな……」
「すみません」
残念そうな声を出すリーダーに謝っておく。
「でも、気が変わったらいつでも声を掛けてくれよな」
「先程は本当に助かりましたし」
「その若さでその強さは憧れます」
あまり褒められると居心地が悪くなる。
「とにかく、今回の依頼はティムのお蔭で随分楽させてもらってるからな。夜の見張りは俺たちが受け持つから、休んでていいぞ」
「いいんですか?」
「日中の索敵で活躍して欲しいからな、その代わりだよ」
そう言うことならばと考え、俺はその申し出に応じることにした。
「それじゃあ、俺は先に天幕で休ませてもらいます」
挨拶をすると、早々に天幕に引っ込むのだった。
★
「もうすぐ、ティム君が帰ってくるんだ……」
グロリアは胸に手を当てると心臓の鼓動が激しくなっているのを意識した。
ティムがダンジョンで襲撃に遭い生死不明と聞いてから数ヵ月。当時、その話が冒険者ギルド内に流れた際、グロリアは血の気が引いて倒れてしまった。
そして、もうティムに会えないのかと絶望し泣き続けていたのだが……。
「いい、リア? 戻ってきて顔を出したらまず張り手から行くんだからね?」
マロンは眉根を寄せると、グロリアに最初にティムにするべきことを思い出させる。
何せ、二人はティムが危篤だと聞いてダンジョン奥に進み、ティムを救うためのアイテムを手に入れるため奮闘していたのだから。
「う、うん。今回ばかりは思いっきりぶつよ!」
そんなことを言っている二人だが、ティムが問題を解決しサロメから無事を伝えられた時は足元から崩れ落ち、抱き合って泣くくらいにはティムの無事を喜んでいた。
「それにしても、今日って人が多くない?」
マロンに言われて周囲を見回すグロリア。受付前のベンチの他に、併設してある酒場の方にも多くの冒険者が詰めており、ほとんどの人間はわいわいと談笑をしていた。
「何か突発依頼でもあるのかしらね?」
ときおり、貴族や大商人などから依頼が舞い込むことがある。
普通の依頼よりも報酬が良く、貴族と伝手を作るチャンスなので、そのての依頼が張り出されるとなると、熾烈な奪い合いが起こるのだ。
ここに詰めている冒険者たちは、その手の情報をいち早く入手しており、張り込んでいるのではないかとマロンは予想していた。
「……言っておくけど、今日は依頼受けないからね?」
「あはははは、当たり前じゃない」
何気なく視線を依頼掲示板に向けているマロンを牽制する。彼女もこの手の儲け話に弱く、これまでも何度かそのての依頼を受けてきた。
「今日はリアの大切な人が戻ってくるんだもんね、ちゃんと出迎えないと」
そう言うと、マロンは悪戯な様子で笑って見せた。
「ま、マロンっ!」
グロリアが頬を赤く染めてマロンを睨みつけていると……。
——ザワワワワワッ!!!――
ギルド内がざわつき、入り口からティムが入ってきた。
「ふーん、少し男の顔になったわね」
姿を見せたティムは、数ヵ月前のマロンの記憶よりも大人びており、どこか落ち着いて見えた。
周囲の視線を一身に受けているにもかかわらず、動じることなく進む。
グロリアが震え、目に涙を浮かべ立ち上がる。せめて感動の再会くらいは遠慮しようかなと一歩引いてついて行く。
「ティム……君?」
グロリアの声に反応し、ティムがそちらを向く。
「あっ……二人ともひさしぶ――」
二人に気付きティムが笑みを向けると……。
「王都で活躍したティムの凱旋だっ!」
「Aランク冒険者を完封したとか!」
「貴族家に婿入りが決まっているらしいぞ!」
「今度王都でクランを立ち上げるらしいじゃないか! 戻ってきたのは人材発掘らしいな!」
「えっ? ちょっと⁉」
困惑したティムの声がして、周囲の冒険者が走り寄り姿が見えなくなる。
中心ではティムが「そんな話は初耳だ」「人を募集していない」「とにかく通してくれ」などと言っているが、かつてニコルが戻ってきた時の比ではない殺到ぶりなので抜け出すのは不可能だろう。
「えっと……どうしよっか?」
マロンは苦笑いを浮かべるとグロリアに確認すると……。
「……ティム君」
そんな人波に向けてグロリアは熱い視線を送るのだった。
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