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モン娘えぼりゅーしょん!  作者: 氷雨☆ひで
ストーリーその2 一章 スカウトの日々
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044 ロール!

 ラーナのお告げを聞いた日の翌日、俺は次はどんなモンスター娘を勧誘するべきか方針を考えていた。

 やはり、園の目玉的存在になるモンスター娘になることが望ましい。

 真っ先に思いつくとなると、やはりドラゴンだ。ただ、この世界のドラゴンは古代種という存在でモンスターというカテゴリーからは外れるかもしれない。そもそもどこにいるのやら。

 そうなると、今は外見にインパクトのあるモンスター娘を増やすのが先決だろうか。やはり、見た瞬間に「ああ、モンスターだ」と分かるようなモンスター娘は多い方がいい。実際、スライムやハーピー、ケンタウロスなどは、初めて見る人間にとってはもちろんのこと、何度見ても興味深いものだ。

 もしくは、何かしらの得意分野があるモンスター娘もいい。アルラウネは女性からは人気が高い。売りになる技能があるモンスター娘があと何種類かいたら、施設の幅が広がるな


 うーん、いまいち考えがまとまらない。散歩でもして気分転換するか。

 そして、今日はどんなルートで散歩しようか考えながら庭に出たら、目の前にモンスター娘がいた。

 上半身は人間の美女だ。二十代前半ぐらいで、腰まである黒いロングヘアーが目につく。そして、目鼻立ちがしっかりといた顔立ちからは、どこか人間離れした妖艶な雰囲気を感じる。いや、人間じゃないから人間離れという表現はおかしいが。特徴的なのは下半身で、腰から下は蛇だ。灰青色の鱗を持つ蛇部分は六メートルぐらいあるのではないだろうか。


「ラミア……」


 モンスター娘といえば真っ先に名前を上げる人がそれなりにいるほど有名だ。モンスター娘好きとしては、こうして実際に目の前にすると感慨深いものがある。

 しかし、どうしてここに……。


「あなたがリューイチ? ハーピーたちを一部ここに移住させた」


 うん? なんか怒ってる? 声に微かに怒気が含まれている。

 そのラミアはこっちに向かって音もなく近づいてくると、俺の体に下半身の蛇の部分を巻きつけてきた。え? え?


「あんたのせいで、私たちはちょっと困ってるのよ」


 ラミアがゆっくりと俺の体を締め上げてくる。こ、これが、噂に聞くロールミーというやつか! いや、ロールミーはおねだりのかけ声だから違うな。単に巻きつきと言えばいいのかな。

 おお、このラミアは蛇部分が結構長いから、足から腰までしっかり巻きつかれている。長ズボンなのが残念だが、手で蛇の部分を触れるとほんのりと冷たく鱗の感触を感じられる。

 って、少しずつ締め上げられてきているな。普通の人間だったら恐怖を感じるレベルかもしれない。


「困っている理由を聞かせてほしいな」

「あら、全然怖がらないわね。表情一つ変えないなんて初めてよ」

「本気で締めてないのが分かるからね。もしラミアが本気を出して締め上げたら、人間はひとたまりもない」


 まあ、俺ならたぶん耐えられると思うが。とはいえ、試したくはない。


「むー、つまらないわね。ちょっと本気で締めてやろうかしら」

「つまらないとかでそんなことされても困るな」


 そのとき、砂場の方からサンディが顔を出した。


「こらー! リューイチをいじめたらダメー!」


 ポンッという感じで砂場から飛び出してきたサンディは、地面に着地すると上半身の人間の手の腕力と、イモムシの胴体部分をもぞもぞ動かすことでえっちらおっちらとこちらに向かってくる。


「リューイチ! 今いくからねー!」


 もぞもぞもぞもぞ


 やっぱり地上の移動は苦手なんだなあ。当のサンディは実に真剣な表情だ。眉が逆ハの字になってキリッとしている。


 もぞもぞもぞもぞ


「何あの可愛い生き物」


 ラミアが顔を赤らめてサンディを見つめる。いつしか俺の拘束は解けていた。

 ……もっと締められたかったなんて思ってないよ!


「サンドワームのサンディだ」

「え!? サンドワームってものすごく大きいモンスターじゃなかった!?」


 ラミアが声を裏返すほど驚いている。いや、見た目的にも子供って可能性もあるだろうに。それとも子供の時から大きいモンスターで、そのことをラミアは知っていたりするのだろうか。


