第83話 どエルフさんと審美眼
男戦士扮する、熟女エルフの絶叫が響き渡る。
再び、場所は街はずれの公会堂。
縄を解かれたハーフオークの前で、そんな挨拶をしてみせた男戦士。
案の定、その場には妙な沈黙が流れていた。
「――ほら、だからやめとけって言ったじゃない。完全に放心しちゃってんじゃないの、オークなのに」
「まぁ、ショッキングな光景ですからね。思わず神に祈りたくなるほどに」
「夢に出てきそうなんだぞ」
ハーフオークを逃がさないようにと、公会堂で見張っていた女騎士とその少年従士など、顔を見るなり泡を吹いて倒れたくらいである。
まともな神経をしていたら、この目の前の化け物にめまいを覚えるのはしかたのないことだろう。
しかし。
「――な、なんて綺麗なエルフなんだァ。ふんがぁっ!! オラ、興奮しちまっただァ!!」
はたしてこのハーフオークの目がどうかしているのか。
それとも、世にいうエルフ好きを自任する奴らの美意識というのがどうかしているのか。
だとして彼らが好いているエルフという存在は、自分のよく知っている存在と本当に同じなのか。
エルフという存在が、自分自身でもなんだか分からなくなってくる感覚に、女エルフは頭を抑えたのだった。
「んふっ、かわいいオークさん。それで、アタクシに会いたい親分さんっていうのは、どこに居るの?」
「んがぁっ!! すぐに案内するんだなぁ!! あんたのような別嬪さんなら、きっと親分もよろこんでくれるんだなぁ!!」
「んふふっ、待ち遠しいわぁ。恋しすぎてなんだか体の芯がジュンってなる感じよ。そう、ジュンってね」
やめろ、これ以上、エルフの品位を地に落としてくれるな。
今すぐ叫んでとびかかりそうになるのを、女修道士とワンコ教授に抑えられて、女エルフはなんとか耐えたのだった。
「すごいんだなぁ、あんたみたいなどエルフな人、オラ、初めて見るだ」
「ふふっ、まぁアタクシの場合、身近に手本となるのどエルフが居たからな――ね。その目標となるどエルフがいたからこそ、アタクシもここまでのどエルフになれたというものよ」
「すごいんだなぁ。そんだけの美人なのに、謙虚なんだなぁ。流石なんだなぁ」
「ふふっ、その言葉、伝えておくわ、私の師匠のどエルフに」
ちらりとこちらを見る男戦士の視線に、女エルフは本気で顔をひきつらせたのだった。
「んがぁ!! 流石だなどエルフさん、さすがなんだなぁっ!!」




