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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
四章 太陽を巡って
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065 転移魔法

「……以上により、スコルに関しては、ウィルオーウィスプたちのもとで暮らす方向にもっていきたいと思います」


 俺はザザの今後についての最終報告をオリヴィアに伝えた。報告書として紙にまとめる必要がないのは楽だが、伝えるべきことを忘れていないかどうか箇条書きにしたメモは持ち寄る。これでメモなしでそつなくこなすことができたらかっこいいのだが。


「分かりました、スコルについてはリューイチさんに一任します」

「ウィルオーウィスプの住んでいる場所はこの妖精界の場所から結構離れていて、女王の目の届かない所になってしまいますが、それでもかまわないということでよろしいでしょうか」

「はい。あのザザというスコルは、本人の性質は決して悪いものではありません。むしろ、無邪気な子供といった方が適切でしょう。邪な者がそそのかしさえしなければ無害でしょう」


 それからオリヴィアは一瞬考えこむ素振りを見せる。


「……もっとも、あの邪な者がいなければスコルが飢えていたであろうこともまた事実。その点だけは認めなくてはなりませんが」


 ふむ、意外に物分かりがいいというか、いや、むしろ甘いというか。

 とりあえず、これでスコルの件はひとまず終了かな。




「それでは、女王」

「分かっています。あなたは私の期待以上のことをしてくれました。約束通り、あなたに妖精に伝わる転移魔法を授けましょう」


 それからオリヴィアは人払いをして、俺だけを残す。


「転移魔法は色々なものがあると聞いていますが、私たち妖精に伝わるものは、門を作成するものになります」

「門……ですか?」

「妖精の転移魔法は空間と空間をつなげる道を作成するものです。そして、その道の入口と出口として、門を用意しなければなりません」


 なるほど、ゲームでよくあるようなものかな。転移門とかゲートとか呼ばれるやつをイメージすればいいかもしれない。


「ただし、その門を作成する場所には条件があります」

「条件?」

「その門の周辺に、モンスターがある程度住んでいなければなりません」


 ……これはまた結構厳しい条件がつくんだな。


「周辺というのは門を中心として、三十フェルトぐらいですね。そして、モンスターは多ければ多いほどいいです。理由は後で説明しましょう」


 三十フェルト……つまり、約九百メートルを半径とする円の範囲か。


「モンスターとは妖精限定でしょうか?」

「いえ、モンスターの魔力であればかまわないので、妖精だけでなくどのようなモンスターでもかまいません。ただし、魔族はモンスターと魔力の質が異なるので意味がありません。当然、人間や亜人でも無理です」


 ……ふむ。本当にモンスター限定というわけか。


「門は、独自の魔力を込めた石を円状に並べるだけで完成します。私たちはそれを『妖精の輪』と呼んでいます」


 まさかの妖精の輪。地球では、妖精の輪の正体は菌やシロアリなどと言われているが、この世界ではやはり妖精が作るのか。


「石に込める魔力の術式は後で教えます。これが一番の秘術となる部分ですので、申し訳ありませんが紙などには書き記さず、記憶だけでお願いします」

「当然のことだと思います、承知致しました」


 そして、女王は今日のためにこの三日で用意したという魔力を込めた石を俺に見せた。その石の大きさは人間が親指と人差し指で丸を作ったぐらいの大きさで、古代の妖精の文字が刻まれている。

 人間と大なり小なり関係を持つ妖精は、日常においても人間の言葉を使い、もはや妖精独自の言語は廃れてしまったそうだ。今では妖精の中でも魔術に長けた者や古くから生きている者しか知らないらしい。

 だが、俺にはその刻まれた文字の意味が分かる。どの石にも「門」という意味を持つ三つの文字からなる単語が刻まれていた。


 この石を使って円を作れば妖精の輪は完成するらしい。円の大きさが門の大きさというわけではなく、真円でなくてもかまわないそうなので、そこらへんは結構アバウトなんだな。

 ただ、妖精の輪は自由に繋がっているわけではなく、作成した者が同じで、なおかつ作成時に発動のためのキーワードを用意して、そのキーワードが同じものでなければ繋がらないならしい。やはり制限が厳しいな……。




 それから、俺は女王に外へと連れて行かれた。これまた、前もって妖精の輪を用意しておいたそうだ。


「妖精の輪は、周辺にいるモンスターの魔力に反応し、自身に魔力を蓄えていきます。そして、その魔力を消耗して別の妖精の輪へと空間をつなげます。妖精の輪の距離が遠ければ遠いほど、同時に転移するものの数が多いほど、多くの魔力を消費することになります」

