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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
四章 太陽を巡って
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067 エピローグ

「よし、これで完成だな」


 俺はグローパラスに転移魔法用の『妖精の輪』を設置した。場所は、俺の屋敷の地下室だ。人間の目が触れる所に転移魔法に関わるものを設置するのは避けたかったことと、グローパラス全域を転移用の魔力チャージの範囲内にすることができる場所でもあったからだ。

 とりあえず、一個設置して魔力のチャージ速度を検証する必要がある。妖精界では十分もあれば転移用の魔力はフルチャージされるようだが、ここの場合はどうなることか。少なくとも丸一日はかかるだろうな。


 そして、大きな問題が一つ。

 この転移魔法の存在をダーナ王国に伝えるべきか否か。妖精の秘術であるので、魔法の仕組みについて語るわけにいかないというのは当然のことであり、それについては、魔法の存在を知られた際において、王国側も納得してくれるだろう。

 問題は、転移魔法を得たことそのものを伝えていいものかということだ。


 人間の使う転移魔法は、これまでの情報から推察できる範囲ではあるが、それほど便利なものではなさそうだ。

 しかし、この妖精の転移魔法は、モンスター娘の生息域に妖精の輪を設置する必要があること、ある程度の数のモンスター娘がいないと連続使用が困難という制約があるが、かなりの距離を、複数人……チャージした魔力を全部使えば数十人からおそらく百人近くを一気に転移させる効果は激烈だ。少し考えるだけでもその利用価値の高さは多岐にわたる。

 そう、軍事的な目的でも使える。


 話さなければバレないかといえば、そんなことはないだろう。

 何のために転移魔法を欲したかといえば、移動の日数がかかりすぎるからだ。転移魔法によって俺の移動距離が飛躍的に伸び、逆に移動日数が下がれば、転移魔法がそれに準じたものの存在に気づくのは間違いない。

 かといって、せっかく手に入れた転移魔法を使わないという選択肢はない。


 報告書に全てを細かく書かなければごまかせることはごまかせる。モンスター娘を移住させる場合に、転移魔法で一瞬で連れてきた場合でも、移住先からグローパラスへの移動日数を考えて、住民登録をする日を後者に合わせればいい。移住することが決まった日と、グローパラスに着いた日ではなく住民登録をした日の日付を報告書に書けば問題はないはずだ。

 だが、それは万が一バレたときに信用が大きく損なわれる諸刃の剣だ。


「あー、もう、どうすっかなあ……」


 自分から転移魔法を取得したことを報告する必要はないと思う。ダーナ王国には色々と世話になっているのは確かで、だからこそ隠し事をすることに多少なりとも後ろめたい気持ちが出てくるわけだけど。

 うん、ヘタな工作をせずに、淡々と報告書を書くようにすればいいかな。

 思えばこれまでは報告書を細かく書きすぎていた気がする。ある程度書式を整えて簡略化するのは、今回のことがなくても必要だろう。報告日ごとに、移住してきたモンスター娘の数などをまとめて記せばいいか。それを何ヶ月か続けて何も言われなければ、転移魔法を利用したモンスター娘の移住を開始すればいい。

 そもそも、転移魔法のための妖精の輪の設置や、魔力がチャージされる期間、一回の転移に消費する魔力の量を検証することが先だから、実際に運用を始めるのは数ヶ月先になるだろうし。


 よし、当面における転移魔法については方針が決まったな。今後も転移魔法については慎重な取り扱いをするようにしなければ……。




 そして、その翌日に俺とプロミィ、ザザ、そしてプレゴーンはウィルオーウィスプの住処へと向かうことになった。

 ウィルオーウィスプたちは、崖になっている部分の土を繰り抜いて住居をかまえていた。大雨が振ったら危険だと思ったが、ヴィヴィアンのノエルに協力してもらって保護の魔法がかけられているとか。


 プロミィの仲間たちにこれまでの経緯を話したら、快く受け入れてくれた。

 というわけで、俺は新たに八人のウィルオーウィスプたちに進化魔法を使うことになった。プロミィと同じように、炎の色を自由に変える進化だ。色を変える魔力を使って炎の温度を上げることも可能であり、これによってザザの食料は十分に確保できる。


「わー、これすごい!」

「あつっ! あっつい!」

「自分に纏う炎は熱くしたらダメだって!」


 新しい遊びをするように、ウィルオーウィスプたちが思い思い炎を操っている。それを見たザザが飛び出すと、ザザと九人の炎による追いかけっこが始まる。早速打ち解けたようで、これはもう心配はいらないかな。


「じ~~~~」


 …………。

 熱い視線がしばらく前からずっとつきまとっている。

 最初に感知した時は突然だったので驚いたが、何も仕掛けてくる様子がなかったので無視していた。

 しかし、視線はますます熱くなり、その視線の持ち主のイライラがそろそろ頂点に達しそうになる気配を感じたので、これ以上無視ができなくなる。


「アルマ、一体何の用だ」

「……!」


 パッと明るい気配が一瞬伝わる。

 しかし、すぐにその気配は剣呑なものになり、俺の前に黒い霧が集まったかと思うと、ノーライフクイーン、アルマが姿を現した。


「……あなた、ずっと私のことを無視していましたね」

「いや、ついさっきまで気付かなかったー、うん、さすがノーライフクイーン」

「何度か目が合いましたわ! そのとき、露骨に視線を逸らしたのを、私は一生忘れませんわよ」


 どれだけ長い年月生きているか分からない相手に一生とか言われるのは重くて嫌だなあ。


「それで、何の用だよ。この前の復讐って言うなら、相手になるぞ」


 俺は神珠の剣の柄に手を置く。もっとも、アルマから敵意や殺意を感じないのでポーズにすぎないが。でもまあ、一応お互いの立場を確認するために言っておく必要はあるだろう。


