二日酔い
「ううう、頭が痛いですぅ」
翌朝、ガーネットは頭を抱えるとうめき声をあげていた。
どうにか寝床から這い出してきたようだが、フリルが付いたブラウスタイプの寝間着姿で、髪もぼさぼさだ。
フローネが水を飲ませ、くしで髪をといて介護をしている。
「ティムさん、私もしかして死ぬんじゃないでしょうか?」
「ただの二日酔いで大げさな」
とはいえ、気持ちはわからなくもない。俺もサロメさんに連れられて酒を呑んだ時は妙に強気になり、歯止めが効かなくなり翌日地獄をみたものだ。
昨晩、初めて酒を呑んだガーネットだったが、途中まで「全然平気ですね。むしろ物足りないです。私ってお酒強いのかもしれません」などと上機嫌でチェリーワインを呑んでいた。
フローネが追加で作ってくれたツマミを食べ、普段より饒舌で俺に話しかけていたのだが……。
「俺の忠告を聞かないからそうなるんだぞ?」
途中、俺の目を盗み、チェリーワインをそのまま呑み始めてしまい、気が付けばべろんべろんに酔っていた。
「ううう、こんなに苦しいのなら……私もう二度とお酒は呑まない……です」
初めて酒を呑んだ翌日の俺と同じ感想だ。どうやら、アルコールが後から回ってくると知らず大抵の人間は同じ罠に落ちるらしい。
「そうか、うん。それが良い」
そう宣言するガーネットだが、その程度の後悔で酒を絶てるなら、酒場が流行るわけがない。
大半の人間はそう言いつつも、ふたたび酒を口にする。
「この調子だと、今日はガーネットとの狩りは無理そうだな……」
先日に続いて、ダンジョンに潜って狩りをする予定だったのだが、これではまともに戦うこともできないだろう。
「そう言えば、植物系ダンジョンの二層にリーフキャットというモンスターが湧くのですが、そのモンスターがドロップするレアアイテムが二日酔いに効く薬のはずです」
フローネがぽつりと呟いた。
「ティムさん」
ガーネットが瞳を潤ませて訴えかけてくる。
とてもではないが、先日勇猛に戦い、ドラゴンウォーリアを倒したようには見えない。
「はぁ、それじゃあ取ってきてやるからゆっくり寝ていろ」
甘いかもしれないが、彼女が苦しんでいるのをこのまま見ているのも気が引ける。今後のことも考えて、いくつか多めにストックしておこう。
「そうだ、フローネも一緒に行かないか?」
「私もでございますか?」
「ああ、植物系ダンジョンはそんなに強いモンスターが出る場所でもないし、今のフローネなら十分戦えるだろうからな」
「そう言うことでしたら、御同行させていただきます」
「えぇっ! フローネ、傍にいてくれないんですか……」
「出掛ける前に軽食を作っておきますので。少しの間、外すことをお許しください」
子供のような仕草で甘えるガーネット。それを優しくあやすフローネ。
まるで仲の良い姉妹のようだ。
「そう言えば、これがフローネのダンジョンデビューになるわけか」
ふと俺は思いつくと、
「それじゃあ、こっちは準備をしているから、出掛けられるようになったら声を掛けてくれ」
俺はその場から立ち去るのだった。