「俺の魔法で小さくした。体が大きくていつも空腹に悩まされていたんだ」

「なるほど……。ハーピーの話を聞いた時は、実際に変化した翼と手を見ても、そんな便利な魔法が本当にあるのか半信半疑だったけど……」


 もぞもぞもぞもぞ


「あんな可愛い生き物を生み出せるんだから、何はともあれ偉いわ」


 ラミアは親指をグっと立てると、待ちきれなくなったのかサンディの方へするすると移動すると、サンディを持ち上げてぎゅうっ抱きしめた。


「可愛い-! なにこれ、イモムシ部分がぷよぷよで気持ちいいー! うわ、もういつまでも抱きしめていたいかも!」

「な、な、な、何ー?」


 漫画だったら周囲にハートマークを撒き散らしているようないい笑顔でサンディを頬ずりするラミアに、サンディは目を白黒させてばたばたと暴れる。


「リューイチー、たーすーけーてー!」


 俺はため息をつくと、ラミアの頭にチョップを入れた。テンパっているサンディを見るのは珍しくてもっと見ていたかったが、放置するとたぶん機嫌が悪くなる。一度機嫌を損ねると砂場からなかなか出てこなくなって大変だからなあ。


「はい、救出」

「助かったぞー」


 俺はラミアからサンディを取り上げると、サンディを背負う。サンディは慣れたもので、俺の肩から手を前に回して、胴体部分は俺の背中から右横腹を巻きつけるようにする。目の前にきた胴体部分を両手でお姫様抱っこのような感じで支えるのが定番だ。


「とりあえず、詳しい話を聞きたいから中に入ってくれ」


 いい笑顔を浮かべてつんつんとサンディをつつくラミアに俺はそう声をかけた。この時点で、なんかもう深刻な雰囲気はどこかへ消えてしまった。




「私はラミアのアメリア。この前あなたが進化させたハーピーたちの近くに住んでいるラミアたちを代表してやってきたわ」


 なんと、あの近くにラミアが集団で暮らしていたのか。


「目的は?」

「まずは愚痴ね。私たちはハーピーと交流を持っていて、定期的に無精卵をもらっていたのに、何人かがここに移住したことでもらえる量が減ったのよ」


 えー? 本当に愚痴レベルだなあ。


「卵って……丸呑みにするの?」

「私たちを蛇女と一緒にしないで! 丸呑みなんてするわけないじゃない!」

「そ、そうなの?」


 いや、下半身蛇だし、なんとなくそんなイメージが。


「私たちは下半身は蛇かもしれないけど、蛇のモンスターじゃないからね。卵を食べるときはきちんと調理するし、そもそも卵は人間に売って金にするためにもらっているのよ」


 ああ、そういえば、ラミアは元々人間の姿をしていたけど、女神の嫉妬で怪物に変えられたんだっけ。蛇要素は後からついたから、基本的には人間に近いモンスターなのかもしれない。

 よく考えたら、そのラミアってのは怪物に変えられた個人の名前であって、種族名じゃないよな。モンスター娘的には、ラミアという種族があることになっているけど。ハーピーだって、元は女神だったのが、他民族に征服されたことで怪物に貶められたんだったっけ。

 しかし、この世界ではラミアやハーピーは種族として存在している。

 ……なんでだろう。異世界といっても、魔法やモンスターなどが実在するということ以外は基本的に地球と何ら変わらないよな。異世界のお約束と言えばそれまでだけどさ。


「私たちは人化の魔法を使えるからね。人間にまぎれて物を売買しているのよ。そして、ハーピーから卵をもらうかわりに、服とか日用品をハーピーにかわって買っているわけ」


 なるほど、ギブアンドテイクか。ハーピーがどこから服を入手しているか疑問だったが、そういうルートがあったのね。


「もらえる無精卵が減ると、私たち一人あたりが受け取る金の配分が少なくなるのよ。愚痴を言いたくもなるわ」

「いや、そんなこと言われても……」

「まあ、本当にただの愚痴だからそこまで気にしていないんだけどさ」

「気にしていないならいいじゃん!」


 うーん、結局このラミア……アメリアは何のために来たんだ?


「私が来た目的は、あなたの進化魔法よ。すごい力があるなら、私たちにもぜひ使ってほしいの」

「なるほど、俺の魔法が目当てってことか。まあ、俺の魔法はモンスターのためにあるものだから、協力するのはかまわないよ」

「本当!? 話が分かるぅ!」


 にこにこと笑いながらバシバシと俺の背中を叩く。美人なのに、なんかノリが軽くてもったいないな。


「私たちのこの下半身、蛇の部分って地味なのよね。それなのにさ、蛇女は綺麗な色ばかりでむかつくのよ! それを鼻にかけて、ラミアなんて芋臭いのよって馬鹿にして……おのれ、どうしてくれよう」


 やばい、バックに炎がメラメラと燃えるぐらいに怒っている。女のこういう怒りには近づきたくないんだけどなあ。


「あいつら、元々はただでかいだけの蛇だったくせに、二百年ぐらい前だっけ? なんか世の中のモンスターたちが一斉に女ばかりになったときに私たちみたいに上半身が人間の姿になってさ。それで妙な自信つけて、自分たちの色がちょっとばかり派手で綺麗なのが多いから……ああもう!」

「つ、つまり、肌の色、いや、鱗の色かな? それを変えたいと」

「そう!」


 えー、ただ綺麗になりたいだけ? ペンキとか何かしら塗料を塗ればいいんじゃないかな。どうすりゃいいんだよ……。

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