「なるほど、モンスターが周辺に生息していないといけないといった理由は、妖精の輪に魔力を蓄えるために必要ということですか」

「その通りです」

「妖精の輪に蓄えられた魔力でなければダメなのですか? たとえば、他のモンスターが直接魔力を注ぐとかは……」

「それはできません」

「一回の転移で消費する魔力は片方の妖精の輪だけですか? それとも両方?」「「両方です」


 ……つまり、妖精の輪は転移魔法の電池であり、充電システムでもあるというわけだな。電池が切れると転移魔法が使えなくなるから、短い期間で何度も転移魔法を使って行き来するという使い方はできなさそうだ。


「大陸の端から端までなら、妖精の輪に魔力が十分あれば往復はできます。ただ、魔力を再び貯めこむのに時間がかかりますが」

「魔力が貯まる時間は、モンスターの数が影響しますか? それとも、モンスターの魔力の強さが影響しますか?」

「数です。モンスターの強さは関係ありません」


 ……これは妖精の輪の設置場所をよく考えないといけないな。

 始点として考えているグローパラスにはモンスターがそれなりに住んでいるから問題はないだろう。ただ、終点としての妖精の輪の設置場所の選択は難しい。


「妖精の輪を構成する石が破壊されたり移動されることによって、妖精の輪としての機能は損なわれますか?」

「設置するときに門としての機能をその場所に持たせるので、初期の状態から……曖昧な表現で申し訳ありませんが、ある程度変わってしまったら門としての機能を失います。この石には他者の注意を逸らす魔法も同時に込めるのがいいでしょう。その魔法についても教えますのでご安心を」


 なるほど、これはなかなか難しい。


「一度使ってみて下さい。妖精界なら妖精がたくさんいますので、すでに妖精の輪には魔力が十分蓄積されています」


 目の前の妖精の輪に魔力が満ちているのが分かる。オリヴィアに発動の方法を教えてもらい準備万端だ。


『門よ、我が声を聞け、そして我を同胞の元へと疾く導きたまえ』


 それは石に刻んだ文字と同じ言語、古代妖精語だ。俺のその言葉に応えるかのように、妖精の輪が淡い青色の光で輝き始める。そして、キーワードとなる言葉を唱えれば完成だ。


『妖精たちに幸があらんことを』


 その瞬間、二つの妖精の輪と繋がったのを感じた。一つはここのすぐ近くで、もう一つは……どこか分からないが、かなり離れた場所にあるようだ。


「すぐ近くにある妖精の輪に飛んで下さい。そこに意識を集中すれば飛びます。また、その時にこちらから転移する者も頭の中で補足するようにして下さい」


 俺の迷いが分かったのか、オリヴィアがそう言ってきた。

 そうと決まれば、俺はその近くにある妖精の輪に意識を集中する。それと同時に傍にいるオリヴィアを頭の中で補足……どうやりゃいいんだ……あ、感覚的に分かる、なるほど、これなら同時に結構な数を運べるかも?


 ヒュオッ……


 妖精界に来た時のような浮遊感を一瞬感じる。

 そして、次の瞬間に、俺とオリヴィアは丘の上に立っていた。足元には妖精の輪が淡く光っている。その石のまわりは小さな色とりどりの花が丁寧に植えられていて、妖精の輪の石とは別に、レンガのようなもので妖精の輪の区画がしっかりと分かるようになっている。


 そして、顔をあげたら、眼下に妖精界が広がっていた。

 草原が遠くまで広がり、色彩豊かな花が草原に様々な色をつくり、ところどころには森が広がっている。そして、その豊かな自然の中に、色々な姿をした妖精たちが楽しそうに笑っている。


「これは……すごいな」

「これが、私の、いえ、私たちの妖精界です」


 オリヴィアは誇らしげに言った。

 うん、その気持ちはよく分かる。


「リューイチさん、このたびは本当にありがとうございました」




 こうして、俺は転移魔法を習得した。

 この魔法については色々と検証しなければならないな。

 なお、俺が初めて作った妖精の輪は、城の近くに設置を許可してもらった。流れ的にはあの丘の上にするところだが、城から距離があって不便なんだよ……。

 これで、妖精界での用事は済ませた。あとは、ザザをウィルオーウィスプの所に連れて行けば、ようやくグローパラス帰ることができるな。

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