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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
二章 移動手段を求めて
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048 次の目標

 地球で一人暮らしをしていた俺は、正直ずぼらな性格だったと思う。

 都内の1Kのアパートで、六畳の洋室はいつも散らかっていた気がする。自分なりに物の配置は考えているが、他人から見たら足の踏む場もなかなかない。当然、掃除はあまりしない。俺ですらやばいと思うぐらいにならないと、掃除をやるのが面倒なんだよな。もっとも、そこまで汚れると掃除が大変なのは当然のことで、今から考えたらこまめに掃除をしていた方がきっと楽だった。

 だが、そうやって汚れを放置していても平気だったのは、あくまで自分が住む場所を自分で汚していたからだ。自分の汚れに対しては、人はわりと無関心でいることがあると思う。逆に、他人の汚れは必要以上に気になることが少なくない。

 俺の屋敷は、この間学院長が来た時のように、来賓を歓迎する場所ともなるので清潔さは保つ必要がある。しかし、屋敷というだけあって無駄に広く、もし俺が掃除をしようとしても、一体どこから手を付けたらいいか途方に暮れることは間違いない。

 また、グローパラス全体の清掃はもちろんのこと、娼館や銭湯、食事処は常に清潔を保つ必要がある。俺が屋敷に来て最初に手を付けたのが掃除婦の手配だったぐらいには重視している。


 ただ、いざ掃除婦を手配しようと思ってはたと悩むことになる。人間の掃除婦を手配することそのものは難しくない。王都で募集すれば必要な人数は確保できるだろう。

 しかし、グローパラスはしばらくの間、俺、クレア、ティナの三人以外はモンスター娘しか居住しない園となる予定だ。そんな場所に、はたして人間が来てくれるだろうか。来てくれたとしても、問題が発生しやしないだろうか。園の運営が安定した後ならともかく、手探り状態の段階ではその不安はどうしてもぬぐえない。だから、人間で掃除婦を募集することは早々に諦めるしかなかった。

 そうなると、モンスター娘で掃除婦を探すしかなくなる。掃除をするモンスターとなると思いつくのはシルキー、ブラウニー、ホブゴブリンぐらいだ。だが、思いついても実際にこの世界にいるかどうかは分からないし、いたとしても地球での伝承のように家事をやるかどうかも分からない。

 それならば、現状いるモンスター娘たちに掃除を任せてみようかとも考えたが、そもそもそのときに戦力となるモンスター娘たちは、ゴキブリやらネズミやら綺麗にするどころか汚す方の立場だった子ばかりだ。

 いや、掃除のやり方を教えればいいだけでは……。


「ゴキブリやネズミが掃除しているのを目撃した人間のお客さんがどう思う?」


 クレアの発言に返す言葉もなかった。たとえ体を清潔にして掃除をしたとしてもイメージというものは簡単にくつがえせるものではない。

 スライムは動きが鈍いから広範囲を掃除するのには不向きだ。そうなると、動きが素早いヘテロポーダが適任と考えたが……。


「自分を綺麗にするのは好きでありますが、掃除はちょっと……」


 そう言われて逃げられた。もっとも、ここにはヘテロポーダは三人しかいないので、やる気のない掃除をされてもとても園内をカバーできるとは思えない。




 さて困ったと悩んでいる時に屋敷を訪れたのがキキーモラだった。

 歩いたら何かいいアイディアでも浮かぶのではと思って屋敷を出ようとしたら、門の前に七人の少女が立っていた。赤や青、緑といった原色のブラウスに白いエプロンをつけていてメイドの服装のようにも見える。髪の色は金髪と灰色が混じったような色で、全員肩のあたりまで伸ばしている。そして、頭の上部をすっぽりと覆う白い帽子をかぶっていた。

 それだけだと人間のようだが、大きなふさふさとした尻尾が生えている。その時は狼の尻尾かなと思ったが、犬の尻尾らしい。しかし、白い帽子の中には狼の耳が隠されているのだから紛らわしい。


「君たちは?」

「私たちはキキーモラという妖精です。この場所に惹かれてやって来ました」

「……どういうこと?」

「私たちは家事をするのが生きがいなのですが、モンスターであるために人間からは敬遠されることが多くて……」


 妖精は人間に受け入れられているモンスターと言える。キキーモラのように家事をする妖精は人気があると思われるが、王都のように人間が多い場所ではモンスターに偏見を抱く人間も多く、そういった人間が近くにいると、妖精といえども家の中にずっと住まわせることをためらう人間が多い。無駄に衝突を起こすことは避けたいのが人情というものだ。

 このキキーモラたちは安住の地を求めて各地を渡り歩いていたようだ。グールが死体に敏感なように、彼女たちは家事の気配に敏感だとか。いや、そんなアホな話があるかと思ったが、実際にやって来たわけで。

