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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第一部第六章 エルフさらいの悪漢ドワーフ
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第86話 どエルフさんとドエルフスキー

 やがて一行は洞窟の行き止まりへとたどりついた。


 天井にぽっかりと大きな穴が開き、月の光が入り込んでいるそこ。

 地面には月光を浴びて青く輝く砂が満ちていた。


 縦に筋が入った岩肌の壁にぐるりと覆われたその、洞窟いきどまりの中央。

 そこに、なるほど洞窟にしては不釣り合いな、大きな大きな玉座が置かれていた。


 その前にはなぜだか、その玉座の半分くらいの背丈の、大きな樽が置かれている。


「んがぁっ!! 親分!! 二番組組頭のバブリー、ただいま戻りましたんだなぁ!!」

「バブリー!? おまえ、大丈夫だったんだにぃ!!」


 聞き覚えのある声と共に月明かりの元振り返ったのは、のっぽのダークエルフ。

 そいつは、女エルフの顔を見ると、すぐにぎょっと目を剥いた。


「ばばば、バブリー。なんでその女を連れてきてるんだにぃ。というか、なんだにぃそいつら」

「んがぁ!! 聞いてくれチッチル。こいつら話の分かる奴だったんだァ」

「話の分かる奴ら、だにぃ?」

「んがぁ!! なんと、親分とお見合いしたいっていうエルフがいるって、紹介してくれたんだァ!! そいで、オラぁ、さっそくそのエルフを、親分に会わせようと連れてきたんだァ!!」


 お前、何を言ってるんだ、と、拳を振り上げて飛び上がるダークエルフ。

 そんなの罠に決まっているじゃないか、と、彼が視線を男戦士に向けた時だ。


「――ハァッ!? て、天使がいるにぃ!!」


 どきゅーんか、はたまた、ずきゅーんか。

 そんな擬音が似合いそうな感じに胸のあたりを抑えて、ダークエルフがときめいた声をあげた。


 そんな様子に、女エルフがあぁんという声をあげそうになったが、咄嗟に女修道士シスターが口をふさいでことなきをえた。


「お風呂にする、食事にする、ベッドにする――全部アタシがついてくるけどね!! アタシが熟れに熟れた熟女エルフ!! エルフィンガー・ティト子よぉおおおお!!」

「にぃいぃいぃ!! すごいエルフ力にぃ!! ここ、これは、恋してしまうにぃいぃ!!」


 顔を覆ってそっぽを向いたダークエルフに、ふふっ、と意味の分からぬ勝ち誇った顔を向ける男戦士。

 その時だ。


「ほぉう、俺様とお見合いしたいエルフだってぇ?」


 洞窟中に響き渡りそうな、とても重たくそして冷たい声が、突然に男戦士たちの耳へと届いた。

 目の前で繰り広げられるコテコテのコメディに、辟易としていた女エルフたちの顔が一瞬でひきしまる。


 しかし。


「おかしい。さっきの声は、いったいどこから聞こえてきたの」

「それらしい人影が見当たりませんね」

「どうなってるんだぞ。声はすれども姿は見えないんだぞ――」


 ハーフオークとダークエルフに聞こえないように、声をひそめて話し合う女エルフたち。

 そんな中で、エルフさらいの子分たちは、ひぃ、と、情けない声をあげてその場にひれ伏した。


「親分、すすす、すいやせん、ついはしゃいじまってにぃ」

「んがぁ!! 親分!! はやく親分も近くでみてやってくほしいんだァ!!」

「そうせかすなよバブリー。ふふっ、どれどれ、お前さんがそこまで入れ込むとは、いったいどんな美エルフかねぇ――」


 相変わらず、動くものがないと思われた、その洞窟の中。

 そこで、きらり、と、何かが一瞬光るのを、ワンコ教授の目がとらえた。


「あっ、みんな、見るんだぞ!! 玉座の前を!!」


 思わず叫ぶワンコ教授。その指先が、捉えていたのは――。


「ふふっ!! このドワーフの中のドワーフにして、大のエルフマニア、ドエルフスキー様の嫁になりたいとは!! なかなか気骨のある女だな!!」


 玉座の前に置かれていた樽。

 しかし、それは樽ではなく、大きな大きな、なめし皮と鉄で作られた鎧であった。


 そこからひょっこりと顔を出したのは、つるりと禿げた頭に、ふっさふっさのひげを蓄えた、横に大きく縦に小さい筋肉質な男。


「嘘でしょ、なんでドワーフが?」

「エルフ好きのドワーフ?」

「おかしいんだぞ。エルフとドワーフは犬猿の仲で有名なのに!!」


 口々に疑念を呈する中、男戦士の前へと歩み出たのは間違いない。

 エルフと並ぶファンタジー種族の代表格、ドワーフ男であった。

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