表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第一部第六章 エルフさらいの悪漢ドワーフ
88/814

第88話 どエルフさんとそれでも構わない

「けけ、結婚しよう!! すぐに挙式だ!! 海の見える教会で、花のブーケを作ってワシと二人で大テントウムシのマンボを踊ろう!!」


【モンスター 大テントウムシ: 人の頭大のテントウムシ。攻撃能力はほとんどないが、飛んでこられると精神的ダメージが大きい。大テントウムシのマンボは、そんなモンスターに襲われた人間のあわてぶりを表現したコミカルなダンス】


 もうすっかりとその気になってしまったらしいドワーフ。

 女装した男戦士の手を握りしめると、鼻を鳴らしてそんなことを言った。


 鼻息を吹きかけられた男戦士。

 どうしたものかな、と、助けを求める視線を女エルフに送ったが――。


「あん、なに助け求めてんのよ。策があってここまで来たんじゃないの」


 エルフとしての尊厳を傷つけられて自暴自棄になってしまた女エルフは、そんな視線に殺意のこもった表情で応えた。

 うぅむ、と、男戦士が唸る。


 当初の男戦士の予定では、なんとかエルフさらいの間合いに近づいて、そこから不意打ちをくらわして戦闘に入る予定であった。

 しかし、その不意打ちをかますには、あまりに懐に入りすぎた。


 どのタイミングで切り出せばいいかわからない。


「子供は何人がいいかな!! エルフ族はそんなに子供を作らないっていうけど、ドワーフは多産だからな!! あぁけど、俺様は女の子に優しいんだ、君が嫌だというのならそれでも――」

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってくれ!!」


 女声をやめて男戦士が言う。

 突然変わった声色には、流石にドワーフも異変に気が付いた。


 こうなっては仕方ない。観念して、そして不意打ちのチャンスを捨てて、男戦士は胸のパッドをそっと取り出した。


「ま、まさかお前――」

「見ての通りだ。この通り、俺は女ではない――」


 そんな、と、うろたえて、半歩後ろに下がったドワーフ。

 その驚き様(リアクション)はなんだ、と、ツッコミたい女エルフではあったが。この後控えている、戦いに向けて、あえて黙っていることにした。


 しかし。


「男、男だというの、お前は――」

「そうだ。残念ながら、男ではお前の気持ちに――お嫁さんになってやることはできない」


「――だが、だが。たとえ男でも、それでもよし!!」


 どうして、ドワーフはぐっと後ろ足で踏みとどまると、再び前へと出て、男戦士の手を握りしめた。

 えぇっ、と、予想外に見せたドワーフの男気に頬を赤らめる男戦士。

 そしてまたずっこける女三人。


「たとえ男エルフだとしても、お前のように女エルフに理解がある男エルフなら、俺はお前を愛せる、そう思ったんだ」

「ドエルフスキー」


 揺れる男心。

 しかし、そんな男戦士の背中に刺すような視線が飛んだ。

 今更いうまでもなく、女エルフのものである。なにやってんだよお前、という塩梅のそれに突き動かされて、男戦士ははっと我に返った。


「いや、違うんだ、ドエルフスキー。まだ、俺には隠していることがあるんだ」

「なんだって!!」

「驚かないでほしい、実は俺はエルフでもないんだ――」


 そういって、男戦士は、自分の耳にかぶせていた、肌色のキャップ(誰でもエルフ耳5G:エルフ専門店おやじの店で専売中)を取って見せた。


 エルフですらない。

 その衝撃にまた、ドワーフは戦慄した。


 よろりよろりと今度は数歩下がり、あげく、その場に尻をつく。


 今度こそチャンスだ、そう思って女エルフが杖を握りしめる。

 男戦士が女装していた服を破る。服の中、黒いインナースーツと共に現れたのは、その背中に結わえられているロングソード。

 胸前に回っているベルトを外してそれを取り外すと、彼は鞘を捨ててその切っ先をドワーフへと向ける。


 しかし。


「――だが、いい!! それでも、俺はお前を愛している!!」

「――ど、ドエルフスキー!?」


「確かにお前はまがい物のエルフだったかもしれない!! しかし、しかしだ、俺の前に現れたとき、確かに俺はお前のことを世界一の美エルフだと感じたのだ!! この気持ちに偽りはない!!」

「ドエルフスキー!!」


「そこまで俺に思わせた、お前のエルフへの愛、情熱!! 俺はそれを愛している!! お前を愛することができる――」


「はい、お前ら、そこまでにしろよ。収集つかなくなるからなぁ」


 もう今にも二人熱い抱擁をしようかという感じに、感極まって見つめあう男戦士とドワーフの間に、無情にも女戦士が割り込んだのだった。

 当然、額に特大の青筋をたてて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