第92話 どエルフさんと感動の再会
「ふぅ、強敵だった。ドエルフスキー、悪党ながらになかなに侮れぬ強敵であった」
「はいはい、どうせ侮れないのはエルフうんちくなんでしょ」
それより、やっちゃたの、それ、と、エルフがおっかなびっくりに視線を倒れたドワーフへと向ける。
肌の上から剣でなで斬りにされたのだ、普通ならば生きていないだろう。
しかし、剣で切られたというのに、ドワーフの体には切り傷の一つもない。
「ドワーフ族は丈夫な一族だという。打撃を打ち込んだ感触はあったが、おそらく、その肌を滑っただけだろう」
「じゃぁ」
「心配するな。俺の必殺技だぞ。今までだってなんども、刃の通らないドラゴン系のモンスターを失神させてきたのを君もみているだろう」
その時、ドワーフの胸が突然に大きく動いた。
彼の体が跳ね上がるようにして弓なりになる。
「カッ、ガハァッ!?」
「うわぁっ!! まだ、生きてるんだぞ!!」
たくましいかなドワーフの生命力。男ドワーフは息を吹き返すと体を起こそうと、背中に手を回した、が、しかし。
「いでっ!! いでででっ!! ぢくしょう、世界が揺れる」
「無理をするな。剣で脳天から斬られたんだぞ。生きてるだけですごいってもんだ」
「――くそっ、殺せっ!!」
「残念ながら男がその言葉を言っても需要ないわよ」
既にドワーフに戦う体力がないことは明白だった。
女エルフが拘束魔法により、ドワーフの体を戒めて、ついに戦闘は完全に終了した。
死屍累々と倒れるドワーフの仲間たち。それを眺めてドワーフが涙を浮かべる。
「くっ!! チッチル、バブリー、お前ら、すまねえぇ!! 俺がふがいないばかりに!!」
「だったら最初からこんな悪事を働かなければよかっただろう」
「どこか山奥の村で静かに暮らすとか、いろいろとやりようはあったのでは」
「なんだぞ」
うるさい、お前らに何が分かるってんだ、と、嘆くドワーフ。
そこへ肩を怒らして少年勇者がやって来た。
「おい、ドワーフ、ララはどこにやったんだ!! 今すぐ出せ!!」
「あぁ、こら、ちょっとアレックスくん」
「なんだてめぇ、あの娘の主人か何かか」
「違う!! ララは俺の、俺の――大切な!!」
アレックス、と、洞窟の中に少女のか細い声が響いた。
それは行き止まりと思われた洞穴の壁。その一部、戦士と同じくらいの背丈をした岩が立っているその陰から聞こえてきた。
月明かりの中に、その岩陰からひょこりと姿を現したのは、暗黒騎士の相棒であるローブの女。
そして、もう一人。
彼女に手を引かれて隣に立っている、さらわれたエルフの少女だった。
「ララ!!」
「アレックス!!」
どちらともなく駆けだした二人。
青白い月の光が降り注ぐ中、砂を蹴ってお互いに向かって走り寄っていく。
よかったわね、と、女エルフが少し涙ぐんだ。
と、その横で――。
「シュラト!!」
「ティト!!」
アホ二人が、少年勇者と少女エルフを真似したように、いきなり駆けだした。
少年と大人では、それは当然足の速さも違う。
感動的に掛け合う少年少女よりも早く合流した二人は、ひし、と、男同士で抱き合うと、涙を流したのだった。
「来てくれると思っていたぞ、シュラト!!」
「ふっ、間に合ってよかった。お前こそ見事な戦いだったぞ、ティト!!」
「お前が剣を貸してくれたからだ」
「では、俺たち二人の友情の勝利ということにしておこう」
はっはっは、と、笑いあう二人。
少年少女の感動の再会――その場面がしらけてしまうやり取りに、怒りをあらわにしたのは女エルフであった。
「だからそういうのは、よそでやってって、言ってんでしょうが!!」
よっぽど我慢していたのだろう。
ドエルフスキーが捕まり、ララが帰って来た今、何も遠慮のいらなくなった女エルフは、特大の火炎球をバカな男たちに向かって放ったのだった。