「この前のことなら気にしていませんわ。そこの馬は別ですけど」

「べー」


 プレゴーンに太陽を突きつけられたことはまだ根に持っているようだな。プレゴーンも挑発しないでくれ、ったく。


「ザザの様子を見に来たんだろう」


 その言葉にアルマは目を逸らし、小さく「ええ」と頷いた。


「あの子、最初に会ったときは本当に衰弱していまして、その、きちんと生きていけるかどうか確認しておきたかったのですわ。これも強き者の義務、そう、義務ですの」


 なぜかもじもじしていて、視線が定まらない。


「なんだ、意外に優しいんだな、アルマは」

「な……!?」


 両手を合わせて、指をこまごま動かしていたアルマの顔が一瞬で真っ赤になる。なんというか、本当に一瞬で思わず笑いたくなるほどだ。


「そんな軟弱なものではありません! 先程も言ったように、強者の義務を果たしただけです! 私は同じ魔族にすら恐れられるノーライフクイーンですから、なめられるような真似をするはずがありませんわ!」


 なんかよく分からない挟持とかあるんだろうか、めんどうくさい。


「それより、ザザに会ってやってくれ。会いたがってたぞ」


 その言葉にアルマは静かに首を横に振った。


「私が姿を見せたら、あの子はもしかしたら私についていくと言いだすかもしれません。せっかく住む場所が見つかったのに、それでは意味がないのです。あの子に見つからないように魔力で匂いを消しているのもそのためですし」


 なるほど、ザザが気づいていないのは変だと思ったが、そういうわけか。

 それにしても……。


「アルマ、あんた、色々と不器用だな」

「余計なお世話ですわ」

「ある程度時間が経ったら会ってやれよ。ここでの生活が安定したら、ここを去ってあんたを追いかけるようなことはしないだろう」

「……そうするわ」


 そして、アルマはザザに気づかれないでいるのも限界ということで、何かしらの魔法を使ってその場から消えた。

 一度じっくり話をしたいもんだ。結構分かり合える気がする。




 その後、プロミィたちとザザに別れを告げ、俺たちはグローパラスへと戻ることにする。ウィルオーウィスプたちはグローパラスに興味を持ったらしいから、もしかしたらそのうちグローパラスに全員で押しかけてくる日がくるかもしれない。

 そして、ノエルの湖の屋敷に立ち寄る。目的は妖精の輪の設置だ。この森一帯はモンスター娘がまだまだたくさんいるので、グローパラスへの勧誘のために拠点として確保したい。それに、ノエルに妖精界の手がかりを教えてくれたことに改めて礼を言う必要があった。

 

 結局、ノエルの屋敷に泊まることになり、その一日で妖精の輪の魔力は十分に溜まっていた。確認したらグローパラスに設置した妖精の輪も十分魔力が溜まっていたので、転移魔法を使ってグローパラスへの帰還を果たす。


「よし、成功だ」


 屋敷の地下室であることを確認して、俺は小さくガッツポーズをした。


「ほええ、便利だねえ」


 一緒に転移してきたプレゴーンは目を丸くしている。

 ここから三日から四日かかる場所の一回の転移では、どうやら魔力はそこまで減らないみたいだな。二人だけの転移ということもあるだろうが、まだかなりの余裕があるのを感じる。大陸の端から端までも転移できるという話だから、それも当然ではあるか。

 まあ、検証は今後色々やる必要があるな。まずは、人数による消費量を早い段階で検証しておきたい。


 そんなことを色々考えながら一階に上がったら、そこにブラック・ローチのローナが駆け込んできた。何やらかなり慌てているようだ。


「リュ、リューイチ!」

「ど、どうした!? 何があった!?」


 何かまずいことが起きたのだろうか。俺はいくつか想定していた最悪のケースを複数思い浮かべる。


「……できた」

「うん?」

「仲間に子供ができたんだよ! それも一人だけじゃないぞ!」


 それが、グローパラスに所属するモンスター娘の初めての懐妊だった。

 人間を誘拐して子作りしていたときは、子供ができないまま、体調を崩した人間を元の場所に返さざるをえないようなことは珍しくなかったそうだ。

 それが、安定して人間が確保できる状況で子孫を残すことができた。

 これの意味することは大きい。


「……そうか! それはめでたいな!」

「ああ!」


 グローパラスは新たな段階へ進もうとしている。

 これ以上忙しくなることはないと思っていたが、まだまだ忙しくなりそうだ。


 でも今は、新たに宿った生命に祝福を、そして、深い感謝を伝えたい。

 

 おめでとう。

 

 そして、ありがとう。


 これにてストーリーその2完結です。

 グローパラスという拠点の確保、転移魔法という移動手段の確保、これでようやく下地が整いました。もっと色々な場所に行けるようになります! ようやくこの状態にもってこれました、長かった……。

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