表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
三章 いざ妖精界へ
57/105

056 太陽を食べる狼

 一体あの狼は何だったんだ。

 まあ、そのことを考えるより先に、今まさに起きている問題として、さっきまで昼だったのに夜になったことがある。太陽持っていかれたもんなあ、そりゃ夜になるか。

 いやいやいや、何これ、ファンタジーとはいえぶっ飛んでいる気がする。太陽がなくなったので夜になりました、って大雑把なことでいいのだろうか。


『現時点をもって避難指示を解除します。此度もスコルを追い払うことができず、痛恨の極みです』


 静かな声が周囲に響き渡った。なんだろう、どこから聞こえてきたのか分からない。そして、一体誰の声だ?


「今の声は女王様だよ」


 俺とクレアが声の主を探してきょろきょろしているのを見て、フェアリーのエマが答えてくれた。なかなか気のつく子じゃないか。

 で、今のが女王、つまりティターニアの声ということか。ひょっとしたら、妖精界全域へ自分の声を伝えることができるということか。魔法なのか妖精界の女王としての仕様なのか分からないが、女王の力というものを感じるな。

 そして、スコルというのがさっきの狼の名前と考えていいだろう。

 うーん、聞いたことがない。いや、単に記憶していないだけだな。太陽を食べる狼という話はいくつか見たことがある気がする。日食を説明するために昔の人が考えた神話や昔話で、龍が太陽を食べるってのもあったっけ。

 普通に考えたら、ギリシャ神話か北欧神話かどちらかだな。いや、アステカ神話など南米という可能性もあるか。……どちらにしても、地球の神話を元に考えるっていうのが妙な気持ちだ。異世界なのに、地球で創造、いや、想像されたモンスターばかりがいる。

 実を言うと、このことを考えるたびに、ひょっとしてこの世界は自分の夢の中の世界なんじゃないか、自分は夢を見ているだけじゃないかと思ってしまうから精神的によろしくない。


「それにしても、太陽がなくなったけど、どうするんだ?」

「明日になればまた太陽が出るよ」


 エマがいつものこと、といった感じで答えた。やはり、一度経緯を聞いてみたいな。


「なあ、エマ。あの狼について知っていることを教えてくれないか」

「いいけど、食事をしてからね、皆も来たし」


 気づいていたけど、避難指示解除の声がしてからすぐに、こちらの方に向かって移動してくるモンスター娘の気配を感じていた。

 で、それらのほとんど、もしかしたら全部がフェアリーだったようで、エマと似たような姿の妖精たちが興味津々と言った様子で俺たち、特に俺とクレアを見ている。まあ、人間は珍しいだろうからな。てか、結構な数がいるな。たぶん、三十、四十……いや、五十人いるだろ、これ。


「ねえ、エマ、その人間さんは誰?」

「男がリューイチで、女がクレアだって」

「あたしのことも忘れないでー!」


 プロミィが光って自己主張すると、フェアリーたちは「おおー」とどよめく。もうそれだけでお祭り騒ぎ的なノリになり、追いかけっこをし始めるフェアリーや、俺たちにまとわりついてくるフェアリーなどが出てきた。これは、フェアリーたちの相手をしないとダメだろうな……。




 その後は、好奇心旺盛のフェアリーたちにまとわりつかれ、質問攻めにあうことになった。生産性のないよく分からない質問が多くどっと疲れてしまう。あれだ、人間の子供のメンタリティーとあまり変わらない。


「妖精つかみ取り大会できそうだよね」


 クレアはわりと満足気だ。小さくて可愛い生き物が好きなあたりは、やっぱり女の子だな。

 そんなクレアは幻覚魔法で生み出した動物にサーカスのような芸をさせてフェアリーたちの喝采を一身に浴びている。小さなライオンが、幾重もの炎の輪を次々とくぐっていく。これ、普通にすごいな。魔法で生み出した幻覚がどれも小さめなのが難点だが、金が取れるレベルな気がする。


「こ、これ……ものすごく……精神集中しないと無理……、だから、つ、疲れるけどね……」


 幻覚に二、三の演目をやらせただけで息も絶え絶えといった感じだ。途中からはプロミィが加わって色と光はさらに激しいことになっていた。その派手さに負けじと幻覚を動かしていたからあっという間に魔力を消耗したらしい。