 俺としても渡りに船であり、喜んで彼女たちを迎え入れた。今思えば、関係者以外で屋敷を訪れた最初の人、いや、モンスター娘ということになるな。


 七人しかいないが、それでも一人一人の家事能力は非常に高く、建物の掃除、園内の掃除、食事処の料理人を軽々とこなしてくれる。ただし、園内の掃除に関しては広いこともあり一日で全部をやるのは無理だ。俺の方針として、たとえ彼女たちが求めたとしても、きちんと休日と休憩時間は確保させるしね。

 園内に関しては大きなゴミなどを片付けるのは他のモンスター娘にもできるから深刻な問題ではない。とはいえ、なるべく早く掃除できるモンスター娘を増やしたい。できれば庭師も欲しいな。


 このようにグローパラスで大きな役割を担っているキキーモラは、実は今のところ園内唯一の妖精である。妖精は種族が多く、さらに一部の妖精は人間と交流を持っているのにもかかわらず、どうにもこれまで他の妖精と会う縁がなかった。

 そんなわけで、妖精のことを聞くとなると、キキーモラに聞くのが一番ということになる。




「ご主人様、話とは一体何でしょうか?」


 俺はキキーモラの中でもリーダー的存在になっているエレナに話を聞くことにした。グローパラスを訪れたときに俺と交渉をしたのがエレナであり、今では俺の屋敷の家事を主に担当している。学院長が屋敷を訪れた時は別の仕事があって留守にしていたのだが、そのことを悔やむほど仕事熱心だ。

 俺はエレナに転移魔法の使い手を探していて、魔法に長けた妖精について心当たりがないかどうか聞いてみた。


「魔法に長けた妖精ですか。それなら、ティターニア様になりますね」


 これはまた大物の名前が出てきた。


「まさか、妖精の女王?」

「妖精全体の女王というわけではありません。妖精界の女王です」

「え? どういうこと?」


 それから、キキーモラは妖精界について話してくれた。

 妖精たちの中でも特に魔力が強い妖精は、自然が多い場所に蓄積される魔力を利用することで地上とは異なる世界を生み出すことができるらしい。そうした世界を妖精界と呼び、その妖精界を生み出すことに成功した妖精は、その妖精界を統べる女王としてティターニアと呼ばれるようになるそうだ。つまり、ティターニアは種族名ではなく称号といったところか。ハイ・スライムと似たような感じだな。

 一つの世界を生み出すほどの力だ。空間に干渉する魔法に長けているだろう。それならば、強力な転移魔法も使えるのではないかというのがエレナの考えで、俺もそれには同意だ。


「ってことは、妖精界は一つじゃないってことか」

「その通りです。この世界にどれだけの数の妖精界があるかは私も知りません」

「エレナは妖精界に行ったことってある?」

「いえ。私は人間の近くにいることがほとんどですから」


 妖精たちも家事が苦手なのがいそうな気がするが、キキーモラとしては人間の住む家で家事をすることの方がよかったりするのだろうか。

 それはともかく、ティターニアと話をしたい。そのためには妖精界を訪れる必要があるが、一体どこに妖精界があるのだろう。


「妖精はいたずら好きが多いですが、いたずらされることは嫌います」


 最悪だな、おい。まあ、分かるっちゃあ分かるが。


「それに臆病でもあるため、自分の姿を見せることはあまりありませんし、ましてや自分の住む場所を妖精以外に知られることは好みません」

「確かにこちらから探しても見つからなかったなあ、妖精は」


 俺とティナが協力して探してもそれらしい反応がなかった。妖精自体、隠れることが得意なのかもしれないな。


「ティターニア様に会うとなると妖精界に行く必要がありますが、あいにく妖精界の場所を私は知りません。妖精界に行ったことのある妖精はそれほど多くありませんので、私以外の六人に聞いても同じでしょう」


 妖精界と言うぐらいだから、どの妖精も自由に出入りすることができるかと思ったんだけどなあ。妖精界の場所が分からなければ手のうちようがない。


「ただ、妖精界の場所を知っているかもしれない妖精の心当たりはあります」

「本当か!?」

「はい。北の森の奥にある湖に住んでいるヴィヴィアンならば何か知っているかもしれません。彼女は非常に博識なので」


 ヴィヴィアン……アーサー王伝説に出てくる湖の乙女だな。そんなのもいるとは驚きだ。まさか円卓の騎士もモンスター娘として存在したりしないだろうな。

 だが、これで次の目標が決まったな。北の森の湖に行き、ヴィヴィアンに会って妖精界の場所を知っているかどうか聞く……!


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