 そしてフェアリーたちは、クレアとプロミィの幻覚と炎の競演を楽しみながら、食事をとる。この草原に咲く花の蜜が彼女たちの食事のようだ。この妖精界では妖精の食事となるものが豊富にある上に、彼女たちが必要とする食事の量が少ないため、とても過ごしやすい場所のようだ。


「でも、最近太陽がしょっちゅう食べられてなくなるんだよね」


 よく考えたら、いや、考えなくても、すごい台詞だよなあ。

 フェアリーたちの食事は量が少ないからあっという間に終わる。クレアたちのサーカス演技もひとまず終わったようなので、改めて事の経緯を聞いてみることにした。


 どうやら、一月ほど前に、あのスコルという狼娘がこの妖精界に現れたようだ。ヴィルデ・フラウを通してではなく、いかなる手段を用いて侵入したかは分からないとのこと。

 それからは、スコルが太陽を食べる、ティターニアが莫大な魔力を使って太陽を修復する、を繰り返していたそうだ。だが、修復するたびに食べられるので、今では太陽を作って運ぶことができるモンスター娘を雇っているとか。てか、そんなモンスター娘までいるのがすごいな。

 もちろん、太陽を作るティターニアもすごいけど。異世界を創造するということは、空間だけでなく太陽や月、星まで擬似的なものを創造しているのだろうか。太陽なら惑星規模の大きさを照らす必要はないから、本物よりも規模を相当小さくできるのかもしれないな。


「ティターニアだったらスコルを追い出すことぐらいわけないんじゃないか?」

「女王様は優しい方だし、妖精界の維持に魔力を使っているから……」


 確かに、女王自ら戦うことのリスクは大きいな。だから他の妖精がさっき戦っててことか。でも、実力差は歴然だったな。あのスコルってモンスター娘は相当強いみたいだ。太陽を食べるぐらいだから、モンスターとしての格が高そうだし。


「あの狼も毎日太陽を食べるわけじゃないし」


 スコルは大体三日ごとに来襲するらしい。奪った太陽を三日かけて食べて、太陽がなくなったらまたやって来るという説が濃厚だとか。


「月を食べる狼とかはいないのか?」

「いないよ」


 太陽を食べるやつがいるなら、月を食べるのもいると思ったんだけどなあ。


「太陽がない日があるとやっぱり問題があったりするのか?」

「うーん、よく分からないけど、お花はちょっと元気じゃなくなるかも」


 あー、光合成できなくなるもんな。


「私たちとしても、すぐ夜になる日はあまり遊べないし、つまらないかなー」

「あたしは夜が長かったら張り切っちゃうけど」


 プロミィは青い炎を纏いながら胸を張る。確かに暗闇の世界ではウィルオーウィスプは過ごしやすいだろうな。


「私たち普通の妖精はあまり影響ないからいいけど、夜が長くなって影響を受けている妖精もいるみたい」

「どんな妖精?」

「眠りの妖精のザントマンは、夜が早くなって寝つけない日は大忙しで眠る暇がないとか言ってたし、ブラウニーも仕事時間が長くなって困るとか言ってたかも」


 まあ、三日に一度ならあまり影響はないように思うけど。もっとも、長く続くと体内時計的なものがずれたりするんだろうか。


 その後雑談をもう少ししてみたが、妖精界についての認識は「居心地がいいからなんとなくここにいる」程度で、妖精界についてはよく知らないようだし、転移魔法のことも知らないとのことだった。

 やはり、女王のティターニアに直接きくのが一番か。

 ティターニアは女王というだけあって城に住んでいるらしい。妖精界の中心に近い場所にその城はあるようで、ここからはそう遠くないそうだ。てっきり妖精界の端っこにいるものと思っていたから驚きだ。


「よし、クレア、プロミィ、出発するぞ。城に行って、ティターニアに転移魔法について聞かないとな」

「でも、今日来たばかりの私たちが女王に面会できる?」


 もっともな質問をクレアがする。

 当初は、俺の進化魔法を使って何か女王に興味を持たせられないだろうかと思っていたが、今の妖精界の状況を考えれば、あのスコルという狼を何とかすることが女王に接近するために一番の近道だろうな。


「スコルについて何かできるかもしれないと言えばたぶん話を聞いてくれる。それに、モンスター娘同士のトラブルとならば解決したいからな」


 というわけで、俺たちは妖精界の城を目指すこととなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